改行による2パターンとなっています。最初は整形なしの素です。 ブラウザでご覧の方は、『ctrlキー+F』を押して出た検索窓に整形と入力して飛んでください。  「無じる真√N22」  袁紹軍、その本隊は文醜や呂布軍とは少し離れた位置に向かって進軍していた。  行軍中の本隊、その後方にいる袁紹は、先程から辺りをきょろきょろと見回しながら首を傾げている。その様子を見て、これから何をしようとしているかをまだ袁紹に説明していないことを思い出した。そして、袁紹に声を掛けようと近づくことにした。  当の袁紹は、少し悩んだ挙げ句、ちょうど袁紹へ近寄った顔良に向けて視線を投げかけてきた。 「こんな、戦場と離れたところで一体、どうするつもりですの顔良さん?」  その言葉に待っていましたとばかりに顔良は答える。 「はい、この辺りから易京城の攻略を開始しようと思います」  そう言うのと同時に、袁紹にもよく見えるよう竹簡を開いてみせる。 「……なになに……えぇと、ふ、ふんおんでよかったかしら? そう……轒轀車……これを使うって事なんですの?」  そう言って、先程から隊の中に混じっている中身が無い車を見る袁紹。 「えぇ、これを設置して兵たちの守りとした後、轒轀車の中にいる兵たちに地下道を掘ってもらい、易京城の防壁を攻略します」 「本気なんですの? そんなみみっちい作戦を行うなんて」  袁紹が眉をひそめて顔良を見る。  あれ、これはまずいんじゃ……そんな考えが脳裏を過ぎりつつも顔良は袁紹へ肯定を意味する返答をした。 「もちろんですよ。文ちゃんに敵の注意を引きつけてもらってるのだって、轒轀車を使用する兵たちへの攻撃を少しでも減らそうと思ってのことなんですから」 「わたくし、絶対、ぜぇったぁいに嫌ですわよ! こんなやり方!」  不機嫌そうな様子から、ついに憤慨してしまった袁紹が声を荒げる。  それに対して顔良が返答する前に袁紹が再び口を開く。 「なんで三公を輩出した程の名門である袁家の精鋭が土にまみれてそんな泥臭いことをせねばなりませんの?」  矢継ぎ早に言うだけ言うと、袁紹はもの凄く不愉快そうな顔で顔良を見つめてくる。  よもや、ここまできて袁紹の口からそのようなことを言われるとは思わなかった顔良は動揺していた。 「そ、そうはいっても、もう他にやりようありませんよぉ」  袁紹のわがままに困り果て、顔良はもう半泣き状態になっていた。  そんな顔良の様子を気にすることもなく袁紹は説教を始めた。 「そもそも、わたくしたちの戦いは何時如何なる時でも、優雅に華麗に勇ましく、そうあるべきだと何度も教えたはずですわ!」 「でもぉ……」  何とか反論しようと顔良が一生懸命振り絞った声は、どうしようという彼女の思いに反応しているかのように震えていた。 「と、に、か、く! そんな地面を掘って敵の城壁を破るなんて策、我が袁紹軍には不要な選択肢ですわ!」  はっきりと断言する袁紹に何か言わなければと顔良が口を開こうとする。が、 「さぁ、さっさと文醜さんに合流しますわよ!」  顔良が袁紹を諫めるのよりも先に袁紹が兵たちへと号令を掛けてしまった。  兵たちは多少戸惑う様子を見せたが文醜がいるであろう方向へと進み始めた。 「そ、そんなぁ、麗羽さまー」 「おーほっほっほ! さぁさぁ、一刻も早く進むのですわ!」  もう、顔良には袁紹の後ろをとぼとぼと進むことしかできなかった。 「はぁ、どうしよう……ほんとうにどうしよう」  顔良の呟きは、空気へと虚しく溶けていき、風に飛ばされていった。  それぞれ別の旗を掲げた騎馬隊が三つ集まっていた。彼らは皆、沈黙している。そんな中、誰かの嗚咽だけが聞こえている。  その声は霞のものだった。両手を地につきがっくりと項垂れている。 「うぅ……一刀ぉ。すまん、ウチのせいや……護るなんて偉そうなこと言うたくせに結局はそれを全う出来へんかった……くっ」  そう呟く霞の瞳から、まるで湧き出でる泉のように滴があふれ続けては大地に滴り落ち続けている。  そんな時、場違いな声が辺りに響き渡った。 「あはは、や、やめろって。くすぐったい! うわっ、お、おい」 「へ? か、一刀……?」  その声を聞き間違えるはずがない。  紛れもなく、天の御使いと言われる北郷一刀、その人であった。 「い、一体どう言うことや……」  未だ視界は霞んでいるため、輪郭でしか姿を確認できないが一刀は確かに悶えているように見える。 「うぉっ、こら、そんなにじゃれつくなって!」 「わんわんっ!」  よく見れば、一刀の上でもう一つの影が蠢いている。 「…………セキト?」  呂布が、驚いたのかどうかもよくわからないほど抑揚のない口調でそう呟いた。  ただ、呂布が一刀に向かって方天戟を振り下ろそうとしたままの姿勢で静止してしまっていることが彼女の動揺がいかほどのものであるのか、よく表している。 「セキトやったんかぁ……人騒がせなやっちゃ……はぁ」  一刀が討たれた、そう思い込み晒してしまった自分の醜態を想い、霞は顔をあからめ、一生の恥だと言わんばかりにため息を吐いた。  そして、全身の力が抜けていくのを感じながら霞は、セキトらしき影を凝視した。  セキト――先程から一刀に纏わり付いている一つの影、もとい一匹の犬――を霞は以前から知っていた。  セキトというのは、呂布の大切な家族であり、また友人とも言える彼女の愛犬である。  霞自身も、洛陽にいた頃にセキトとは何度も接したことがあった。 「わふぅ!」 「……セキト……どいて」  一刀にじゃれついて離れる様子を見せないセキトに呆然としていた呂布が、一刀の斬首を邪魔されたことを思い出し、セキトへ語りかける。  だが、とくに聞こえた素振りも見せずセキトは一刀にじゃれつき続けている。 「わんわん……くぅん? くぅーん」 「…………セキト?」  呂布のお叱りを聞き流してまで一刀にじゃれついていたセキトが、妙に甘ったるいような、それでいてどこか切なげな声を上げ始めた。 「…………どうしたのセキト?」 「お、おい! 俺の手は餌じゃないぞ!」  先程から手に鼻を押しつけてくるセキトに一刀が悲鳴をあげている。  そんな周囲の反応などお構いなしにセキトは一刀の手に集中している。  そして、そんなセキトの様子を見ていた呂布が首を傾げる。 「…………セキトなんだか懐かしそう…………どうして?」  呂布の言葉を聞いた一刀が目を見開き、何かを思い出したように、あっ、という声を上げた。どうやら、何故セキトがそのような様子を見せているのか、思いあたる節でもあったようだ。  霞がそう思ったのに対して答えるかのように一刀がぽつりと喋りだした。 「そう言えば俺、出陣の際……月の頭……撫で……まさか、いや……でも」  一刀が、ひとりぶつぶつと呟く。  