一刀の校長物語 Ep1〜奮闘編〜 第四話「一刀、一計を案じるのこと」 ―許昌・華琳の屋敷 「華琳様。」 すっと、魏の名将・夏侯淵・・・秋蘭が華琳の私室へ入った。 「どうだった?」 華琳は、そんな秋蘭の姿を目に止めると、書き付け中の筆を置きながら問いかけた。 「はっ、北のほうではまだ出てないようです。 しかし、上庸にて本日2名またもや同じ白い格好をしたものが現れたとのこと。」 秋蘭は、華琳の前に立ち報告をする。 「・・・そう。これで、もう12件目ね。偽の北郷一刀は。」 「はい。これも桃香殿が任命した頃から増える一方・・・。 仮に本物が現れたとして、それが誤りとあっても処刑などした場合は・・・。」 その状況を想像したのか、秋蘭は少し顔を青ざめた。 「桃香・・・いいえ、蜀の全戦力との戦となってしまうわね。」 「それも、将から民に至るまでその全てが死兵となりましょう。」 秋蘭は、額に少しかいた汗をぬぐうようにすると、 「ふふ。そうね。この私としてもそれだけは避けたいところよ。 今一度、誤認のないよう徹底させなさい。 まぁでも、あいつには天下の飛将軍・呂布がついてるもの大丈夫だと思うけれど、 相手は蜀の王にも等しいモノ。万が一があっては・・・ね。」 そういいながら、華琳は席を立つ。 「はっ!・・・しかし華琳様、この件は早急に解決をなさいませぬと。 いずれは、魏内だけに収まることではなくなりつつあります。」 「解かっているわ。私の覇道に天意を失った今、自らが行うのは安寧の政治。 その安寧を奪う権利も何もない負け組さんたちには早々に退場してもらわないと。 ふふ・・・。それにしても、この曹孟徳もずいぶんと甘ちゃんになったものね。」 華琳は自虐的に笑みを浮かべながら秋蘭へと呟いた。 「何をおっしゃいます。民のためにというのは、覇道をひた走っていた頃とは なんら変わりのない望み。この夏侯妙才、その時とはなんらその気持ちは変わっておりませぬ。」 華琳へ絶対なる信頼の礼と笑顔でもって、秋蘭は答えた。 「それで?桂花たちはどうしてるのかしら?」 「はっ、桂花は主に西のほうを、風は東、稟は南の町を中心に裏づけを取っているところ、 まもなく報告も入りましょう。」 「そう。"偽師団"・・・ね。なんて名前付けに風情のないものたちなのかしら。」 「しかしながら相手は滅びた勢力の結集とされるものたち。油断はできないでしょう。」 「そうね。それで、北郷には間違いなくきちんと通行許可証は送ってあるのでしょうね?」 「はっ、現在居城している白帝において、荷車を作成していた北郷へたしかに手渡したとの報告をもらっております。 その点はぬかりございません。」 「荷車を作ってたって・・・。何してるのかしら?あの男は。」 そんなことをいいながらどこか、その表情を懸想するように華琳は笑った。 「こちらにはいつくると?」 「はっ、北郷の話では3日後には挨拶にくるという文をいただいてます。」 「そう。まぁ、暇があれば見てあげてもいいかもしれないわね。」 「ふふ、華琳様。素直に見て見たいとおっしゃればよろしいのでは?」 「あら、私はいつだって素直よ?」 「でもまぁ、それなら大丈夫よね?」 そう問いながら、華琳は秋蘭のアゴを撫でながら閨へと誘った。 「ぁ・・・ はっ、詮無きことかと。」 そう答えると、秋蘭は潤んだ目で華琳の手に引かれ 自らの衣を払い、華琳とともに閨へと赴くのであった。 ―上庸・牢 俺は、絶望していた。 必死に頑張って作った荷車、そして各地で演説するために 慣れないながらも頑張って作った道具たち。 それが一瞬にしてまさに灰となってしまったからだ。 まさかそこまでされるとは考えていなかった・・・。 あの時恋を・・・いや、いいんだ。でも・・・ 燃やされたことが自分のしたことに対して、 否定されたみたいに俺の目には映ってしまったのだ。 明日処刑され、・・・いやされずとも恋が暴れりゃ露見することになる。 このことが露見すれば、三国の同盟は揺らぐ。揺らげば・・・ また戦乱に逆戻りになるだろう。 ・・・。 無用な戦。 ・・・・・・。 桃香と語った"みんなが笑顔に暮らせる世界" ・・・・・・・・・・・・だめだ! そうだ、だめだ。こんな風に考えたら。 これじゃ一体なんのためにやってきたのか、解からなくなる。 そういうものを目指すために作るものだろう? そういうものを実現するために頑張ってるんだろう? 俺は自分自身に語りかけると、 ―バチーンっ! 「〜〜〜っ!・・・よし!!」 両手で自分の両頬を張り、立ち上がった。 「・・・ご主人様?」 そんな俺を不思議そうな顔で恋が見つめた。 「いや、悪い。なんでもないんだ。