一刀の校長物語 Ep1〜奮闘編〜 第二話「一刀、王に頼むのこと」 ―益州・白帝城 三国成立以降、三国のトップ会談の場は主にこの白帝城で行うことが取り決められていた。 そして、今の俺はというと 「頼む、このとおりだ。学校建設の認可を!」 魏の王・曹操と呉の王・孫策という二人に対して交渉をしているのだった。 「でも、まだダメね。残念だけど」 「そうね。個人的には、面白そうなんだけどね。」 と、撃沈するのであった。 話は2日前に遡る― 場内・一刀の部屋 「んーーーんーーーーーーーー!」 別にナニしてるわけでも、便意をもよおしてるわけでもない俺のうなり声が部屋に響く。 昨日はあれから頑張って考えた。そのおかげか、人員のほうはなんとかなりそうだ。 現在、この国にはいない麗羽一味と白蓮、あとはねねも勘定に入れれば何とかなると思う。 麗羽たちや白蓮はいわずもがな、ねねはあれでも軍師であるため一通り字の読み書きから 計算まで普通にこなせる。 これは色々調べてみてわかったことだが、 この国に及ばず、魏・呉においても俺の想像以上にモノの読み書きや計算ができる人というのは あまりに少なかった。 それはそうだ、そういう教育機関が発達してるのなら、 個人経営の私塾なんていうものが台頭してるわけがない。 しかも、私塾に通うにもやはり、金銭は必要であるため、 貧しいものはいくら能力や素質があっても通えず、 その能力を無駄にしているものたちが多いのが現状だ。俺は、 あれから仕事を終えると、町へ聞きこみにいったり、城にある書物などでこの国の教育や今の国庫に ついて色々調べて回った。 その結果たるや散々であった。 そう、人が動けば金も動く。 現状で、塩生産に関する設備にかかる経費、人件費、 鉱山開発における開発費、建築費、人件費、 戦後の復興支援による費用もあったな。 そんなこんなで、手一杯の蜀にそれほど金銭に余裕はないわけだ。、 金銭に余裕がなければ、人をこれ以上雇う余裕はないのだから。 だったら、と俺は白蓮や麗羽たちを思い浮かべた。 彼女たちには、一応給金が出ているが、蜀の内政を実際にまかせているわけではない。 これは、仕えるといった意味で彼女たちが"正式な"蜀の将というわけではないからだ。 今回の交流などにおいてもあくまで協力してもらっている立場であるため、 その対価として給金を払っているということになる。 それならばと昨日、朱里に相談にいってついでに閨で可愛がってOKをもらった。 これで予定の人員と給金の問題は解消したが、問題はまだある。 俺も考えてなかった「恩を仇で返す可能性」だ。 最初は読み書きと計算のみでの運用を目的とした内容となるが、 国で運用するとなると、1年、2年先ではなく10年20年とその先の将来についても 考えておかなければいけないものである。(朱里いわく) そして、外交上の問題である「三国の均衡」である。 戦勝国1位という名目上(盟主という名目もあるか)まぁ、それらのおかげで 他の二国と現在の蜀はその均衡が保たれている。 それが学校なんていうものを作り、頭のいい民たちが溢れかえった国が 近くにあれば脅威を抱かない人はいないだろう。 いてもそれはきっと、麗羽みたいなタイプだろう。この際、袁術でもいい。まぁぶっちゃけ、どっちでもいい。 とにかくそういうことから、均衡保つ上でも問題になってくるのだが、それについてはアタリはつけている。 何も蜀だけが作るのではなく、魏も呉も作っちゃえばいいじゃない?的な考え方である。 というか、三国それぞれに学校作って民に自由に選択させる権利というものも与えてもいいとも思う。 これは将来的にはという言葉を付随させておく。 戦ではなく、三国のコミュニケーション的な意味で運動、知識などで競う大会などをそれぞれ三国が主催し 交流を図ったりもできるし。よし、これも草案に書いておくか。 