一体、どうしたのだろうとその場にいるセキトを覗く全員の注目が彼に集まる。  そして、踏ん切りがついたのだろう一刀が口を開いた。 「なぁ、俺はこの戦に出る前、月の頭を撫でてきたんだ。もしかしてお前はそれを嗅ぎ分けたのか? だから懐かしいと感じてるのか?」 「…………そうなのセキト?」 「わんっ!」  セキトは一刀と呂布の質問に、その通りとでも言うように元気よく吠えた。 「…………そう、なら月は」  そこで、呂布が一刀の方を恐る恐ると言った様子で見た。動揺しているのか、彼女が握っている方天戟が気持ち揺れているようにも見える。  相変わらずセキトを体に纏わり付かせたままの一刀は、そんな彼女の様子を見ると苦笑を浮かべた。 「あぁ、生きてるよ。今も北平で留守番をしてる」 「………………そう」  それだけ言うと呂布が方天戟を一刀の前から退けた。  そして、いつも以上に聞き取れなさそうな声でぽそぽそと一刀に向かって呟いた。 「……ごめんなさい」 「え? いや、君が謝るべき事なんて無いさ……全部、俺の不始末が引き起こしたことなんだから」  一刀が安心させるような声で呂布に語りかけた。  そして、一刀はいつも霞たちに向けてくれるような笑顔を呂布へ見せた。 「それに、誤解も解けたんだ。それでいいじゃないか――って、うぉぉ、いい加減俺から離れてくれー!」 「わうー!」  呂布が、クスリと笑った。  凄く良い場面のはずだったのに、セキトのじゃれつきによって台無しにされた一刀。  そんな彼の姿を見ている呂布の顔が、気がつけば先程までの緊迫したものから穏やかなものへと変わっていた。 「……さて、ウチも加わるとするか……」  息が整い大分落ち着き、体力も戻りつつある霞は、いい加減仲間はずれなままというのもないな、と思い、飛龍刀を杖代わりにして二人の方へ歩み寄る。 「まったく、どんだけ……ウチの寿命縮めりゃ気が済むんやっ!」 「…………霞」  呂布が、申し訳なさそうに霞の方を見つめてきた。 「あぁっと、一刀がえぇ言うとるんやさかいウチも構へんよ」 「……ありがとう、霞」  呂布の言葉に、相づちを打つと霞は、ことの中心でもある一刀の方を見た。 「うぉ、そんなとこなめるなぁ! ……っとと、心配させてごめん、霞」  笑顔から一転、真剣な表情になって霞を見つめてくる一刀。  今度は距離も近いので霞目となっている霞の瞳でもそんな一刀の様子がよく見えた。  そして、改めて一刀の無事を確認した瞬間、霞の中で緊張の糸が切れた――。 「ほ、ほん…っ…ほんまやで……っ、この馬鹿一刀!」 「!? ちょ、ちょっとやめっ!」  霞の心より先に体が動いていた。  気がつけば、未だ地面に倒れたままの一刀にぼろぼろの体で飛びついていた。  その顔は、彼女の想いを表すようにあふれ出た滴と笑顔とも泣き顔とも言える複雑な表情を浮かべ、くしゃくしゃになっていた。  そんな顔を見られたくない霞は、一刀の胸に顔を埋めた。 「し、霞? どうしたんだよ。なんか、らしくないぞ」  一刀がぬけぬけと放ったその一言が霞の気に障った。そして、先程まで身を裂かれるような思いをし、非常に辛い状態にあった彼女の感情は、大爆発を起こした。 「こぉの、あほぉ! ウチがどんだけ悲しゅう思うたかわからへんのか! どれだけ深い絶望に襲われたと思うとるんや!」  霞は、嗚咽混じりの声でそう言い放ち、未だ完全には力が入りきらない腕で一刀の胸をポカポカと叩き続ける。 「悪かったよ。ほんとごめん」  優しい声でそう語りかけてくる一刀に霞は顔を上げる。  そして、充血し赤くなったウサギのような目で彼を見つめた。 「ほんまか? ほんまにそう思っとるんか?」 「あぁ、ほんとうに悪かったよ、霞」  その言葉と同時に、背中に腕が回された。霞は、たったそれだけで笑みがこぼれてしまう自分に呆れ、ここまで想える相手が居ることを喜ばしく思った。 「そんなら、まぁ、許したってもえぇかな……」 「そうか、ありがっ――んぐっ!?」  何かを言おうとした一刀の口を霞は塞いだ――自分の口で。一刀が目を白黒とさせている。というよりも、霞には一刀の瞳が突然唇を重ねたこと意外の理由で揺れているように感じられた。だが、そんなことなどすぐに吹き飛んでいた。  何故なら、霞の頭の中は閃光が走り真っ白になっていたからだ。  もう、彼女は何も考えられなかった。  時間にすれば十数秒ほどだったが、霞にしてみればとても長い時間だった。  その長い十数秒が経過すると、霞は名残惜しげに一刀の口元から顔を離した。 「ぷはっ、な、何するんだよ、霞」 「ん? そりゃ、許す言うても罰は受けてもらわなあかんやろ」 「…………そ、それはそうだけど」  まだぶつくさと文句を言っている一刀に、霞は表情を緩ませたままニカッといたずらな笑みを浮かべ一刀を見つめた。  すると、一刀がため息を吐き、微笑みを浮かべた。 「まぁ、しょうがない……のかな。俺にしてみれば得なことだったし」  その言葉に霞は、そうそう、と頷き返す。  そして、意地の悪い笑みをつくり一刀を見やった。 「まっ、いまはそんな場合ちゃうからな。せいぜいこれくらいで勘弁しといたる。せやけど、帰ったら覚えとき」  こう言えば、それなりに面白い返しをするだろうと思いながら霞はさらににやりと口元を吊り上げた。 「はいはい……お手柔らかにな」  一刀の反応は、霞が思っていたよりも簡素だった。まるで、他人事として感じているようにも見える一刀の反応は霞にしてみれば寂しいものだった。  もっとも、霞が寂しいと思った理由としては、先程一刀に言った言葉が彼女の本心を多分に含んでいたからという面がそのほとんどを占めていた。  そんな彼女の思いには一片たりとも気づかぬまま一刀が立ち上がる。 「さて……ってどうしたんだ?」  そして一刀は、いつの間にかうつむいていた呂布に気がつき声を掛けた。  結局、顔良は袁紹を説得できなかった。  いや、正確にはしなかった。  地を掘り進むことで城壁を攻略する、という策を高貴な自分たちがそんな泥だらけになる必要などないと言って却下するような人物である袁紹。  そんな彼女を説得できるだけの要素を含んだ策を、今の顔良は一つとして考えつけないでいるのだ。  そんな状態の顔良には袁紹に何かを言うことなど出来なかった。 「でも、このままいっても消耗は激しくなるだろうし……」  そう、このまま攻城戦に入れば仮に敵をうち破っても自軍の被害も相当なものとなる。  顔良は、それを避けたかった。だが、肝心の袁紹の性格を勘定に入れ忘れるという最大 の愚行をおかしてしまったために真っ正面からの攻城戦をすることとなってしまった。 「ようやく、合流できましたわ……あら? どうやら全然上手くいっていないみたいですわね……」  堅固な防壁に悪戦苦闘している呂布軍と罵声を飛ばし続ける文醜隊を見た袁紹が発した言葉がそれだった。  