ただちょっと、 府抜けた自分に罰を入れてやっただけだ。」 「・・・ふん。やっと目が覚めたようね。」 隣の牢から詠の声が聞こえた。 その声は呆れた声だ。 「ああ、すまない。それで軍師殿?ここから抜け出す算段は見つかるかな?」 俺はわざと明るい声でそう詠に問いかけた。 「・・・ふぅ。まぁ、それはセキト次第になるわね。」 そういいながら、詠は作戦を述べた。 幸いにも、この牢の鍵は出口の真横にかけられているらしい。 連行されるときに詠が見つけたみたいだ。 だが、問題はそこまで行く宛だ。 この中で、牢の隙間を抜けることができるのはセキトのみだ。 それもかなりギリギリで。 そして、セキトが鍵を取りにいきうまくいったとしても、 先ほど同じように牢に入った囚人や他にもいそうな囚人が俺も出せーと騒ぐ恐れがある。 それゆえに、みんなが寝静まる頃まで待ってからセキトを向かわせるのが上策であろう。 詠の懸念のとおり、セキトに鍵がきちんと取れるかにもよるが。 「恋、頼めるか?」 俺は、主の恋に確認を取る。 「・・・うん。セキト、みんなが寝静まったら教えて。」 恋はセキトにささやくと、セキトは元気にわんっ!と一鳴きした。 「セキトのほうはよさそうね。それじゃしばらく待ちましょ。」 詠はそういうとそれっきり、声が聞こえなくなる。 きっと、月に作戦の内容を伝えているのだろう。 俺は、セキトの耳を頼りにし、 少し疲れていたため、寝るように石壁へ体をもたれた。 ・・・。 ・・・・・・。 あ、しまった。 俺としたことが、なにしてるんだ。 ぱっともたれていた体を起こすと、月の光が当たるほうの壁へ向かい ズボンのポケットに入っていたお金を出し、石壁に彫っていった。 そんな俺の奇妙な行動を、恋は不思議そうに見ていた。 そして、しばらく時が経ち― 俺は疲れのためか少しウトウトしていたが、 「・・・ご主人様。みんな・・・寝たみたい。」 恋がくいっくいっと、俺の袖を引く。 その合図で、俺は急いで詠に限りなく下げた声量で声をかけた。 何度か呼ぶと詠も気づいたらしく、小さな声でそっと 「ええ、作戦の開始よ。」 と、答えた。 恋にそのことを伝えると、恋はセキトを放ち 牢の地面との隙間から必死に抜けるセキトに声援を送った。 「・・・がんばれ。セキト。」 何度目か、ぐりぐりしていたセキトは地面との隙間から抜け出し、 そのまま鍵のある場所まで向かう。 そして、その小さな体躯を必死にピョンピョンと跳ねさせ、 鍵を取る。 セキト、今はお前だけが頼りだという思いと 兵士がこないようにという願いをかけながら、俺はその様子を見守った。 そしてついに、セキトは鍵をくわえることに成功した。 よし、よくやったぞ!セキト。 そのままセキトは恋のいるほうへ戻ってきて、恋から鍵を受け取る。 俺は、鍵を手に鉄格子の隙間から外部にある鍵穴に入れようとした・・・・・・が、 「あ、あれ?」 その鉄格子の隙間は俺の腕よりも細く、通すことができない。 少し、へこみそうになったが俺の腕よりも細い恋に今度はお願いした。 「・・・・・・だめ、恋の腕・・・通らない。」 恋は何度か鉄格子の隙間から手を入れようとするが恋でもダメであった。 俺は詠に声をかける。 「詠、俺たちの腕じゃ鉄格子の隙間には通らない。どうする?」 そういうと、詠は 「・・・ちょっと待ってなさい。」 と、声が遠くなったが 「あたしの腕なら通るから、セキトにもう一度鍵をくわえさせてこちらに誘導してちょうだい。」 俺はわかったと声をかけ、恋のほうに向き直った。だが、 「・・・・・・。」 恋は、じーっと鉄格子のほうを見ていた。 「れ、恋?」 俺が声をかけた。そして、こちらを向き 「・・・ご主人様、ここ・・・少し歪んでる。」 と、声をかけてきた。 「それって・・・この格子を取れそうってことか?」 恋が肯定するように首を縦に振る。すると、 恋は鉄格子を両手に掴み、ぐっと力を入れた。 すると、がこっ!という音とともに鉄格子が外れ人が通り抜られる隙間が― 「おー。」 詠が立てた作戦とこれまでの行動が 思いっきり無駄になってしまったが、結果オーライだ。 鉄格子の音が外れる音が聞こえたのだろうか、詠が 「はぁ・・・。あたしのメンツまるつぶれじゃない。」 と、ため息を漏らしたのはいうまでもない。 そんなことがありつつも、俺たちは牢を抜け出し 隣の牢に入ってる月と詠の牢の鍵を開けて出してあげた。 そして、慎重に出口の扉の前に張り付き、恋に兵士の気配を探ってもらった。 「・・・右のほうに二人。・・・なんか、うろうろしてる。」 「周辺には誰もいないか?」 「・・・その人たちの奥に、いっぱい。」 