一刀の校長物語 Ep1〜奮闘編〜 第五話「一刀、驚愕するのこと」 ー上庸・茶屋 「おせろ?」 「ああ、オセロってのは天の国にある室内遊戯の一つで、 碁盤みたいなところに白と黒の小さい円盤を用いてするものなんだ。 俺は、そういうと雪蓮たちにやり方を説明した。 オセロは、白と黒と並んでいて、黒の横に白を置き挟むと 黒は白に変わる。それで挟み裏返し合って、 結果どちらの色が多いかを競うゲームだ。 その白と白の間にある黒を白に裏返す・・・この場合、 オセロの計?といえばいいのだろうか・・・俺はそれを用いて 黒に置換えた兵士たちを白にしようと考えた。 こういうのはずるいというか、狡猾だろうとは思うが まぁ学校という目標を持つ今の自分には、その白となったであろう兵士たちに 恩情となったことを喧伝してもらい、俺の悪い噂を払拭してもらうという 俺の一計にうまく乗ってもらえれば・・・なんて考えた。 ではもう片方の白とは・・・ というのは、これはもちろん華琳側である。 そしてそれは、学校建設という目標とそれにかける情熱、そして俺の性格を知っていて 華琳ほどの頭脳明晰さならば、きっとこれの内容に気づくとは思うが。 ぶっちゃけ、気づかずともそれはそれでいいと思う。 俺が甘ちゃんということを理解していてくれて、首打ちを望んではいないことは あの文から伝わってくれてると思うし、 何より桃香とともにきちんとコミュニケーションを取ったりと、 自然にこういう風に連携が取れる事態に陥った時用に互いにそれは理解している。 それは目の前でにこにことしている雪蓮にも言えることである。 俺はその信頼の意味を込めて、 俺という王に等しいモノが、捕まりそのことをムチ打ちなどの罰のみで あとは不問とするという・・・これはお願いのようなものであることを示唆し、 あちらのミスである今回の一件では被害者であるこちらの願いに譲歩し考慮してくれるだろう ということを考えて、自然に兵士たちは罰を受けるが命は助かるであろうと考えた。 また、他の国に貸しを作ったままというのは王としての華琳のような性格では嫌がると踏んでいるのだがと 雪蓮たちに説明した。 「むぅ。」 詠はそこまで考えてと、面白くなさそうな顔をしていた。 月はそんな詠を落ち着かせようとしている。 「なるほど〜、考えたわね〜♪・・・でも、華琳が気づくかしら?」 「気づいてくれると信じてる。それにどっちにしても、 俺はただ間違ったってだけで罰はあるだろうけど、打ち首ってのは望んでいないから 俺の甘ちゃんぶりが華琳に伝わればどっちでもいいさ。」 「甘ちゃんぷりに、種馬っぷりをつければいいんじゃないの?」 詠は意地悪そうな顔でそう言ってきた。 「え、詠ちゃん〜。」 「はぁ〜。可愛そうな月・・・よしよし。」 俺は、俺のためにたしなめようとしてくれる月の頭を撫でて上げた。 「へ、へぅ〜〜。」 月は照れくさそうではあったが、まんざらではなさそうだった。 「・・・北郷殿。」 スチャっという刀を抜く音と鈴の音が聞こえた。 はい、真面目に話します。」 そう言いながら、気を取り直し改めて雪蓮たちに話を聞いた。 「―それで、なんで雪蓮たちはこんなところに?」 当然というべきか、雪蓮呉一行様がこんなところにいるのか不思議でならなかった。 そのあまりのタイミングの良さが不自然であったためまずはそこを聞いてみたかった。 「・・・それは、まぁ、魏と同じようにさっきのようなやつが呉にも出てね。 私の領で、一刀の名を語って誹謗中傷するのよ。うちの国は、 堕落し、落ちぶれて三国同盟なんかに成り下がってるだのなんだのとね。 それで文句があるなら蜀に攻めてこいということを言ってたらしいわ。」 「・・・私もこの耳で聞いた。」 「私もです!」 雪蓮の話に同意するように、二人が頷く。そして、雪蓮は話を続けた。 呉の民たちはそれで一時は、蜀に対して不信感を持っていたらしいのだが、 報告を受けた雪蓮、蓮華、小蓮という王ならびに姫君たちが手分けして それらを収めたらしい。