その時、袁紹の声に気づいた文醜が近づいてきた。 「あれ? こんなとこでなにしてるんです麗羽さま?」 「あら、文醜さん。実は、先程この袁本初にふさわしくない戦いを申し出た顔良さんに少しばかりお説教をして、今戻ったところなんですの」 「へ、へぇぇ、そうなんすか」  袁紹にぎこちない返事をした文醜が今度は顔良の方へと歩み寄ってくる。  そして、顔良の体を引き寄せると文醜は小声で話しかけてきた。 「おい、斗詩っ、一体どうなってんだ?」 「そ、それが、私が考えた方法を麗羽さまが嫌がって……」 「うぁ……そういうことか……」  そう言って頭をかく文醜に顔良は申し訳ない気持ちになる。 「ごめんね文ちゃん。せっかく向こうの気を引きつけてもらってたのに……」 「なに気にすんなって。あたいがなんとかしてやるさ!」  そう言って逸らした控えめな胸をどんと拳で打つ文醜。 「文ちゃん……うん、私もやれるだけやってみる!」 「そーこなくっちゃな!」  文醜は、嬉しそうにそう言うと肩を回しながら前線へと向かった。  その後ろを顔良は慌てて追いかけるのだった。 「あ、待ってよ文ちゃんー」  易京城の辺りが先程までよりも騒がしくなっている。  そんなことが頭を過ぎるが、今は目の前のことだ。一刀はそう思い、すぐに意識を目の前の人物へと戻した。 「で、どうしたんだ?」  何故か俯いたままの呂布に一刀は声をかける。 「…………これから、どうしよう」 「それってどういう意味なんだ?」  呂布の言葉の意味するところが分からず一刀は首を傾げる。 「…………もう、目的無くなった」 「あぁ、そうか……これが狙いだったんだもんな」  首をさすりながら一刀は納得したように頷く。  同時に、よく無事だったと冷や汗混じりに思ったりもしていた。 「ならさ、さっきも言ったけど俺たちに協力してくれないかな」 「……協力?」 「あぁ、俺たちがこれから袁紹軍へ奇襲をかけるのを手伝って欲しい」 「…………どうしよう」  先程のように交換条件などなく、明らかに情況が異なるためか、呂布は眉尻を下げて悩み始めてしまった。  その様子が気になった一刀は彼女の思考を中断させるように質問を投げかけた。 「何か問題があるのか?」 「…………待たせてる」 「待たせてる? 一体、何を――」 「あぁ、ねねのことやろ。違うか、恋?」  一刀が再度質問しようとしたのを遮るように呂布へ駆けられた霞の声に呂布は頷いた。 「ん? それって誰?」  ねねという人物に一刀は心当たりがなかった。以前の世界でそのような人物にあったことが無かったからだった。 「あぁ、ねねっていうのは真名や。名前は陳宮って言うんや」 「陳宮! 成る程な……」  その人物の名前を聞いて一刀は納得した。  陳宮と言えば、三国志のなかで最後まで呂布とともにいた軍師――ならば、呂布と一緒にいるのも不思議ではないのだ。 「もしかして、本拠にその人を残してるってことか」 「…………そう」  そう答えた呂布の顔は相変わらず眉尻は下がったままで不安そうだった。  そわそわしている呂布に苦笑しながら、一刀は彼女の頭を撫でた――以前の世界でそうしたように――。 「わかった。無理にとはいわないよ。大切な人と幸せに過ごすのが一番だ」 「…………ありがとう」 「えっ?」 「れ、恋!?」  呂布が感謝の言葉を口から発したのと同時に一筋の透明な線が彼女の瞳から頬、そして顎へと引かれた。 「え、え? な、なんで?」 「ど、どうしたんや、恋?」 「……?」  慌てふためく二人を余所に、不思議そうに首を傾げる呂布。  どうやら、瞳から流れた一粒の滴に彼女自身気づいていないようだ。  その事実を把握した一刀が、一体どういうことだと訝った瞬間。 「ちんきゅーきーーっく!」 「ぬぁっ!」  辺りに響き渡った謎の声、そして気がつけば、一刀は空を飛んでいた。 「あぁ、霞。俺、飛んでる、飛んでるよー」 「あぁ……飛んどる、飛んどるで、一刀」  何故か拳の親指をビッと立てる霞に一刀は同じように返した。  そして、そのすぐ後に一刀の体は地面へと叩きつけられるように落下した。 「い、痛たた……」  一刀は、腰をさすりながら一体何が起きたのか自体の把握に努める。  いつの間にか、薄緑の髪の小さい少女がいた。  少女の着ている黒めのぶかぶかな服が一層彼女の小柄さを引き立てている。  また、それ以外にも額が特徴的だな、と一刀は思ったが口には出さなかった。  そんな風に少女の評価を一刀が心の内でしていると少女が一刀の方へとずかずかと大股で歩み寄ってくる。 「恋殿を泣かすとは不届き千万! 万死に値するのです!」 「…………恋、泣いてた?」  少女の言葉に、呂布が不思議そうに聞き返した。 「えっ、恋殿ご自身は気づいておられなかったのですか?」 「…………」  少女の質問に呂布はただこくりと頷いた。 「え、えぇと……と、とにかくあの男が悪いのです!」 「相変わらずの恋好きやな、ねね」 「おぉ、その声は、霞殿! お久しぶりなのです」 「そうやな、虎牢関で別れて以来やもんなぁ」  互いに挨拶を済ますとしみじみとした空気が辺りに流れ始める。 「あ、あのさぁ……俺、その娘知らないから、一応紹介くらいしてくれないかな?」  とても入れる空気では無い気もしたが、一刀は意を決して声を掛けた。 「あぁ、すまんすまん、忘れ取ったわ」  片手を申し訳ないと言う風に額の前に持ち上げて霞がそう言うと、残りの二人も一刀に気がついた。 「…………大丈夫?」 「あぁ、心配してくれてありがとな」 「恋殿、そんな奴、気にする必要なんてないのです」  一々突っかかるなぁ……などと思いながらも、それだけ呂布を大切に想っているのだろうとも一刀は感じていた。 「ま、まぁ、その辺はえぇとしてや」 「…………俺はよくない」 「えぇとしてや! なんとなく、恋への態度で分かるとは思うけど、さっき言うとった陳宮がこいつや」 「そうか、この娘が陳宮……」  そこで、ふと思い出す。  虎牢関で火の海のなか、呂布とともに去っていった少女がいたことを。  そして、その少女がこの陳宮であったのだと理解した。 「…………ところで、ねね」 「なんですか? 恋殿」 「なんで、ねねがここにおるんや?」 「はっ! わ、忘れていたのです」  陳宮がしまったと言わんばかりに声を張り上げる。  それと同時に、遠くから何台もの車や、何十頭もの馬、そして沢山の兵がぞろぞろと向かってきた。 「…………みんな?」 「じ、実はですね……恋殿」  そこからの陳宮の説明は、いたく単純な話だった。  呂布が、本拠である下邳を離れたことで、脅威がなくなったと判断した袁術が大軍を差し向け攻め込んできたらしい。  