ということは、右のほうにいるのは見張り、 奥は駐屯所のような施設というわけか・・・よし、これならなんとかいけそうだな。 「じゃあ静かにいくぞ。」 そう声をかけ、扉をゆっくり開く。 そして、そのまま右手に見える兵士たちに気づかれないように、 左のほうへ移動し物陰に隠れて様子を伺った。 「順調ね。出口は・・・」 そういうと、詠は思い出すかのように考え始めた。 さすがは元・董卓軍軍師。この程度の位置取りなどは連行中に頭に入れてるということか。 しばらく考えた後、 「私たちは西のほうからあそこの牢に、ということは・・・」 物陰から、右のほうへ指を指すと 「兵士のいるほうが出口になるわね・・・それに門番も当然いるわ。」 その言葉に、がっかりとしながらも 「あそこの建物にいる兵たちに気づかなければいいんだから、 少しあの二人と門番にはおねんねしてもらうしか・・・ないわよね?」 詠はそういうと、意地悪な目でこちらを見る。 月の光に照らされたその目はまた普段よりも際立っているな。 「・・・なるべくなら・・・危害加えたくないんだよな〜・・・。」 そう考え俺は、何気に恋のほうを見る。 その恋は、先ほどからある一点を見ている。 倉庫のようなものに見えるがそこに何かー 倉庫・・・。 ! 「でかした、恋!」 俺は恋の頭をグリグリすると、詠に話す。 そして、俺がいわんとしていることがわかるや否や 「・・・ふん、あんたも軍師に向いてると思うわよ。まったく。」 俺より先に気づけなかったことが悔しいのか、詠はぷいっとあちらを向いた。 「とりあえず、恋。倉庫のほうには誰もいないか分かるか?」 「・・・・・・いない。気配残ってるけど、今は・・・いない。」 恋は俺の質問に答えてくれる。ならば、 「詠もそんなに膨れてないで、いくぞ。」 俺たちはみんなを促すと倉庫のほうへ移動した。 室内には、大小さまざまな武器防具などがあり、手ごろなサイズのものも見つかった。 そう、俺たちは兵に偽装し、城に伝令があるという偽報で脱出しようと考えたのだ。 俺はみんなに指示をし、自分に合う鎧をさがしてもらった。 そんな中で、恋は 「・・・あった。」 と俺のほうへかけ寄り、手に持った武器を見せた。 それは、恋の武器である方天画戟であった。 ・・・そっか、だから恋は自分の武器のあるこの倉庫をじっと見つめていたのか。 恋くらいの武将ならば、自分の武器がどこにあるかくらいわかるのかもな。 俺は納得すると、そんな偶然の産物をくれたせめてもの礼に彼女に合う鎧を見繕った。 そして、 「へぅ〜。ご主人様〜、男くさいです〜。」 「あ、汗臭いわ・・・早くでましょう、たまらないわこれ。」 「・・・・・・。」 と、おのおの装着した鎧と重歩兵用のかぶとに不満の声をあげたが、 たしかにこれは同姓の俺でもきつかった。 一人は全くの無反応だったのだが。 ふと、月のほうを見ると 月のかぶとは少し大きいのしかなくぐらぐらしていた。 だ、大丈夫かな・・・月。 気を取りなおし、俺はみんなに指示を出す。 「話は俺がする。みんなは声をださないようにな。」 その言葉に月たちがうなづくと、俺たちは堂々と倉庫を出た。 そこへ、 「おい、お前たち何をしているんだ。」 早速、巡回中らしき兵士に見つかってしまった。 さて、どうするどうすると考え始めた時ー 詠が恋の持っている武器に自分の手をこつんこつんと当てる。 ・・・。 ・・・なるほどね。 「勝手なことをしてすまないが、実は城よりの使いで 蜀の客将・呂布殿の武器が何ものかによって盗まれたそうだ。」 俺たちは、その検分役として城より使わされ、あらゆる関所でその盗まれた武器かどうかを見回っており、 もしそれが本物であれば、至急城まで持ってくるようにという厳命をいただいたと説明を兵士にした。 「その武器が本物かどうかなど、どうしてわかる?」 兵士は疑問をぶつける。 「いただいた呂布殿がお持ちのものと同じくらいの戟の手秤、 そして特徴を夏侯淵将軍より授かった。・・・これが理由だ。」 俺はここであえて、華琳の腹心でもある秋蘭の名前を出してみた。 「ふむ、夏侯淵将軍からか。ということは、内密にと受け取ってよいのか?」 うし、ビンゴ。 華琳の腹心は、主に軍師と夏侯惇、夏侯淵の両方に当たる。 このうち主に魏使として頻繁に華琳の言葉を王に伝える役を担うのは、秋蘭。 俺も何度かその場面を見ており、外交向けの案件ならばまず秋蘭が話しを通すだろうと 道筋を建てた。 その外交役の秋蘭の指示で、軍師級に頭脳明晰な秋蘭ならば 細作を放ち内密にことを進めそうだというのは、魏の兵士では納得もしやすい事柄といえる。 「ああ、急を要する。見つかったと解かれば明朝にでも蜀のほうへ引き渡したいとのことだ。」 