わざわざ王族が出向くなんて・・・。 ・・・そういや、呉の案内をしてくれた時色々聞いたが、 呉というところは元々、土着民がほとんどでその結束力というのは、他の二国よりも強い。 何せその頂点にいる孫伯符という人間のカリスマは兵から、民に至るまで絶大だもんな。 町を歩いていたとき、ふと走り出したと思ったら知り合いらしいおじいちゃんとおばあちゃんと 仲良さそうに話しはじめたし、賊が出たと聞けば率先してその討伐にいき、 血まみれで帰ってきたときは肝が冷えた。三国共通の決まり事"信賞必罰"を これほど通す人も珍しいというのもある。 それほどまでに徹底した姿勢は民に強い王という意味での象徴となっているのだろう。 しかし、敵のやり口が・・・なんか俺の学校アピールとやり方がにてるな。 思春、明命の話では警備兵いわく、呉では白い服を来た男一人が声高に呉をコケ下ろすようなことを 叫んでいたらしい。 たしかに白い服というのは、俺の特徴まんまだな。 「取り締まりを続けるうちに、突然ね、ぱっと何事もなかったかのようにそれがなくなったのよ。 で、冥琳がいうには引き際がよすぎるってことを教えてくれたわ。 まあそんなわけで、呉ではそういうのなくなったんだけど・・・ それじゃあ呉であることは魏でもあるかな〜ということで、華琳にあらましを伝えてね。 お城飛び出しちゃった♪」 飛び出しちゃった♪って・・・。 そ、それで一国の王がのこのことここまでくるなんて・・・。 思ったことなんだが、雪蓮たち、孫一族というのは極端に前衛的な一族なんだろうと思う。 先に述べたように率先して賊討伐をしたり、彼女の母・孫堅もそういうタイプだったらしいし。 前にも呉との合同戦陣訓練があったが突出してくる一国の王にさすがの朱里も苦笑いをしてたな。 しかし、その話で呉ではそこまで問題になってなくて良かった。 でも問題は魏内だろうな・・・。 首謀者たちは呉での失敗の教訓をいかし、 魏内ではそういうことが起こらないように対策を立てている可能性が高い。 というのも、呉の大都督であり筆頭軍師・周瑜・・・冥琳の主張するように 呉での引き際が絶妙過ぎる。ある程度騒ぎ、警備が厳しくなれば ぱっとそれがなくなるのだから。それを考えれば、 ただ民が不満のみでそうやって騒いでいるとは考えにくい。 となれば、敵は軍師のようなものが付いていると考えられる。 「・・・ずと?か〜ず〜と?」 と、俺は呼ばれているのに全く気づかなかったらしくふと気がつくと雪蓮が膨れていた。 「もー。さっきから呼んでるのに無視するんだもんなー。」 「ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事を・・・」 そういいながら、俺はお茶を一口飲む。・・・あ、もう冷めてる。 「まぁいいんだけどね。で、そっちの情報ってそれだけなの?」 「まあね。俺たちまだ魏領に入ってちょっとだし。そういう雪蓮たちは?」 「まぁ、情報のほうは一刀たちよりも得たわよ。回った町の数が違うもの〜。 それにね、さっきの者たちのも含めるとなんとなーくわかった感じかな〜。」 それはあれか、天才の勘とかいうやつか。 そういうと、思春、明命が偵察や東に派遣されている軍師・風からの情報を元に 主に代わり説明をしてくれた。 敵は滅ぼされた勢力、権力闘争に負けた者などによって形成された組織。 目的は、三国同盟に不満を持つためにそれを崩壊させるための反三国同盟勢力らしい。 現在は相手の具体的な人数は不明。また、魏での町の人の話では活動する際、 呉ではなかった荷車を用いて移動するとのことだ。 首謀者らしきものについては、魏との連携によりその実態は少しずつ見えているらしい。しかしー やはり、先ほどの軍師のようなものが付いてると考えてもよさそうだな。 滅ぼされた勢力、権力闘争に負けたものなどは元々組織だったものであり軍師がいてもおかしくはない。 呉ではなかった荷車を魏で使うというのも、模範的に俺の真似をしている。 