そして、陳宮はさすがに勝算が見込めなかったため、やむを得ず、呂布軍の兵、そして呂布の家族とも言える動物たちを連れ、この地まで逃走してきた。とのことだった。 「申し訳ありません……恋殿」 「……別にいい。ねねが無事でよかった」  呂布は、気落ちしている陳宮をそっと抱きしめるとそう答えた。 「……恋殿ぉ」 「…………よしよし」  まるで幼い子供をあやすように陳宮の背中をとんとん、と叩く呂布。  二人を見て、ある種親子みたいだ……と一刀は思った。 「しっかし、どうするんや二人とも……っちゅうか、恋とこの奴らは」 「うぅん、取りあえずはうちで保護するしかないんじゃないか?」  一刀の言葉に、呂布の視線が二人の方へ向けられた。 「…………いいの?」 「ん? そうだな、多分大丈夫だろう」 「まぁ、一刀が頼めば白蓮も嫌とは言えんやろ」  そう言って霞は愉快そうに笑った。一刀はそんな彼女の反応に苦笑するしかなかった。 「まぁ、よろしくな二人とも」 「…………うん、よろしく。ご主人様」 「うぅ……仕方ないのでよろしくしてやるのです」 「おいおい……って、呂布?」  一刀は、陳宮の言葉に顔を引きつらせかけた。  だが、その前の呂布の言葉に違和感を覚えそちらに反応した。 「……恋でいい」 「あ、あぁ……それで、恋。どうしてご主人様?」 「…………恋にとっては、ご主人様がご主人様。ね? セキト」 「わんっ!」  いつの間にか、呂布の隣に陣取っていたセキトがその通り、と言わんばかりに元気よく吠えた。 「そ、そうか……まぁ、恋がそれでいいんなら良いけど」 「れ、恋殿。このような男に真名をお許しになるのですか!」  自分自身、多少の戸惑いはあるわけだが、他人にそう言われるとカチンとくるものだな と一刀は思いつつ苦笑を浮かべながらツッコミを入れようとする。  しかし、呂布の声がそれを遮った。 「……ねねも、ご主人様に真名、預ける」 「そ、そんなぁ……恋殿ぉ」  絶望感ひしめく様子で項垂れる陳宮。  その姿を見て、そこまで嫌か、と内心落ち込みながらも口を開いた。 「駄目だぞ恋。無理強いはよくない」 「…………ダメ?」 「ダメ」 「………………………………わかった」 「わかってないだろ……絶対」  一刀は知っている。呂布が返答するまでに長い空白を開けるのは、本当にそう思っているわけではない時であると。 「そ、それ以上、恋殿を責めるのをやめるのです」 「陳宮?」 「ま、真名をおまえに預けてやるです」 「いいのか?」  念のため、聞き返すが陳宮はただ黙って頷くだけだった。  そして、そのまま陳宮が口を開くのを一刀はただ黙って見守る。 「真名は音々音なのです」 「れれれ?」 「音々音! ね、ね、ね! もし、この説明の後に、ねねねねとか言ったらちんきゅーきっくをおみまいしてやるのです」 「わ、わかった……恋たちみたいに、ねねって呼んでいいか?」  そうしないと、ねねねねねねね、くらいは言ってしまいそうだと思った一刀は無難な提案をする。 「まぁ、それで構わないのです 「よし、それじゃあ、改めてよろしく。恋、ねね」  そう言って二人に笑いかける。  呂布は、ただこくりと頷いた。そして、陳宮もぶつくさと文句を言いながらも、よろしく、と一言だけ答えた。 「さて、一段落ついたし、速いとこ詠たちの援護に行くか」 「ただ、さすがにこんだけの数いると、進む速度に差がでてくる気がするんやけど、どうするんや?」 「そうだなぁ……取りあえず、霞は動物たちや歩きの面々を引き連れてゆっくり戻ってきてくれ」 「えぇー、ウチも行きたい!」  霞が、口をとがらせ不満を露わにする。  しかし、その足取りはおぼつかないとまではいかないものの、やはりしっかりとはしていない。 「あのなぁ、そんなフラフラの状態で何言ってるんだよ。」 「うぅ……わかった。言われた通りにしとくわ」  とぼとぼと退いていく霞の姿に罪悪感を抱いた一刀は、しかたないと行った様子で一言付け加えた。 「まぁ、体力と体調が戻ったら追っかけてくればいいさ」 「わかった。絶対に追いついてみせるからな」  なんとか霞が納得したのを見て、ホッと一息つくと一刀は指示を再会した。 「それじゃあ、張遼隊の内、半分は霞とともに彼らの護衛を頼む。そして、残りは俺と一緒に易京前にいる袁紹軍に急襲をかける」  そう言って、張遼隊を見ると全員がおう、と声を返してきた。 「で、呂布軍に関しては、騎馬隊と恋に一緒に来てもらいたいんだけどいいかな?」 「……大丈夫」 「よし、それじゃあ、歩兵の人たちは俺たちが先に戦闘を開始するから、後からそれに続くようにしてくれ。そっちの指揮はねね。頼む」 「任せろです!」 「あとは……前線にいる呂布軍や詠たちにこの事をどう伝えるかだけど……」  一刀は、どうしたものかと考え込む。  普通に伝令を発してもおそらく間にいる袁紹軍によって足止めを食らうことになる。  ましてや、それが原因で作戦が無に帰すのも避けたいところだと一刀は思っている。  ただ、だからといって迂回させれば、向こうの反転と、こちらの攻撃の時間が合いにくくなる。  そうやって、うんうん唸っている一刀の肩を誰かが突いた。 「ん? どうしたんだ、恋」 「……セキトがいいと思う」 「セキトか、大丈夫なのか?」 「…………おつかいならできる」 「わふっ!」  呂布の言葉に、どうだろうかと視線をやると、セキトが誇らしげに吠えた。 「うーん、それじゃあ、セキトに頼むとしようか」 「わんわんっ!」  そして、すぐに陳宮と一刀によってしたためられた二つの竹簡をぶらさげたセキトが易京へ向け駆け出していった。  それを見送り、セキトの影が小さくなったところで、ちょうど騎馬隊の準備の方も終わった。 「さぁ、俺たちも行こうか!」 「…………もう少しがんばる」  一刀と呂布の声に、兵たちが力強く返事をした。 「恋、一刀を頼むで!」 「恋殿、ねねが行くまで頑張ってください!」  二人の言葉に、呂布が力強く頷いた。 「一刀、後ろから恋にちょっかい出したらあかんでぇ」 「恋殿にいやらしいことをしたらただではおかないのです!」  二人の言葉に、恋の背につかまっている一刀が馬上から落ちかける。 「おい! 何で俺の時だけそうなるの!?」  そうツッコミを入れながら一刀は笑っていた。  いや、一刀だけでなく、霞も、呂布も、陳宮でさえも笑っていた。  そして、そんな明るい雰囲気のまま、騎馬隊は戦場へ向かって駆け出した。  馬蹄を鳴らし、砂埃をあげ、風を斬りながら大地を駆ける馬の上で、呂布の背中に捕まりながら一刀は思った。  終結はもう間近である、と。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 整形版はここからです。