俺が急いでいるという意味でアプローチをすると、 「了解した。貴殿も理解されてるだろうが道中、"偽師団"には気をつけてくれ。 この関所も今日でそのものと思われるものが2度進入しようとしたからな。 まぁ、いつものとおり明日死罪となるが、こう毎度毎度のことととなると・・・。」 それからも兵士はぶつぶつと何か言っていた。しかし、急ぐ旨を伝え、 俺たちはその場で見送られ出口の門のほうへと歩き出す。 しかし、なんだろう?偽師団って・・・。 しかも毎度毎度・・・。 俺は一人疑問に思いながらも、門へと向かった。 「勤めご苦労。我々は曹操様の城へ赴き急ぎ伝えねばならぬこととなった。 詳細は、折って連絡があろうが今は一刻も早く向かいたいところなので、 門をあけてもらいたい。」 「はっ!」 先ほどの兵士とは全く違うことをその門番に話すと門番たちは関の出口を開け、 上庸の町への入り口の道をあける。 「道中気をつけて。」 道をあけた門番の兵士たちは、俺にそう声をかけると俺たちを見送ってくれた。 ・・・なんか悪いことしてる気分だが、こればっかりは仕方ないよな〜。 そんなことを考えながら、 「ああ、すまない。礼をいう。」 と、勤めて心の声とはまるっきり逆の声で兵士に礼を言った。 そして、俺たちが順調に町のほうへと移動していたその時、一つの不幸が起こった。 ぐらぐらとしていた月のかぶとが、ふいにカランっと音を立てて落ちてしまったのだ。 「!!」 門番の兵士たちはかぶとの中から姿を現した月に唖然とし、 「貴様は、夕刻に捕らえた偽者の供のもの!ということは・・・。」 「賊だー!であえー!」 門番の兵士たちはそういうと槍を片手に攻撃態勢を取った。 「あちゃ〜。」 俺はうまくいくはずだった策が、先ほどの懸念も深く考えず 月の頭の小ささを考慮してなかったことを恥じた。 「ふん、やっぱりあんたは軍師には向かないわ!」 そういうと、詠はかぶとを取り鎧を脱ぎ捨てた。 それに合わせ、ため息をつきながら俺も装着したものを取った。 その間にも、じりじりと兵士は俺たちに槍をちらつかせ 「おとなしくしろ!もはや、言い逃れはできなくなったぞ!偽師団め!」 その門番の呼びかけに集まった兵士たちも、俺たちを見ると槍を持って応戦しようとした。 だが、恋の放つ威圧感に飲まれているのか、ひるんで誰も動けずにいた。 うわ〜ぞろぞろとまた・・・。 その数、13,14といったところか。 「詠、どうするんだ?」 月の装着をはずす手伝いをしていた詠に向かって俺は聞く。 「ふん、恋。彼らの手前の地面に思いっきり攻撃をしなさい!」 「・・・・・・コク。」 その言葉に頷くと、恋は構えた。 「恋、怪我させないようにな。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コク。」 その長い間は怖いですって、恋さん。 月の鎧が脱ぎ終わったのだろう、詠は 「じゃあいい?恋が地面に攻撃したら一斉に逃げるわよ。」 「う、うん。」 「了解。」 そして、恋は彼らのほうへ向かって空気を振るわせる強烈な大降りをした。 すると、 ―ズシャーッ! 彼らの前の地面が炸裂し、土煙が上がる。 なるほどな、目潰しか。 俺は納得しながら、とっさに走り出した。 月の手を引き、またもう片方に詠の手を引いて。 恋は・・・よしガシャガシャと走りづらそうだがついてきてるな。 「くそ!前がみえん。みな、早くこの土煙をなんとかするのだ。」 兵士たちは突然のことに、夢中で土煙をおさめようとするが 歩き出してからそれなりに距離を置いていた俺たちに追いつくこともなく。 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・あーつかれた。」 俺たちは、迂回しながら町の中へ入り、路地の隅に逃げ込んだ。 「ハァ・・・ハァ・・・へぅ〜・・・こほっこほっ。」 「あ、あんた・・・ハァ・・・無理させんじゃ・・・ハァ・・・ないわよ・・・。」 月は咳き込み、詠は息切れしながらも悪態をつく。 月の背中をポンポンとしながら、 「なんとか、脱出できたな。」 と落ち着いたところへ、恋が戻ってきた。 「ただいま。」 「おかえり恋、それで?兵士たちは新野のほうへ?」 と質問すると、恋はコクッと頷く。 一応こういう陽動用に、俺がまだ手に持っていたかぶとを先ほど 恋に渡し、兵士たちに自分の存在を知らせ新野への道に誘導したあとその途中で 捨てるようにという指示でその場は分かれた。 俺たちはというと、そのまま上庸へは入らず事の成り行きを見守るため暗がりのところへ移動し、 恋のほうへ追って行く兵士たちを確認した。 