呉での引き際の鋭さを持ち、俺の特徴も呉では反映されてないものを魏で反映する 切り替えの早さ、そういった慎重的な姿勢を見せつつも、白い服を着てない時に限って ピンポイントで・・・ "我々の見たことも無い格好のものが北郷一刀のはず" という解釈・・・ん?・・・まてよ? 「なぁ、雪蓮。」 「なあに?一刀。」 「・・・今、俺たち監視してるやつっていたりするのか?」 俺は判断材料として最も適切なものを知るため、雪蓮に聞いた。 「うんいるわよ、4人ほどね。・・・うっとおしいから捕縛でもしましょうか?」 「あぁ、それはちょっと待ってくれ。」 うん、そういうことか。 監視してるやつらは、俺が白い服を脱いだことに気づいたが その中身であるTシャツのことが分からない。 だから、暗殺役にどういう風に説明すればいいのか分からないと。 それゆえ、"我々の見たことも無い格好"なんていう 中途半端な指示となってしまったのだろうな。 指示者が近くにいるとはな〜。 ・・・やっぱり慎重派と急進派がいるのは確定的なようだ。 それにもう一人が言っていた、"あの方"ってのも気になる。 ということはそれなりに身分のあるものという風に感じる・・・。 首謀者か、幹部か・・・。 ま、想像でこれ以上膨らましてもしょうがない。 対策できるものにしよう。 学校建設に奮闘してるはずなのに、いつの間にかそのことに奮闘してる気がするが・・・。 それでも黙って見過ごすことはできないし、急進派っぽいのが民に被害を出すとも限らない。 それに狡賢いかもしれないが、この件を利用すれば 学校の認知においてもチャンスであるからだ。 とりあえず、監視の人と白い服対策のほうをどうにかしておくか。 ・・・よし。 「雪蓮、悪いけどさ―」 そして俺は思春に頼み、監視者を捕らえて捕縛後聞くことができれば、情報を。 まぁ聞けそうにないなら警備兵に渡して構わないということを頼み、 明命には、俺の白い服の構造でのある部分についてあることを華琳に伝令してもらうように頼んだ。 「あら?それなら供してるものたちの特徴も伝えたほうがいいんじゃない?」 「それも考えたけどね、すぐ対策されるかもしれないから。」 偽者の供を三人にし、特徴をそれっぽくすれば騙される人は騙されてしまう。 と俺がそう考えていると何やら考えていた詠が、 「ふーん、考えたわね。」 と俺に言ってきた。 お、詠は解かったか。 「ええ、たしかにそうよね。それは大陸広しといえどあんたのにしかないわけだから。」 「ま、そういうこと。」 「そう、わかったわ。じゃ思春、明命お願いね。」 「はっ!」 「はい!」 そういうと思春と明命はこの場をあとにした。 「とりあえずこれで現状は、問題ないと思う。」 「ご主人様、お待たせしました。」 俺が話し終えたと同時に、宿に制服を取りにいってもらった 月たちが戻り、月が俺の制服を渡してくれる。 「おかえり、二人とも。」 そういいながら渡された制服を着て、その制服の一部分を雪蓮たちに見せた。 「・・・へぇ〜、これじゃ真似したくてもできないわね。」 と雪蓮たちは納得したようだった。 「さてと、とりあえずこれで白い服のことを魏領内で徹底させるまで まだ時間はあるみたいだし、俺は俺の本来の目的をしないとな。」 「学校建設における演説のことかしら?」 雪蓮は興味深そうにそう聞いてきた。 「そうだよ。・・・っていいたいところだけど、道具とかがないし それを引いてくれる"一刀一号"もいないんだよな・・・。」 まずやるにしても、一度白帝に戻り色々と準備をしないといけない。 だが、上庸の関所は通れるか微妙なところだし・・・。 「さて、どうするか・・・。」 「なら、華琳に頼んでみたら?」 雪蓮はそういうと、おじちゃんおかわりーとお酒を頼む。 ・・・相変わらずだな〜昼からそんなに飲むとは。 「けどな〜、雪蓮もそうだけど華琳にも納得するものを提出するって 約束してるだろ?そんな人たちに頼むってのもおこがましいっていうか・・・。」 