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  「無じる真√N22」  袁紹軍、その本隊は文醜や呂布軍とは少し離れた位置に向かって進軍していた。  行軍中の本隊、その後方にいる袁紹は、先程から辺りをきょろきょろと見回しながら首 を傾げている。その様子を見て、これから何をしようとしているかをまだ袁紹に説明して いないことを思い出した。そして、袁紹に声を掛けようと近づくことにした。  当の袁紹は、少し悩んだ挙げ句、ちょうど袁紹へ近寄った顔良に向けて視線を投げかけ てきた。 「こんな、戦場と離れたところで一体、どうするつもりですの顔良さん?」  その言葉に待っていましたとばかりに顔良は答える。 「はい、この辺りから易京城の攻略を開始しようと思います」  そう言うのと同時に、袁紹にもよく見えるよう竹簡を開いてみせる。 「……なになに……えぇと、ふ、ふんおんでよかったかしら? そう……轒轀車……これ を使うって事なんですの?」  そう言って、先程から隊の中に混じっている中身が無い車を見る袁紹。 「えぇ、これを設置して兵たちの守りとした後、轒轀車の中にいる兵たちに地下道を掘っ てもらい、易京城の防壁を攻略します」 「本気なんですの? そんなみみっちい作戦を行うなんて」  袁紹が眉をひそめて顔良を見る。  あれ、これはまずいんじゃ……そんな考えが脳裏を過ぎりつつも顔良は袁紹へ肯定を意 味する返答をした。 「もちろんですよ。文ちゃんに敵の注意を引きつけてもらってるのだって、轒轀車を使用 する兵たちへの攻撃を少しでも減らそうと思ってのことなんですから」 「わたくし、絶対、ぜぇったぁいに嫌ですわよ! こんなやり方!」  不機嫌そうな様子から、ついに憤慨してしまった袁紹が声を荒げる。  それに対して顔良が返答する前に袁紹が再び口を開く。 「なんで三公を輩出した程の名門である袁家の精鋭が土にまみれてそんな泥臭いことをせ ねばなりませんの?」  矢継ぎ早に言うだけ言うと、袁紹はもの凄く不愉快そうな顔で顔良を見つめてくる。  よもや、ここまできて袁紹の口からそのようなことを言われるとは思わなかった顔良は 動揺していた。 「そ、そうはいっても、もう他にやりようありませんよぉ」  袁紹のわがままに困り果て、顔良はもう半泣き状態になっていた。  そんな顔良の様子を気にすることもなく袁紹は説教を始めた。 「そもそも、わたくしたちの戦いは何時如何なる時でも、優雅に華麗に勇ましく、そうあ るべきだと何度も教えたはずですわ!」 「でもぉ……」  何とか反論しようと顔良が一生懸命振り絞った声は、どうしようという彼女の思いに反 応しているかのように震えていた。 「と、に、か、く! そんな地面を掘って敵の城壁を破るなんて策、我が袁紹軍には不要 な選択肢ですわ!」  はっきりと断言する袁紹に何か言わなければと顔良が口を開こうとする。が、 「さぁ、さっさと文醜さんに合流しますわよ!」  顔良が袁紹を諫めるのよりも先に袁紹が兵たちへと号令を掛けてしまった。  兵たちは多少戸惑う様子を見せたが文醜がいるであろう方向へと進み始めた。 「そ、そんなぁ、麗羽さまー」 「おーほっほっほ! さぁさぁ、一刻も早く進むのですわ!」  もう、顔良には袁紹の後ろをとぼとぼと進むことしかできなかった。 「はぁ、どうしよう……ほんとうにどうしよう」  顔良の呟きは、空気へと虚しく溶けていき、風に飛ばされていった。  それぞれ別の旗を掲げた騎馬隊が三つ集まっていた。彼らは皆、沈黙している。そんな 中、誰かの嗚咽だけが聞こえている。  その声は霞のものだった。両手を地につきがっくりと項垂れている。 「うぅ……一刀ぉ。すまん、ウチのせいや……護るなんて偉そうなこと言うたくせに結局 はそれを全う出来へんかった……くっ」  そう呟く霞の瞳から、まるで湧き出でる泉のように滴があふれ続けては大地に滴り落ち 続けている。  そんな時、場違いな声が辺りに響き渡った。 「あはは、や、やめろって。くすぐったい! うわっ、お、おい」 「へ? か、一刀……?」  その声を聞き間違えるはずがない。  紛れもなく、天の御使いと言われる北郷一刀、その人であった。 「い、一体どう言うことや……」  未だ視界は霞んでいるため、輪郭でしか姿を確認できないが一刀は確かに悶えているよ うに見える。 「うぉっ、こら、そんなにじゃれつくなって!」 「わんわんっ!」  よく見れば、一刀の上でもう一つの影が蠢いている。 「…………セキト?」  呂布が、驚いたのかどうかもよくわからないほど抑揚のない口調でそう呟いた。  ただ、呂布が一刀に向かって方天戟を振り下ろそうとしたままの姿勢で静止してしまっ ていることが彼女の動揺がいかほどのものであるのか、よく表している。 「セキトやったんかぁ……人騒がせなやっちゃ……はぁ」  一刀が討たれた、そう思い込み晒してしまった自分の醜態を想い、霞は顔をあからめ、 一生の恥だと言わんばかりにため息を吐いた。  そして、全身の力が抜けていくのを感じながら霞は、セキトらしき影を凝視した。  セキト――先程から一刀に纏わり付いている一つの影、もとい一匹の犬――を霞は以前 から知っていた。  セキトというのは、呂布の大切な家族であり、また友人とも言える彼女の愛犬である。  霞自身も、洛陽にいた頃にセキトとは何度も接したことがあった。 「わふぅ!」 「……セキト……どいて」  一刀にじゃれついて離れる様子を見せないセキトに呆然としていた呂布が、一刀の斬首 を邪魔されたことを思い出し、セキトへ語りかける。  だが、とくに聞こえた素振りも見せずセキトは一刀にじゃれつき続けている。 「わんわん……くぅん? くぅーん」 「…………セキト?」  呂布のお叱りを聞き流してまで一刀にじゃれついていたセキトが、妙に甘ったるいよう な、それでいてどこか切なげな声を上げ始めた。 「…………どうしたのセキト?」 「お、おい! 俺の手は餌じゃないぞ!」  先程から手に鼻を押しつけてくるセキトに一刀が悲鳴をあげている。  そんな周囲の反応などお構いなしにセキトは一刀の手に集中している。  そして、そんなセキトの様子を見ていた呂布が首を傾げる。 「…………セキトなんだか懐かしそう…………どうして?」  呂布の言葉を聞いた一刀が目を見開き、何かを思い出したように、あっ、という声を上 げた。どうやら、何故セキトがそのような様子を見せているのか、思いあたる節でもあっ たようだ。  霞がそう思ったのに対して答えるかのように一刀がぽつりと喋りだした。 「そう言えば俺、出陣の際……月の頭……撫で……まさか、いや……でも」  一刀が、ひとりぶつぶつと呟く。  