そして迂回し、町に入った。合流に関しても、あらかじめ恋には人通りのない路地の陰にということを いっていたので、気配の探れる恋としてはさほど問題はなかった。 この脱出の功労者・恋にお礼をする。 「お疲れ様、ありがとな。」 「・・・いい。」 といいながら、 ―ヒュン!ヒュン! と、何度か武器を振るとスパッと恋のつけていた鎧は切れた。 しかし、さすがは恋だ。あの距離をその鎧を着ながらも息一つ乱さずとは。。 そういや、セキトはどうしたんだ? 疑問に思っていると、セキトが胸元から顔を出す。 「そこにいたのか。よしよし、お前も功労者だ!」 と、俺はセキトの頭を普段よりも撫でながら納得し、 これからのことを考えた。 「とりあえずこれからどうするか・・・だな。」 そう考えながら、俺は一度どこかで落ち着いたほうがいいだろうと 「まずは宿に向かうか。」 と、みんなを促し路地を出た。 ー上庸・町の宿の一室 「ふぅ・・・。やっと息が整ったわ。」 「そ、それよりも路銀がぎりぎり足りてよかったね〜。」 そうだ、荷車と荷物は焼かれ荷車を引いてくれた馬― 詠の名づけた「一刀一号」は、兵に回収されてしまった。 あの馬、結構気のいいやつで月や詠、恋は当然として 俺にも懐いてくれてたからな、ここまで長旅を供にした馬だけに 寂しい限りだった。 ところで詠は、なんであの馬の名前が俺の名前一号なんだろう? 特徴的だったのは、ヤツの眉間らへんに十文字の傷があることだが・・・ もしかしてそこからか? ・・・・・・ま、今はいいや。 とにかく、荷物の中に入れといた路銀を入れた財布も焼かれて それぞれ手持ちで持っていたお金でなんとか借りることができたのだ。 「路銀もこれからのこと考えれば、あれだけど・・・それよりも、一刀。」 詠はそういうと、俺に向かって 「今の状況、あんたには理解できる?」 と、俺に指を指しながら尋ねた。 そう、白い服、俺の偽者、今日で2件目、そして― 「偽師団のことか?」 俺は詠に向かって答えた。 「そうよ。」 それを聞きながら一連のやりとりを思い出す。 関所で、俺の名前と太師という言葉に偽者偽者という兵士の態度。 夜になって連行された俺と似たような白い服を着た男の存在。 そして脱出時に聞いた偽師団とされる謎の組織の名前と それが毎度のことであり、兵士が明日処刑!とか持ち物を即刻灰にするなどの 手馴れてる感じ・・・。 「あたしたちが益州の町を回ってる時、そんな話聞いたことないでしょ? それに、蒲公英の話でもそのことは上がってない。で、白帝に戻るときも、 また上庸を目指している時もね。」 「ああ、全くなかったな。」 俺は詠の顔を見る。 「それで、魏の国に入った途端にこの騒動。これは魏、あるいは呉の国内でのみってこと。 呉のほうはどうかしらないけど、魏ではこの偽者騒動は兵士たちのあの様子からすると結構前からみたいね。」 詠も一連の兵士の動きを見ていたようだ。 俺は気になった。兵士は太師と言う言葉にやたら反応していた。 ということは、その偽者たちもみんな太師という俺の肩書きを 利用していることになる。 太師という肩書きが流布しだしたのは、今から一月くらい前になる。 そして、俺たちは益州において活動していた。活動していなかったところでも 人の風聞によってその名前は伝わっていた。これは蒲公英からの情報ではあるが。 それは魏へも、そして呉へもということになる。俺はそこも一応は狙っていたが、 ではなぜ、偽者の話は蜀ではなかったんだ? そこから導き出される答え。 「俺に恨みを持つものの犯行か、魏と呉の国内かく乱を狙ったものか、 はたまた俺の肩書きを利用した犯罪なのか・・・。」 俺がそう口にすると、詠が付け加えてこういった。 「もう一つ規模は大きいけど、三国の均衡を崩す・・・ということも可能よ。」 詠はそういうと、改めて椅子に座った。 「でもまだ情報が不足しているわ。想像だけで話の方向を決めるのは愚考というもの。 とりあえず、今日はこのまま休んで明日朝一番で、町の人に聞きこみをしましょ。」 そういうと、詠はため息をつきながら寝具へ向かった。 じゃあと俺は、床に寝そべるようにするがー 「ご、ご主人様〜。」 それを月が止めようとした。 「ん?どうしたんだ?」 「・・・あんた。仮にも蜀の王に等しいものでしょ・・・それを床に寝かせたら 従者役のあたしたちのいい恥よ。」 と、寝具に向かった詠はこちらを見ながら、呆れていた。 「あんたもこっち。ちょっと狭いけど誰か一人が床で寝るよりはいいでしょ?」 そういいながら、寝具に潜っていった。 俺はポリポリと鼻を掻きながら、月と恋を引きつれ寝具に横になる。 