そういうと、ポリポリと頭を掻く。 「な〜によ〜。ここの店だっておごってあげたし、思春明命を使わせたりしてるのに 今更じゃないかしら?約束は約束、決して手助けしてはいけないとまでは あの時約束してないわよね?」 ・・・。 ・・・・・・いや、そんなんでいいのかよ呉の王よ。 まぁ、雪蓮のおっしゃる通りであるのだが。 だが、本人がこうしていってる以上頼んでみるだけってのもありかもしれない。 「そうだな、それじゃ―」 と、席を立ちあがろうとした時、 「おおー!おられましたな北郷様。」 そういいながら、俺たちの卓に近寄ってきた一人の初老・・・ 文官風の人が俺に礼をした。 「んと・・・。」 その顔に見覚えはない。 「これは失礼、曹操様より我が城へ一度お越しくださいとの命を受けましたため、 急ぎ北郷様の顔を存じている私めが参上したしだいにございます。」 そういうとまた俺に深い礼をした。 「ああ、そうなんですか。わざわざありがとうございます。・・・で、華琳が?」 「はい。此度のことはとても申し訳なく思っており、そのことについてもお詫びをしたいとのこと 何卒との仰せにございます。」 「いきなさいよ、なんだったら私たちが警備しながら送ってあげましょうか?」 何をいうんだこの王は。 「・・・わかった。たぶん、明命と入れ違いになっちゃうな・・・。ごめん、雪蓮。」 そういうと雪蓮に頭を下げる。 「いいのよ。気にしない気にしない♪」 「雪蓮様。」 俺の肩をバンバンたたきながら雪蓮は言ってくれていると、思春が戻ってきた。 「おかえり、口は割ってくれたかしら?」 「・・・いえ、私が発見し捕縛しようとしましたが皆、・・・自刃しました。 間もなく来た警備兵に事を話し、検死を行うとのことですので渡しました。」 ・・・。 「そう、それで?その警備兵への追尾は行なってるのかしら?」 「はっ。どうにも来る時の都合がよすぎていたため、周辺に潜ませていたものを数名・・・」 「わかったわ。多分、黒でしょうけどね。」 「・・・それも勘ってやつか?」 俺は隠密の怖さを知りつつも、そう聞いた。 「まあね。とりあえず、出ましょうか。私たちもそいつらを追いかけたいし あなたたちも急ぐのでしょう?」 そうして俺たちは、ごちそうのお礼をまた今度白帝でさせてもらうということで その場で雪蓮たちと別れ、使いの方と華琳のいる許昌へ向かった。 ー許昌・玉座の間 「曹操様、蜀の天遣太師・北郷一刀様がいらっしゃいました!」 広い部屋にその声が響く。 そして、俺たちは中へ通された。 「ごめんなさいね、謝罪する立場が呼び出すなんてことを。」 そういいながら、華琳は座を離れこちらに向かってくる。 「いや、気にしないでくれ。・・・牢の言葉、理解してくれたか?」 俺は近寄ってくる華琳にそう言葉をかけた。 「ええ。とてもあなたらしいと思ったわ。だけど、考えたわね? ああいうやり方も辞さないほど、大事ってことかしら?」 「ああ。」 俺は即答した。 それに、事後的ではあるが伝わってくれると信じていた。 そう考えている俺の目と鼻の先で華琳は止まり、 ―スッ 俺に頭を垂れた。 って、おいおいー 「ちょ、かりー」 「この曹孟徳、こたびの一件では部下の早とちりによって 蜀の太師である貴公に迷惑をかけ、申し訳ないことしたと思ってるわ。」 俺の止めを無理やり言葉でねじ込み、謝罪した。 いいのかよ、魏の王がそんな風に頭下げちゃって・・・。 そして、頭を上げた華琳は 「私に頭を垂れさせたのは、北郷一刀・・・男ではあなたが初めてよ。 それだけの思いを込めたつもり。受け取ってくれるかしら?」 「・・・うん、もちろん。」 華琳の言葉に何も言えなくなり、俺は納得した。 そして、玉座の間を離れ案内されたのは中庭。 俺たちは歓待用の席を設けられた。 「失礼します。」 華琳の侍女さんが、お茶を入れてくれた。 「ありがと。・・・月、そんなにじーっと見たらやりにくいよ。」 