一体、どうしたのだろうとその場にいるセキトを覗く全員の注目が彼に集まる。  そして、踏ん切りがついたのだろう一刀が口を開いた。 「なぁ、俺はこの戦に出る前、月の頭を撫でてきたんだ。もしかしてお前はそれを嗅ぎ分 けたのか? だから懐かしいと感じてるのか?」 「…………そうなのセキト?」 「わんっ!」  セキトは一刀と呂布の質問に、その通りとでも言うように元気よく吠えた。 「…………そう、なら月は」  そこで、呂布が一刀の方を恐る恐ると言った様子で見た。動揺しているのか、彼女が握 っている方天戟が気持ち揺れているようにも見える。  相変わらずセキトを体に纏わり付かせたままの一刀は、そんな彼女の様子を見ると苦笑 を浮かべた。 「あぁ、生きてるよ。今も北平で留守番をしてる」 「………………そう」  それだけ言うと呂布が方天戟を一刀の前から退けた。  そして、いつも以上に聞き取れなさそうな声でぽそぽそと一刀に向かって呟いた。 「……ごめんなさい」 「え? いや、君が謝るべき事なんて無いさ……全部、俺の不始末が引き起こしたことな んだから」  一刀が安心させるような声で呂布に語りかけた。  そして、一刀はいつも霞たちに向けてくれるような笑顔を呂布へ見せた。 「それに、誤解も解けたんだ。それでいいじゃないか――って、うぉぉ、いい加減俺から 離れてくれー!」 「わうー!」  呂布が、クスリと笑った。  凄く良い場面のはずだったのに、セキトのじゃれつきによって台無しにされた一刀。  そんな彼の姿を見ている呂布の顔が、気がつけば先程までの緊迫したものから穏やかな ものへと変わっていた。 「……さて、ウチも加わるとするか……」  息が整い大分落ち着き、体力も戻りつつある霞は、いい加減仲間はずれなままというの もないな、と思い、飛龍刀を杖代わりにして二人の方へ歩み寄る。 「まったく、どんだけ……ウチの寿命縮めりゃ気が済むんやっ!」 「…………霞」  呂布が、申し訳なさそうに霞の方を見つめてきた。 「あぁっと、一刀がえぇ言うとるんやさかいウチも構へんよ」 「……ありがとう、霞」  呂布の言葉に、相づちを打つと霞は、ことの中心でもある一刀の方を見た。 「うぉ、そんなとこなめるなぁ! ……っとと、心配させてごめん、霞」  笑顔から一転、真剣な表情になって霞を見つめてくる一刀。  今度は距離も近いので霞目となっている霞の瞳でもそんな一刀の様子がよく見えた。  そして、改めて一刀の無事を確認した瞬間、霞の中で緊張の糸が切れた――。 「ほ、ほん…っ…ほんまやで……っ、この馬鹿一刀!」 「!? ちょ、ちょっとやめっ!」  霞の心より先に体が動いていた。  気がつけば、未だ地面に倒れたままの一刀にぼろぼろの体で飛びついていた。  その顔は、彼女の想いを表すようにあふれ出た滴と笑顔とも泣き顔とも言える複雑な表 情を浮かべ、くしゃくしゃになっていた。  そんな顔を見られたくない霞は、一刀の胸に顔を埋めた。 「し、霞? どうしたんだよ。なんか、らしくないぞ」  一刀がぬけぬけと放ったその一言が霞の気に障った。そして、先程まで身を裂かれるよ うな思いをし、非常に辛い状態にあった彼女の感情は、大爆発を起こした。 「こぉの、あほぉ! ウチがどんだけ悲しゅう思うたかわからへんのか! どれだけ深い 絶望に襲われたと思うとるんや!」  霞は、嗚咽混じりの声でそう言い放ち、未だ完全には力が入りきらない腕で一刀の胸を ポカポカと叩き続ける。 「悪かったよ。ほんとごめん」  優しい声でそう語りかけてくる一刀に霞は顔を上げる。  そして、充血し赤くなったウサギのような目で彼を見つめた。 「ほんまか? ほんまにそう思っとるんか?」 「あぁ、ほんとうに悪かったよ、霞」  その言葉と同時に、背中に腕が回された。霞は、たったそれだけで笑みがこぼれてしま う自分に呆れ、ここまで想える相手が居ることを喜ばしく思った。 「そんなら、まぁ、許したってもえぇかな……」 「そうか、ありがっ――んぐっ!?」  何かを言おうとした一刀の口を霞は塞いだ――自分の口で。一刀が目を白黒とさせてい る。というよりも、霞には一刀の瞳が突然唇を重ねたこと意外の理由で揺れているように 感じられた。だが、そんなことなどすぐに吹き飛んでいた。  何故なら、霞の頭の中は閃光が走り真っ白になっていたからだ。  もう、彼女は何も考えられなかった。  時間にすれば十数秒ほどだったが、霞にしてみればとても長い時間だった。  その長い十数秒が経過すると、霞は名残惜しげに一刀の口元から顔を離した。 「ぷはっ、な、何するんだよ、霞」 「ん? そりゃ、許す言うても罰は受けてもらわなあかんやろ」 「…………そ、それはそうだけど」  まだぶつくさと文句を言っている一刀に、霞は表情を緩ませたままニカッといたずらな 笑みを浮かべ一刀を見つめた。  すると、一刀がため息を吐き、微笑みを浮かべた。 「まぁ、しょうがない……のかな。俺にしてみれば得なことだったし」  その言葉に霞は、そうそう、と頷き返す。  そして、意地の悪い笑みをつくり一刀を見やった。 「まっ、いまはそんな場合ちゃうからな。せいぜいこれくらいで勘弁しといたる。せやけ ど、帰ったら覚えとき」  こう言えば、それなりに面白い返しをするだろうと思いながら霞はさらににやりと口元 を吊り上げた。 「はいはい……お手柔らかにな」  一刀の反応は、霞が思っていたよりも簡素だった。まるで、他人事として感じているよ うにも見える一刀の反応は霞にしてみれば寂しいものだった。  もっとも、霞が寂しいと思った理由としては、先程一刀に言った言葉が彼女の本心を多 分に含んでいたからという面がそのほとんどを占めていた。  そんな彼女の思いには一片たりとも気づかぬまま一刀が立ち上がる。 「さて……ってどうしたんだ?」  そして一刀は、いつの間にかうつむいていた呂布に気がつき声を掛けた。  結局、顔良は袁紹を説得できなかった。  いや、正確にはしなかった。  地を掘り進むことで城壁を攻略する、という策を高貴な自分たちがそんな泥だらけにな る必要などないと言って却下するような人物である袁紹。  そんな彼女を説得できるだけの要素を含んだ策を、今の顔良は一つとして考えつけない でいるのだ。  そんな状態の顔良には袁紹に何かを言うことなど出来なかった。 「でも、このままいっても消耗は激しくなるだろうし……」  そう、このまま攻城戦に入れば仮に敵をうち破っても自軍の被害も相当なものとなる。  顔良は、それを避けたかった。だが、肝心の袁紹の性格を勘定に入れ忘れるという最大 の愚行をおかしてしまったために真っ正面からの攻城戦をすることとなってしまった。 