今の俺たちは、左隅に詠、右隅に恋、そして俺の上に月がという形に。 なんだこの複数なんちゃらみたいな格好は・・・。 しかし、月って俺の上に乗ってるのに軽いなー。 全く体重を感じさせない月の頭を撫でながら、 「それじゃ、明日は朝から聞きこみな。」 そうしてみんなが納得するのを見ると、あくびとともに襲ってくる睡魔に意識を手放した。 ー翌日。 俺たちは、有り金全部はたいて・・・恋の胃袋を計算に入れてなかった結果だが、 なんとか4人分の食事を済ませ、聞きこみを開始した。 俺は、用心のため白い上着を外しTシャツ姿となった。 とにかく、話を聞く場所か。 ただ話を聞くなら、分散したほうがいい。 ならばこの格好なら安全だろう、ってことで俺はセキトを抱えて一人と一匹、 月と詠には恋をつけ分かれて調査することにした。 そうして、聞きこみを続けると色々なことが解かった。 まず一点。 上庸の関所での出来事は他の関所などでもあったこと。 それも今回までに10回以上はあったらしい。 それから外陰に隠れた謎のモノたちが度々目撃され、 その手甲には十字架を逆さにした・・・そうちょうど剣のような刺青が彫られていたこと。 とりあえずそんなところだ。 そういえば、さっきすれ違ったのもそんな格好だったが・・・。 ・・・。 ・・・・・・。 そして俺はその最悪なすれ違いでー 「貴様だな、北郷一刀。」 謎の男たちに追い詰められて、絶体絶命の途にあった。 肩を捕まれ、その怪しげな雰囲気に脱兎のごとく逃げたはいいが、 じょじょに追い込まれ、人のこないようなところへ追い詰められた。 あーまぁ、こういうのは予想できたから対策はしっかりと取らせてもらったけど。 男二人に対して、威嚇しうーーーっと唸っているセキトに、 その合図をするためー 「セキト、恋を呼ぶんだ」 俺はこそっと、セキトに耳打ちする。 すると、 「わおーーーーーーーーーーーーーーーーー!」 とセキトは良く通る遠吠えをした。 詠たちと俺が分かれて行動するときに、 「・・・ご主人様。セキトと一緒。危ないこと、あったら セキトに遠吠えさせる・・・。」 そういうと、俺にセキトを渡した。 「ああ、ありがとな。」 恋とセキトの絆の深さゆえの策だが、これで恋がやってくるまで 時間を稼げば・・・ってー ービュン! 「うお!」 考えてる途中でいきなり、剣を振られた。 「あ、あぶねぇ。いきなりなにするんだ!」 俺は、話すきっかけを作ろうとするが、相手はどうもそんな気はないらしい。 遠吠えで仲間を呼んだことがばれたか。 さっさと終わらせるかのようにと殺気がヒシヒシと伝わる。 や、やばいなーと思ったその時、 「あら、聞いたことある遠吠えがあると思ってきてみれば、 珍しい人をこんなところで見かけるなんてね。」 その声が聞こえた途端、目の前の男たちはうっと苦しそうな声を上げる。 よくよく見て見ると、二人の後ろには刀がつきつけられて、腕を極められていた。 「・・・動くな。」 「逃げるなんて考えないほうがいいですよ。」 その聞いたことある声に、って 「思春に明命?・・・ってことは、」 俺はその二人の横に立つ人を見ると、その人物は雪蓮だった。 「は〜い♪ひさしぶりね♪」 そんなふうに、手をひらひらさせると男たちに向き直る。 「ーさて、あなたたち?この人誰だかわかっているだろうとは思うけど 一応聞いておこうかしら?何者?」 「北郷・・・一刀・・・。」 首を締められ、苦しそうな声でそう答える。 「ふーん。でもね、残念だけど、外れよ。 その子は私が命じ呉使として 華琳の元に派遣した私の部下よ。」 と、ぺらぺらと嘘八百をその男に言う雪蓮。 おいおい・・・。 「な、なに・・・。」 「それにどういう情報で動いてるのか解からないけれど、白い服も着てないじゃない?」 そう立て続けに男たちに尋ねる。 「我々の見たことも無い格好のものが北郷一刀のはずだ。あの方はそう・・・くっ!」 たしかに、Tシャツとかズボンなんかはこの世界にはないものだ。 んーそこまで頭が回ってなかった・・・。 「あら、バレちゃった?」 そういうと雪蓮はてへっとかわいらしく男たちに笑いかけた。 一体どういうつもりなんだろう? 「ま、そこまで情報を聞ければいいわ。あとは他のやつにでも聞くとする。さてー」 そういうと雪蓮は、剣を抜き 「ここで殺しちゃいたいところだけど、ここは魏領。 私の領でならばいいことも、ここではここでのやり方があるからー といいながら、二人の延髄を剣の柄でドスっと入れる。 思春と明命が縄をかけ、雪蓮がこちらに向き直ったその時ー 「!」 俺には分からなかったが、歴戦の将である三人は同時に動き 何かを必死で受け止めていた。 