月はお茶の淹れ方を学ぶためか侍女さんが振舞う光景をじっと見ていた。 「へぅ〜・・・。」 「月ったら。」 そういいながら、詠は月の頭を撫でる。 「ふふふ。参考になるなら参考にしなさい。ところで、北郷。」 「ん?」 華琳は一口お茶を飲むと、 「ふぅ・・・。これからはあなたのこと、一刀と呼んでいいかしら?」 と尋ねてきた。 唐突だな〜とは思いながらも、了承した。 「てか、別にいつでも呼んでくれてよかったんだけどな。」 「ええ。でも、己の心情が違えば相手への呼び方は変わるものでしょ?」 心情? 「・・・まあそれはいいわ。それで、雪蓮の部下・・・明命がうちに来て 一刀からの伝言を預かったわ。・・・ふむ、それのことね?」 華琳はそういいながら、俺の服を見る。 「ああ。コレを確認して、俺じゃなければ捕まえてもいいと思う。 あとで薄墨貸してくれれば、自分で紙に写すからそれを渡せばわかるだろうし。 あと、供の特徴って雪蓮もいってたけど、それは偽装した人を用意するだろうからね。 そこはあえてしないでおくことにするよ。」 「なるほど。その件は、警備隊のものたちにまかせたわ。良きようにするでしょう。」 警備隊ってことは、李典、楽進、于禁のことか。 あの三人、・・・中でも于禁って子やたらキャピキャピしてたな。 あれで警備もこなすのか。 ちょっと不安になりながらも、 「それと問題の偽師団については、とりあえずそのことを魏の領内に 広めて効果を上げるまで時間がかかりそうだから、 それまで学校建設についての説明をしようと思ってるよ。」 俺は、今後の説明をした。 「・・・道具もなしに?」 そういうと、華琳は意地悪そうな微笑みでつっこんできた。 「・・・はは。お見通しですか。」 「ええ。それにさっきのあなたかどうかの確認も、実際数日はここにとどまるのを想定にいれてるのだから その間は市井に出るものは全て偽者として扱えるわ。なので実際に先ほどのものを使うのもあなたが 演説する日数だけ、ということになるわね。だから荷車と道具の準備を終えるまでここに住むといいでしょう。」 さすが華琳、気づいていたか。 「それと上庸関所で回収していたあなたの馬もこちらに戻してあるから、 あとで確認なさい。」 何から何まで・・・。 俺は、月と詠、それから恋があの馬が戻ってくるのを嬉しそうに話をするのを見ながら 華琳に感謝した。 「いいのよ。本来、こちらから蜀へ改めて謝罪をしに向かわないといけないのだもの。 これくらいはさせてちょうだい。」 そういうと、華琳は手を上げ誰かを呼ぶ。 「曹操様、いかがなさいましたか?」 「一刀と供のものたちに部屋を。それから、幾ばくかの金子も用意しなさい。」 「かしこまりました。」 頭を下げ、侍女の人は下がった。 って、 「おい、華琳。」 お金はいくらなんでも・・・。 「明命がね・・・ふふふ。」 あ、そういうことか。 「はぁ〜〜・・・・悪いな。」 だからいいのよと、華琳はお茶を飲み干し 「それじゃ私は政務に戻るわ。しばらくここに滞在するのだから 何か必要なものがあれば、近くの者になんでもいいなさい。」 そういうと、華琳は政務室のほうへと向かっていった。 「ふーん、まさにいたれりつくせりね。」 詠はそう意地悪そうな目でいうが、 「んー・・・まぁ、好意は受け取っておこう。」 そういうと俺は、席を立ち早速行動にうつった。 荷車、道具、それを作成するための工具一式などを侍女さんや兵士の人に言って 用意してもらう。その間ー ー厩舎 さて、準備してもらっている間に俺たちは一刀一号の様子を見に来た。 案内してもらったところによれば・・・たしか・・・ 「ヒヒーンっ!」 「こら!やめないか!」 ん? 何か、厩舎のほうが騒がしい。 俺たちは急ぎ、厩舎のほうへ向かった。 すると、そこには俺たちですら、呆然・・・いや、俺は真っ青になる場面であった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・・・へぅ〜。