「ようやく、合流できましたわ……あら? どうやら全然上手くいっていないみたいです わね……」  堅固な防壁に悪戦苦闘している呂布軍と罵声を飛ばし続ける文醜隊を見た袁紹が発した 言葉がそれだった。  その時、袁紹の声に気づいた文醜が近づいてきた。 「あれ? こんなとこでなにしてるんです麗羽さま?」 「あら、文醜さん。実は、先程この袁本初にふさわしくない戦いを申し出た顔良さんに少 しばかりお説教をして、今戻ったところなんですの」 「へ、へぇぇ、そうなんすか」  袁紹にぎこちない返事をした文醜が今度は顔良の方へと歩み寄ってくる。  そして、顔良の体を引き寄せると文醜は小声で話しかけてきた。 「おい、斗詩っ、一体どうなってんだ?」 「そ、それが、私が考えた方法を麗羽さまが嫌がって……」 「うぁ……そういうことか……」  そう言って頭をかく文醜に顔良は申し訳ない気持ちになる。 「ごめんね文ちゃん。せっかく向こうの気を引きつけてもらってたのに……」 「なに気にすんなって。あたいがなんとかしてやるさ!」  そう言って逸らした控えめな胸をどんと拳で打つ文醜。 「文ちゃん……うん、私もやれるだけやってみる!」 「そーこなくっちゃな!」  文醜は、嬉しそうにそう言うと肩を回しながら前線へと向かった。  その後ろを顔良は慌てて追いかけるのだった。 「あ、待ってよ文ちゃんー」  易京城の辺りが先程までよりも騒がしくなっている。  そんなことが頭を過ぎるが、今は目の前のことだ。一刀はそう思い、すぐに意識を目の 前の人物へと戻した。 「で、どうしたんだ?」  何故か俯いたままの呂布に一刀は声をかける。 「…………これから、どうしよう」 「それってどういう意味なんだ?」  呂布の言葉の意味するところが分からず一刀は首を傾げる。 「…………もう、目的無くなった」 「あぁ、そうか……これが狙いだったんだもんな」  首をさすりながら一刀は納得したように頷く。  同時に、よく無事だったと冷や汗混じりに思ったりもしていた。 「ならさ、さっきも言ったけど俺たちに協力してくれないかな」 「……協力?」 「あぁ、俺たちがこれから袁紹軍へ奇襲をかけるのを手伝って欲しい」 「…………どうしよう」  先程のように交換条件などなく、明らかに情況が異なるためか、呂布は眉尻を下げて悩 み始めてしまった。  その様子が気になった一刀は彼女の思考を中断させるように質問を投げかけた。 「何か問題があるのか?」 「…………待たせてる」 「待たせてる? 一体、何を――」 「あぁ、ねねのことやろ。違うか、恋?」  一刀が再度質問しようとしたのを遮るように呂布へ駆けられた霞の声に呂布は頷いた。 「ん? それって誰?」  ねねという人物に一刀は心当たりがなかった。以前の世界でそのような人物にあったこ とが無かったからだった。 「あぁ、ねねっていうのは真名や。名前は陳宮って言うんや」 「陳宮! 成る程な……」  その人物の名前を聞いて一刀は納得した。  陳宮と言えば、三国志のなかで最後まで呂布とともにいた軍師――ならば、呂布と一緒 にいるのも不思議ではないのだ。 「もしかして、本拠にその人を残してるってことか」 「…………そう」  そう答えた呂布の顔は相変わらず眉尻は下がったままで不安そうだった。  そわそわしている呂布に苦笑しながら、一刀は彼女の頭を撫でた――以前の世界でそう したように――。 「わかった。無理にとはいわないよ。大切な人と幸せに過ごすのが一番だ」 「…………ありがとう」 「えっ?」 「れ、恋!?」  呂布が感謝の言葉を口から発したのと同時に一筋の透明な線が彼女の瞳から頬、そして 顎へと引かれた。 「え、え? な、なんで?」 「ど、どうしたんや、恋?」 「……?」  慌てふためく二人を余所に、不思議そうに首を傾げる呂布。  どうやら、瞳から流れた一粒の滴に彼女自身気づいていないようだ。  その事実を把握した一刀が、一体どういうことだと訝った瞬間。 「ちんきゅーきーーっく!」 「ぬぁっ!」  辺りに響き渡った謎の声、そして気がつけば、一刀は空を飛んでいた。 「あぁ、霞。俺、飛んでる、飛んでるよー」 「あぁ……飛んどる、飛んどるで、一刀」  何故か拳の親指をビッと立てる霞に一刀は同じように返した。  そして、そのすぐ後に一刀の体は地面へと叩きつけられるように落下した。 「い、痛たた……」  一刀は、腰をさすりながら一体何が起きたのか自体の把握に努める。  いつの間にか、薄緑の髪の小さい少女がいた。  少女の着ている黒めのぶかぶかな服が一層彼女の小柄さを引き立てている。  また、それ以外にも額が特徴的だな、と一刀は思ったが口には出さなかった。  そんな風に少女の評価を一刀が心の内でしていると少女が一刀の方へとずかずかと大股 で歩み寄ってくる。 「恋殿を泣かすとは不届き千万! 万死に値するのです!」 「…………恋、泣いてた?」  少女の言葉に、呂布が不思議そうに聞き返した。 「えっ、恋殿ご自身は気づいておられなかったのですか?」 「…………」  少女の質問に呂布はただこくりと頷いた。 「え、えぇと……と、とにかくあの男が悪いのです!」 「相変わらずの恋好きやな、ねね」 「おぉ、その声は、霞殿! お久しぶりなのです」 「そうやな、虎牢関で別れて以来やもんなぁ」  互いに挨拶を済ますとしみじみとした空気が辺りに流れ始める。 「あ、あのさぁ……俺、その娘知らないから、一応紹介くらいしてくれないかな?」  とても入れる空気では無い気もしたが、一刀は意を決して声を掛けた。 「あぁ、すまんすまん、忘れ取ったわ」  片手を申し訳ないと言う風に額の前に持ち上げて霞がそう言うと、残りの二人も一刀に 気がついた。 「…………大丈夫?」 「あぁ、心配してくれてありがとな」 「恋殿、そんな奴、気にする必要なんてないのです」  一々突っかかるなぁ……などと思いながらも、それだけ呂布を大切に想っているのだろ うとも一刀は感じていた。 「ま、まぁ、その辺はえぇとしてや」 「…………俺はよくない」 「えぇとしてや! なんとなく、恋への態度で分かるとは思うけど、さっき言うとった陳 宮がこいつや」 「そうか、この娘が陳宮……」  そこで、ふと思い出す。  虎牢関で火の海のなか、呂布とともに去っていった少女がいたことを。  そして、その少女がこの陳宮であったのだと理解した。 「…………ところで、ねね」 「なんですか? 恋殿」 「なんで、ねねがここにおるんや?」 「はっ! わ、忘れていたのです」  陳宮がしまったと言わんばかりに声を張り上げる。  それと同時に、遠くから何台もの車や、何十頭もの馬、そして沢山の兵がぞろぞろと向 かってきた。 「…………みんな?」 「じ、実はですね……恋殿」  そこからの陳宮の説明は、いたく単純な話だった。  