「・・・くっ!」 「この・・・重い一撃は・・・。」 改めて見ると、恋が思春たちへきりかかろうとし 三人が必死にそれを受け止めている光景だった。 「・・・・・・。」 恋は三人に気づかないのか、無言で力を込める。 「れ、恋・・・。主を守るのは関心なのだけれど・・・私たちにも気づいてほしいわね・・・。」 雪蓮は苦しそうにそういいながら、恋に矛を納めるようにつぶやく。 と、俺は 「やめろ恋!俺は無事だ!それにその子等は味方だ!」 そう叫ぶと、恋はぱっとそこを離れた。 そして、それぞれ矛を納める。 「いたた。まだ腕がしびれてるわ〜。」 「・・・くっ、さすがは呂奉先というべきか。」 「あぅあぅ、なかなかしびれが抜けないのです〜。」 三人は受け止めた側の手を、振りながらつぶやいた。 「悪い!三人とも。」 「・・・ごめん。」 恋は俺に続くように、ペコっと頭を下げた。 「いいわ。主を守るためなんでしょ?まぁ、私たちだからよかったものの 並の兵士とかなら今の一撃だったら武器ごとばっさりだったわね。」 雪蓮は苦笑でそう答えるが、俺は内心ドキドキしてたのは言うまでもない。 孫呉の王を間違えて、蜀の客将が切ってしまったなんて縁起でもない・・・。 「ありがとう。それより、なんで雪蓮がここに?」 そう尋ねるや否や、 「恋待ちなさいよ〜〜〜!」 「へ、へぅ〜〜〜〜〜〜〜」 という二人の声が聞こえた。 「あらら、あの子たちも一緒なのね。ここじゃなんだから、 この男たちを警備につきだして落ち着けるところへ移動しましょっか。」 雪蓮の提案に同意し、俺たちは移動を開始した。 店に入りテーブルにつくと、適当に飲み物を・・・頼もうとするが 俺たちに持ち合わせがもう残ってないため、何も頼まずにいた。 だが、そのことを雪蓮につっこまれて、これまで起こったことを話したら、 遠慮しないで、私がおごってあげるわよ。ということでごしょうばんに預かった。 いやはや、さっきのことといい今回といい面目ない。 「それにしても、災難ね。きちんと正規の通行証見せてるのに 偽者だーって決め付けて牢に入れちゃうなんて。華琳の性格なら、その子たちの首が全員飛ぶでしょうね。」 そんなことをいいながら、お茶をコクっと飲む雪蓮。 そんな時にふとポケットから削れまくったお金が転がった。 俺はそれを拾い、テーブルの上に出すとこう言った。 「ま、それはさすがに可愛そうだからある一計を牢に仕込んどいたよ。」 そう、華琳ならばきっと気づくだろうという一計をね。 それから少し時は戻る。 ー許昌・玉座の間 「なんですって!?」 華琳は、上庸関所で起こったことの報告に、驚いていた。 「華琳様、おそらく本物でしょう。」 兵とともに南からの偵察途中に、今回起こった事件の報を受け 急ぎ、上庸関所で調査をして戻ってきた稟がそう答える。 「私が直接調査にいったところ、 入場の際に、没収した・・・この正規の通行証。 連れていた供の特徴・・・ですが、以前北郷殿がおっしゃっていた メイド服と呼ばれる服装に酷似しているものが二人、こちらは従者でしょう。 また全身に刺青をしており、脱出する際に、 離れた兵の前の地面を砕くなどのはなれ技・・・これは、並のものではできません。 よってこれは呂布殿かと。また土煙に紛れその場を脱し、 確認した逃亡者が新野のほうへ逃げたようです。 これは途中で見失いながらも、道を進んだ先に捨てられたかぶとがあったと報告があり、 おそらく間違いは無いと思いますが・・・」 「陽動ということも考えられる・・・か。全員が新野のほうへと向かっているところは確認できてはいないし また、鎧はそこでなかったならそうとも考えられるわね。」 「はっ。」 「それで?その失態をおかしたものたちの首は当然刎ねたのでしょうね?」 そういうと、華琳はその管轄をまとめる兵士長のほうを怒りを込めた目で見つめる。 兵士はその雰囲気に青い顔をし尻ごみしそうになるが、答えた。 「い、いえ・・・。」 その答えに華琳は、絶を手に兵士にかけ寄ろうとしたがー 「お待ちください、華琳様。」 稟はそれを止める。 「稟、あなたがいながら何をやってるの!わかっているわよね!?事の重大さが!」 華琳は、稟につかみかからんばかりにするが、稟は冷静に 「はっ、本来であれば華琳様のおっしゃるとおりにするところですがー」 そして稟は懐から何かを取りだすとそれを華琳に見せる。 「・・・これはなに?」 「それは、北郷殿が収容されていた牢を調べた時に見つけた、 牢に掘られた文字を墨で塗り、紙に写したものです。」 華琳はそれを手に取ると、読んだ。 "華琳へ お前の性格ならこのことが露見すれば首を刎ねるかもしれないが、 ここは俺に免じて許してやってくれ。