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・あー。」 「・・・・・・・・・・・・嬉しそう。」 全員、その場に凍りついたように動かない。 そこに広がる光景は、まぁいうなれば雄馬と牝馬のナニシーンであった。 ただ・・・ただ! それだけならいい! だが、そいつはあろうことか 華琳の愛馬・絶影に乗っかっていやがったのだ! 「な、な・・・。」 そのあまりの光景に俺は驚きおののいたが、詠がつぶやくように 「やっぱり、ボクの勘は外れてはいなかったようね。」 名前ってそっちのことかーーーーーー! 一刀一号は、必死になって絶影にまたがっている。 番役の兵士は数人がかりでそれを慌てて、離そうとするが時すでに遅し・・・ 「ヒヒーン♪」 やつは、妙にすっきりしたように絶影から降りて、 絶影の首元に自分の鼻をこするようにしていた。 相手の絶影もなんだか幸せそうに・・・。 「へ、へぅ〜〜〜。」 「・・・種付け・・・終わった?」 恋〜〜〜〜そんな率直だめ〜〜〜〜! ああ・・・終わった。 いろんな意味で終わった・・・。 「ピンときてたのよね。あの眉間の傷・・・妙にボクたちに馴れ馴れしいところとかね。」 詠はメガネをくいっと上げながら自慢げに語った。 こうして、俺たちと一刀一号は衝撃的な再会を果たした。 兵士たちのもう終わったという感じの膝を折った姿を見ながら・・・俺は思った。 蜀魏同盟の均衡がこれで崩れたらどうしよう、と。 その後、事の次第を知った華琳は、 手に絶を持って厩舎に駆け込んできたのはいうまでもなかった。 ・・・必死で俺が制して土下座をして詫びを入れたのも以下略・・・。 とりあえずそんなこともあったが、一刀一号とも災会・・・再会し、 死罪・・・資材と道具を用意してもらった俺たちは早速作成にあたった。 詠は主に、設計図を見ながら指示を 月は俺の身の回りのお世話を 恋は、セキトと遊びながらたまに手伝いを 一刀一号には独房を 俺は詠の指示に沿って荷車と道具作り、月の入れたお茶でまったりしたり、 セキトと恋にくっつかれたり、落ち込んでいる一刀一号を慰めにいったり、 気づくと、あっという間に3日経過していた。 そしてー 現在は月の光に照らされながら寝具で横になり、 今後のことを考えていた。 通常であれば、5日でやりきる予定が色々あって明日で4日・・・ 予定では残り2日間で演説をしなければならない・・・。 これじゃ周辺の町にしかいけないことになる。 そのあとすぐに、呉へ向かうことになるので 休む暇なんてあったもんじゃない。 「はぁ〜・・・。」 俺はため息を吐きながら一番の懸念事項である 偽師団についても考えていた。 この3日間、華琳は逐一情報をくれていた。 現在蜀の太師は許昌に滞在しているため、世に出ている太師を語るものは 即刻捕らえること。だが、ある日以降に太師は町を回り活動するためその場合に限り、 あるものを確認することを実施し、そいつが偽者か本物かを見分けるように という布令を魏領内のその全てにしてくれた。 そのおかげか、取締りの数が増加し日に日に偽者の数は減っていったが、 大きな都ではまだ現状では結構いるため、明日からの活動において俺かどうかの 確認も重要になってくるだろう。 そして各地方に放った軍師たちと先に再会した雪蓮たちの捜索により、 裏づけを行い相手のアジトらしき場所を割り出すことに成功。 黒幕とされる主要な人物は捕まったらしいのだが、何人かは逃亡したとのことだ。 だが、戦で将を討てば敗走となるかの如く偽師団としての組織は解体されていくことになると思う。 しかしながら俺が唯一気になるのは、逃亡者の中に主要なものの片割れがいないかどうか、 特に軍師級のものの存在が一番厄介に見えるんだが・・・まぁそれは魏の人たちが解決するだろうからな。 しかし、今回の一件は本当にためになった。 「噂は良くもなれば、悪くもなる・・・か。」 