──真√── 真・恋姫†無双 外史 北郷新勢力ルート:Interlude8 **  時は、劉備が永安へと船を走らせ、曹操が河北四州を平定しようと猛進し、孫策が江南を平定しようとしている頃。 北郷一刀は、一人の少女の訪問を受けていた。  訪問と言っても正式なものではなく、深夜に近い夜、部屋に一人で居たところ、いつの間にか部屋の中に居た…… と言う形でだが。 「それで……君は誰で、俺にどんな用かな?」  普通に考えれば暗殺者辺り……だが、一刀はそれを除外した。仮に暗殺者であれば、自分は既に死んでいておかしくない。 ……それほどまでに、少女は一刀の部屋に『自然に』存在していた。  一刀に問われた少女は恭しく礼をすると、静かに口を開いた。 「お初にお目にかかります……我が名は管輅。予言を授けに参りました」  ……と。                       ◇◆◇  一刀は、自分の正面に座った、管輅と名乗った少女を見ながら、正史における管輅の事を思い浮かべる。 ……といっても、彼が知っているのは大雑把な事でしかないのだが。  つまり、管輅は三国時代に生きた『占い師』である……だ。 「……管輅さん、さっきあなたは予言って言ったけど……占いとは違うのかな?」 「おや、そこに気づかれましたか。はい、世間一般の占い師であれば、予言も占いも同じ事でありましょう。 ですが、私の場合は少々事情が変わりまして……。  私にとっての占いとは、星の数ある未来の中からある程度を絞り出し、選択の為の指標や助言を授ける……と言った事。  ですが予言は違います。  ……私にとっての予言とは、星の数程ある未来の中で、“起こさなくてはいけない事象”を起こす為に行う事ですから」    北郷一刀は一瞬、管輅が何を言ったのかが理解できなかった。  ……無理もあるまい。彼女はこう言ったに等しいのだ。『自分が予言を行えば、それは必ず真実となる』と。 「…………そんな事が……可能だって言うのか?」  信じられないと言う様子で呟く一刀へ、しかし管輅は静かに頷き、そして言った── 「はい。それがこの外史の管理者の一人である私の役目であり──貴方様をこの外史へ呼んだのもまた、その予言の力なのですから──」  一瞬にして、体を緊張が駆け巡り、ゴクリ、と、息をのむ音が聞こえた。  それは己が立てた音であるにも関わらず、北郷一刀には、遠い音に聞こえていた。  ……自分をこの世界へ連れてきた“原因”が目の前に居る──。  その突如突きつけられた事実が重く圧し掛かる。  「そんなばかな」と、笑い飛ばしてしまえればどれ程楽になるだろうか。  だが──目の前に居る少女からは、決してそれが冗談ではない思えるほどの雰囲気が漂っていた。  そして恐らくは……それは事実なのであろう。理由も根拠も無いのだけれど。  一刀はそれを頭の中で幾度と無く繰り返し……一刀はふとその緊張を解き、僅かに微笑んだ。  その反応に、管輅が「意外」といった表情を見せる。 「……私を、お恨みにならないのですか?」 「そう……だね。もしもっと早くに君と出会っていたのなら──俺は君に怒り、怒鳴り散らしていただろう。  もし俺がもっと辛い目に遭っていたのなら──俺は君を恨みに恨んでいたと思うよ」  そこまで言って小さく息を吐き、軽くかぶりを振って「けど──」と続ける。 「だけど、今は然程恨んではいない……かな?  確かに大変な事ばかりだった。  確かに辛い事も多く有った。  だけど、この世界に来たお陰で……俺は大切なものがいくつも出来たんだから」  一刀の言葉を聴いた管輅は、「……そうですか……」とふと柔らかな微笑みを浮かべ、言う。  そして静かに立ち上がり、もう一度、先程の様に恭しく礼をすると、 「では……予言を述べさせて頂きます」  その言葉に、一瞬身を硬くした一刀へ、 「そう緊張なさらないで下さい。……大丈夫です。これは、私から貴方様への、せめてもの謝罪と御礼ですので……」  と、微笑みかけながら告げた。  そして── 「──汝、遠き未来に決断の時が訪れる。  其は汝が行く末を決めしもの。  心せよ。其は終りの時に訪れる。  心せよ──其は全て、汝が心のままにある──」  管輅は現れた時と同じように……一刀が気が付いた時には、既にその場から消えていたのだった。