呂布が、本拠である下邳を離れたことで、脅威がなくなったと判断した袁術が大軍を差 し向け攻め込んできたらしい。  そして、陳宮はさすがに勝算が見込めなかったため、やむを得ず、呂布軍の兵、そして 呂布の家族とも言える動物たちを連れ、この地まで逃走してきた。とのことだった。 「申し訳ありません……恋殿」 「……別にいい。ねねが無事でよかった」  呂布は、気落ちしている陳宮をそっと抱きしめるとそう答えた。 「……恋殿ぉ」 「…………よしよし」  まるで幼い子供をあやすように陳宮の背中をとんとん、と叩く呂布。  二人を見て、ある種親子みたいだ……と一刀は思った。 「しっかし、どうするんや二人とも……っちゅうか、恋とこの奴らは」 「うぅん、取りあえずはうちで保護するしかないんじゃないか?」  一刀の言葉に、呂布の視線が二人の方へ向けられた。 「…………いいの?」 「ん? そうだな、多分大丈夫だろう」 「まぁ、一刀が頼めば白蓮も嫌とは言えんやろ」  そう言って霞は愉快そうに笑った。一刀はそんな彼女の反応に苦笑するしかなかった。 「まぁ、よろしくな二人とも」 「…………うん、よろしく。ご主人様」 「うぅ……仕方ないのでよろしくしてやるのです」 「おいおい……って、呂布?」  一刀は、陳宮の言葉に顔を引きつらせかけた。  だが、その前の呂布の言葉に違和感を覚えそちらに反応した。 「……恋でいい」 「あ、あぁ……それで、恋。どうしてご主人様?」 「…………恋にとっては、ご主人様がご主人様。ね? セキト」 「わんっ!」  いつの間にか、呂布の隣に陣取っていたセキトがその通り、と言わんばかりに元気よく 吠えた。 「そ、そうか……まぁ、恋がそれでいいんなら良いけど」 「れ、恋殿。このような男に真名をお許しになるのですか!」  自分自身、多少の戸惑いはあるわけだが、他人にそう言われるとカチンとくるものだな と一刀は思いつつ苦笑を浮かべながらツッコミを入れようとする。  しかし、呂布の声がそれを遮った。 「……ねねも、ご主人様に真名、預ける」 「そ、そんなぁ……恋殿ぉ」  絶望感ひしめく様子で項垂れる陳宮。  その姿を見て、そこまで嫌か、と内心落ち込みながらも口を開いた。 「駄目だぞ恋。無理強いはよくない」 「…………ダメ?」 「ダメ」 「………………………………わかった」 「わかってないだろ……絶対」  一刀は知っている。呂布が返答するまでに長い空白を開けるのは、本当にそう思ってい るわけではない時であると。 「そ、それ以上、恋殿を責めるのをやめるのです」 「陳宮?」 「ま、真名をおまえに預けてやるです」 「いいのか?」  念のため、聞き返すが陳宮はただ黙って頷くだけだった。  そして、そのまま陳宮が口を開くのを一刀はただ黙って見守る。 「真名は音々音なのです」 「れれれ?」 「音々音! ね、ね、ね! もし、この説明の後に、ねねねねとか言ったらちんきゅーき っくをおみまいしてやるのです」 「わ、わかった……恋たちみたいに、ねねって呼んでいいか?」  そうしないと、ねねねねねねね、くらいは言ってしまいそうだと思った一刀は無難な提 案をする。 「まぁ、それで構わないのです 「よし、それじゃあ、改めてよろしく。恋、ねね」  そう言って二人に笑いかける。  呂布は、ただこくりと頷いた。そして、陳宮もぶつくさと文句を言いながらも、よろし く、と一言だけ答えた。 「さて、一段落ついたし、速いとこ詠たちの援護に行くか」 「ただ、さすがにこんだけの数いると、進む速度に差がでてくる気がするんやけど、どう するんや?」 「そうだなぁ……取りあえず、霞は動物たちや歩きの面々を引き連れてゆっくり戻ってき てくれ」 「えぇー、ウチも行きたい!」  霞が、口をとがらせ不満を露わにする。  しかし、その足取りはおぼつかないとまではいかないものの、やはりしっかりとはして いない。 「あのなぁ、そんなフラフラの状態で何言ってるんだよ。」 「うぅ……わかった。言われた通りにしとくわ」  とぼとぼと退いていく霞の姿に罪悪感を抱いた一刀は、しかたないと行った様子で一言 付け加えた。 「まぁ、体力と体調が戻ったら追っかけてくればいいさ」 「わかった。絶対に追いついてみせるからな」  なんとか霞が納得したのを見て、ホッと一息つくと一刀は指示を再会した。 「それじゃあ、張遼隊の内、半分は霞とともに彼らの護衛を頼む。そして、残りは俺と一 緒に易京前にいる袁紹軍に急襲をかける」  そう言って、張遼隊を見ると全員がおう、と声を返してきた。 「で、呂布軍に関しては、騎馬隊と恋に一緒に来てもらいたいんだけどいいかな?」 「……大丈夫」 「よし、それじゃあ、歩兵の人たちは俺たちが先に戦闘を開始するから、後からそれに続 くようにしてくれ。そっちの指揮はねね。頼む」 「任せろです!」 「あとは……前線にいる呂布軍や詠たちにこの事をどう伝えるかだけど……」  一刀は、どうしたものかと考え込む。  普通に伝令を発してもおそらく間にいる袁紹軍によって足止めを食らうことになる。  ましてや、それが原因で作戦が無に帰すのも避けたいところだと一刀は思っている。  ただ、だからといって迂回させれば、向こうの反転と、こちらの攻撃の時間が合いにく くなる。  そうやって、うんうん唸っている一刀の肩を誰かが突いた。 「ん? どうしたんだ、恋」 「……セキトがいいと思う」 「セキトか、大丈夫なのか?」 「…………おつかいならできる」 「わふっ!」  呂布の言葉に、どうだろうかと視線をやると、セキトが誇らしげに吠えた。 「うーん、それじゃあ、セキトに頼むとしようか」 「わんわんっ!」  そして、すぐに陳宮と一刀によってしたためられた二つの竹簡をぶらさげたセキトが易 京へ向け駆け出していった。  それを見送り、セキトの影が小さくなったところで、ちょうど騎馬隊の準備の方も終わ った。 「さぁ、俺たちも行こうか!」 「…………もう少しがんばる」  一刀と呂布の声に、兵たちが力強く返事をした。 「恋、一刀を頼むで!」 「恋殿、ねねが行くまで頑張ってください!」  二人の言葉に、呂布が力強く頷いた。 「一刀、後ろから恋にちょっかい出したらあかんでぇ」 「恋殿にいやらしいことをしたらただではおかないのです!」  二人の言葉に、恋の背につかまっている一刀が馬上から落ちかける。 「おい! 何で俺の時だけそうなるの!?」  そうツッコミを入れながら一刀は笑っていた。  いや、一刀だけでなく、霞も、呂布も、陳宮でさえも笑っていた。  そして、そんな明るい雰囲気のまま、騎馬隊は戦場へ向かって駆け出した。  馬蹄を鳴らし、砂埃をあげ、風を斬りながら大地を駆ける馬の上で、呂布の背中に捕ま りながら一刀は思った。  終結はもう間近である、と。