俺の使った口コミ作戦は、悪く使えばこのような騒ぎをも引き起こすということを、 俺は念頭に入れてなかった。 「まだまだ未熟すぎるな俺は。」 そうつぶやき、寝返りを打つと扉の前に人の気配を感じる。 「一刀、起きているかしら?」 扉の前から聞こえた声は、華琳だった。 こんな夜に一体何の用だろう。 「ああ、起きてるよ。どうぞ。」 俺は、起き上がりながら寝具から体を起こし入室を促す。 失礼するわという声とともに、華琳が入ってくる。 「どうしたんだ?こんな夜更けに。」 そう聞くと、俺は腰を上げようとする・・・が 華琳は素早く俺の元へ来ると、俺の体を押し倒した。 「ちょっ、な、なんだ?」 俺はその一瞬のことに頭が回らなかった。 「ふふ。なんだ?・・・とは失礼ね。こうしてわざわざ夜這いにきて上げたというのに。」 ・・・。 ・・・・・・。 え!? よ、 「夜這い〜〜〜!?」 俺は合点がいったそのことを、華琳に尋ねた。 「そうよ、夜這い。ここ最近忙しかったのでしょう? 色々とたまってるようなら私が手伝ってあげようかと思って・・・ね?」 そういうと、華琳はすっと俺の体を撫でた。 うっ、と俺はその気持ち良さに我を忘れそうになる。 「ほら、遠慮しなくていいのよ。今、あなたの目の前にいるのは王ではなく一人の女。 あなたの溜まっているものを全て吐き出しなさいな?」 妖艶に彩られたその微笑みはとても普通の時の華琳とは似ても似つかないほどであった。 「私ね、一刀のことがほしくなったのよ。あなたの名ではなく・・・あなたの風評でもなく・・・ あなた自身を・・・ね?」 「それに、蜀の王・桃香以下主要な将とはただならぬ関係なのでしょう? あなたの種馬っぷりはこの耳にも聞こえているくらいよ。だから、遠慮なんて・・・いらない・・・わ・・・。」 そうして、華琳は俺の両頬を掴むと口づけをしようと口を寄せてきた。 だがー ーぐっ! 俺は、華琳の肩を掴むとそれを止めて、体を起こした。 「・・・あら?どうしたの?」 華琳は止められたことに驚いたのか、意外そうに問いかけた。 「・・・すまん、それ以上続けるなら・・・俺はここで自害する。」 「!?」 俺の言葉に華琳は驚いていた。 「・・・・・・。」 そうして少しの沈黙後、華琳は卓に席をつき 「どういうつもり?私の誘いを断るなんて・・・。」 腕を組み、俺を睨みながら尋ねてきた。 「・・・どういうつもりも、俺はお前のことを愛していない。・・・それだけだ。」 そういうと俺は、華琳に続けて話をした。 「俺はただたんに、自分が快楽を貪りたいがために あの子たちと関係を持ったわけじゃない。 そこに愛があったから彼女たちを抱いたんだ。」 彼女たちと知り合い、苦楽を共にし、様々な交流を持ち深く彼女たちを知っていくうちに 彼女たちを心から愛するようになった。そして、その絆は今なおこうして続いていて、 それを裏切ることは絶対にしたくない、するくらいなら潔く自害をしたほうが 彼女たちへの愛を貫き通せると俺は華琳に説明していった。 「だから、ごめん。」 俺はそう謝り、俺のいいたいことを終えた。 「・・・そう。」 華琳は表情の見えないくらいに俯いていたが、俺の言葉を聞くと 颯爽とその場を後にした。 「・・・。」 なんとも言えない空気がその場を包んだが、俺は寝具に寝そべった。 はぁ・・・今日は眠れないな・・・。 そう考えながら、俺は窓から見える月を見上げていた。 ー一刀の寝室から少し離れた場所。 一刀の部屋を出た華琳は、私室へと戻っていた。 その途中、 「華琳様。」 その道を遮るように、秋蘭が立っていた。 「あら、何かあったのかしら?」 そう華琳はいつもの表情で尋ねる。 「・・・お戯れもほどほどにしませんと北郷殿が真に受けてしまいますぞ。」 一刀にも絆があるように、華琳と秋蘭にも絆はある。 そのために華琳の表情を読んだ秋蘭はそう進言した。 「・・・ふふふ、気づいた?」 華琳はそういうと、庭のほうに出る。 秋蘭はそれに続き、 「華琳様が本気であるならば、そのような顔をしませぬ。 