といっても罰は罰、鞭打ちとかですませてほしい。 そいつらも国を守るためであって悪気でやってるわけじゃないんだ。 迷惑かけるが、よろしく  北郷一刀" その名前のあとに、○の中に十文字とあった。 それは一刀が文を書いたあと、必ずこれは本人のものというサインであった。 その筆跡と最後の記号らしきもので、華琳は今まで高ぶっていた気持ちを落ち着かせた。 「稟。」 「はっ、責任者は降格処分、責任者、その場にいた兵士は鞭打ち100回としてそのあとは 再調錬とし、関所の全兵士に誤確認の防止。今後一切の誤認行為はなしとし 行ったもの、背いたものは一族郎党も命がないものという勧告、が妥当かと。」 「いいでしょう。しかし・・・・・・ふふふ、あーっはっはっはっは!」 と、華琳はいきなり笑い出した。 先ほどまでとは違う主に稟は不思議そうな目で見る。 「あーおかしい。ねぇ・・・稟。この件どうみる?」 ふふと笑い、そう言いながら華琳はひらひらと紙を揺すり玉座に腰を下ろした。 「はっ。今回の一件、実に北郷殿らしい行動が見受けられます。」 そういうと、稟はクイっとメガネを上げ、 「関所での出来事も、北郷殿が呂布殿に指示をし自らをかばうこともできたでしょう。 しかし、抵抗もせずに大人しく牢に連れて行かれた。これはきっと、華琳様の行動を読んでのことかと。」 「続けなさい。」 「はい、もしそこで華琳様が裁かれれば当然先ほどのように首を刎ねられたでしょう。 しかし、北郷殿は知ってのとおり優しすぎる。 その優しさは民を選ばず、国を選ばず。 首を刎ねるということを北郷殿はよしとはしない。 その時に脱出のことも念頭にあり、 自分が今大人しくして、事の成り行きを見守ろうとした。 しかし自分に不都合なことがあったため脱出を決断したが、 そこで何もせずに脱出すれば、本人にとってはよしとしないこととなる。 ならばと、脱出の時に何かしらの手を加えておけばよいのではと考えて 今回のこの石壁への書き置きかと。」 「ふふ、だいたいはそうね。ならば、このものにこういう使いを出すとしたらどう?」 「は?」 「あなた、先ほどの稟がいった処罰は覚えてるわね?」 と、稟の横に立つ兵士に尋ねる。 「はっ!」 「ならばこうも伝えなさい。あなたたちは本来犯してはならないことをした。 当然打ち首だったところを、あなたたちが誤って捕まえた 蜀の天遣太師・北郷一刀からの恩情により鞭打ちと降格という罰のみですんだ。 せいぜい、北郷一刀に感謝して今後もより一層の忠勤に励むこと。とね。」 そういうと、手に持っていた紙を兵士に渡す。 「はっ!一語一句もらさずに!」 兵士は自分の首刎ねも免れたことに歓喜し、 大事そうにその紙を受け取り、玉座の間をあとにした。 「・・・なるほど。そういうことですか。」 稟は関心したように、納得する。 「ですが、華琳様。失礼に当たることかと思いますがあの北郷殿が そこまで考えているものでしょうか・・・。」 「そうね、普段であればあの男ものほほーんの優しすぎ、甘すぎ、 女にだらしなさすぎというただの北郷一刀でしょう。でも、ただの男じゃ 桃香と肩を並べ弱小勢力から三国の盟主となり今回の一件のような行動をするかしら?」 「たしかに、・・・失言でした。」 そう微笑むと、華琳は足を組み返る。 「しかし、何かの一件がからめばただがむしゃらにそのことを念頭において行動するだけではなく あらゆる事象にそのことを組み込むなんて・・・ふふ、惜しいことよね。」 それだけ彼にとってこの学校建設は大事なものというのは理解できる。 「それも指導者にとっては必要なことにございます。」 「そうね、ふふ。・・・稟。」 「はっ。」 「新野、上庸に北郷の顔が分かるものを派遣し、私が呼んでいるということ伝えなさい。」 「御意。」 そして稟が立ち去った後しばらくして、華琳は微笑んでいた。 北郷一刀。 あなたの一計、とても面白かったわ。 これで魏においても、あの関所の一件での評判から あなたの噂はいいほうに転びそうね。 でもまだ終わりではない。その噂を悪いほうへ転ばせるほうを なんとかしなければ・・・ね。 しかし、やはり我が真名を預けるだけの器があったということか・・・。 北郷一刀・・・か。 ふふふ、ほしいわね。 人材マニア曹操、心の中にそっとその思いを乗せるのであった。 北郷一刀、お前の行く末はどっちだ! がんばれ!北郷一刀! 負けるな!北郷一刀! 「あら、風邪?」 「はは、いや・・・ちょっと悪寒がしただけだよ、うん。」 二人との約束まであと29日。                     〜完(嘘、まだまだつづくかもよ?)〜