我々を閨で可愛がるあのような顔には・・・。」 そういうと華琳に微笑んだ。 「器が大きくとも、色事に盲目的というわけではない・・・ そこにあるのは私と春蘭、秋蘭たちのような絆がなくてはならない・・・か。」 華琳はそう言うと、秋蘭に向かって 「でもね、私の本気をも読み取れずああも真っ直ぐ返す素直さは・・・ 後々あの男を苦しめることにもなりかねないわ。」 「しかしながら、それも雪蓮殿がおっしゃっている通り、 可愛いとそういいたいのですかな?」 秋蘭はそういいながら、華琳を私室のほうへ促した。 「ふふふ・・・。それはまだわからないわ。でも・・・。」 あの男であれば、この私の中にある孤独を埋めてくれるかもしれない。 そう心の中にふと囁き、私室へと向かうのだった。 翌日、俺は眠い目をこすりながらも華琳に礼を言うため玉座の間に訪れた。 昨日の夜のこともあるから、顔を合わせにくかったが、 会ってみればどうだろう昨日のことなどなかったかのような感じで、 気遣いの言葉と激励をしてくれて何事もなく見送ってくれた。 ・・・んー・・・女の子はよくわからん・・・。 そして、許昌・洛陽といった主要なところを回り 期限の2日を全て演説に費やした。 その最中ー 「そういえば、偽者の話は最近ぱったりとこないわね?」 詠は演説の道具を片付けながらそう話しかけてきた。 「そうだな、もう偽師団自体なくなったんじゃないか?」 この一件で捕らえたものは、世を乱した罪により全て斬首。 雪蓮たちが追っていたものたちは、華琳への連絡のため、 戻ってくる途中であった春蘭とかち合うことになり、 春蘭の独断でその場で首を刎ねられたらしい。 そういや春蘭は蜀から星、呉からは祭さんらとともに 西の砦においての五胡の監視官の任にあたってたっけ。 「ま、それならそれでいいんだけど。ところで、 結局その"腕"の策は無駄になったわね。」 詠は俺の策が使えなくなったことが嬉しいのか、 意地悪な笑いでそうつっこんだ。 "腕"の策というのは、俺の服かそうじゃないかを見分けるための策で 俺の制服には、聖・フランチェスカの校章がついているが、この時代において それを真似ようとするのは不可能に近く、その点を考慮した・・・ま、単純なものだった。 この二日はぱったりとそれがなく、演説内容も批判とかではないため 一度もそれを確認するといったことはなかった。 「いいんだよ、使わずとも結果良ければ全てよし!ってやつだよ。」 なによそれと、悔しそうじゃない俺に不満だったのかぶつぶついいながら撤去作業を続けていた。 月はそんな詠の姿をやわらかい笑顔で見ながら、積荷を確認していた。 「ヒヒーン♪」 「・・・・・・よしよし。」 恋のまかなえそうな力仕事はないため、恋は一刀一号を撫でていた。 その下ではセキトがくぅ〜んといって寂しそうにしていた。 俺はそんな光景を見ながら、撤去作業を再開した。 そして、予定の日程を終えた俺たちはその足で呉は江陵へ向けて出発した。 呉では何もありませんようにー という、俺の願いは苦しくも外れることになる・・・。 ー某所 「ん〜〜〜!ん〜〜〜!」 俺は、誘拐されていたのだった。 な、なんでだよ・・・。 しかも俺の横に転がっていたのは・・・ 「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」 なんか懐かしいと感じるほどに 卑猥な縛られ方をした白馬長史・公孫賛こと白蓮であった。 なんで、白蓮がここに? 俺が疑問に思っていたその時ー ガガーっという音とともに、 人がこちらに近づいてきた。 そして、男の持っていた松明で見えた手にあったのは 十字架を逆さまにしたような刺青であった。 偽師団の刺青か。 だが、それよりもその中央にいる顔を見た時、 俺はとてつもなく信じられないといった心境に陥った。 その顔は・・・我が蜀の双璧の智・雛里であったからだった。 二人との約束まであと??日。                    〜もずく〜