俺は、一通り草案として書くと筆を置き、んーっと体を伸ばした。 そんな中、トントンと扉をたたく音が聞こえた。 「ご主人様、いる?」 声の主は、桃香だった。俺はいることを告げ中に入ってもらった。 「おじゃまし・・・って、うわーすごい書物の量!これ全部読んだの?」 俺の部屋の状況に驚いた桃香は、慎重に足を進めると俺の寝具に腰を下ろす。 「いや、全部じゃないよ。さすがに全部読んだら第二の朱里を自称するね、俺は。」 と軽口をたたく俺に、桃香はあはは〜ひどいな〜それと声に出して笑う。 「公務のほう終わったのか?」 俺は、目をぐじぐじといじりながら桃香に質問した。 「ううん、まだ〜。少しご主人様が恋しくなって・・・ね♪」 と、笑いながら俺にそう答えた。 「こんな俺でよければいくらでも。で、何か話があってきたんだろ?」 俺がそう尋ねると、いたずらっ子のような顔をして桃香は寝具に寝そべった。 「んー。まあね。・・・ご主人様がなんでそこまで一生懸命なのかって気になったら仕事が手につかなくって。」 桃香は天幕を見上げながらそう答えた。 俺は、椅子に深く腰掛けながら 「俺さ、この世界が大好きなんだ。この世界に生きてる人も、動物も・・・な。」 「どういうこと?」 「・・・ずっと、いつ俺は元の世界に帰るんだろうって考えてたんだ。それこそ、みんなが頑張って戦ってた時も・・・。」 俺はそういうと、桃香を見つめた。 桃香は、俺の視線を感じたのか向こう側を向いた。 「・・・・・・今も、そう考えてるの?」 声のトーンを落としながら桃香はたずねる。 そうかそれで向こうを向いたのか。 「いーや!むしろ逆だ。好きだから、もう俺はこの世界に骨埋めるって決めたんだ。」 そう明るくいうと、桃香はゴロっと体をこちらに向けた。 少し、目元が濡れてるのは気づかない気づかない。 「だけどさ、やっぱりあっちのことも忘れたくないんだよ。あっちには、俺の親や友達もいて 俺はそこで普通に暮らしてたただの学生。そんな普通なことを丸投げにしたりできないんだ。」 そういいながら、席を立つと、窓のほうへ向かった。 「だから、俺があっちで経験してきたこと、また楽しかったことを、雰囲気とかそういうのを こっちでも形にできたらなって思ったんだ。」 そういいながら、俺は桃香を見つめる。 桃香はなぜか、俺の顔から目をそらした。 ん?なんか変な顔でもしてたか? 「・・・それに桃香がいってた"誰もが笑って暮らせる世界"っていう理想もこの学校には含まれてるんだぞ?」 窓の外から聞こえる庭師さんのはさみを入れる音が聞こえるほうを見ながらそう言った。 「・・・ご主人様のいう学校は、そういう世界が実現できるの?」 桃香は、寝具から体を起こすとそう尋ねてきた。 「ん。必ずしも実現するわけじゃない。いじめや、迫害なんていう問題もあるしできない劣等感が 暴走を引き起こして犯罪を犯してしまうっていうことも実際にはあったりする。」 そう、学校は諸刃の刃。 時代は違えど、できないやつは悪い、できないほうがおかしいとかそういう考え方をする人も中にはいる。 どの時代でも、どの世代でも。 「だけど、そういう悪いことは俺らが率先して解決していけばいいんじゃないかな? 悪いことをしたらしかって、いいことをしたら、褒める。子供を育てる親のようにね。」 俺は、鼻を掻きながら言葉を続けた。 「そういう優しい世界を作るための教育をしていくっていうのも大事だと思うし、実際に経験した俺からすれば 学校ってところは楽しいところなんだよ。みんなで勉強して、でもたまにはハメをはずして、学校が終わったらみんなで遊びにいって・・・」 「ご主人様・・・。」 そんなことを語る俺の背中に、優しい温もりを感じた。 いつの間にか桃香が抱きついてきたらしい。 「泣かないでご主人様。」 え? 気づいた時には、俺の頬が濡れていた。 俺、泣いてるのか? そう考えるほどになぜか涙が止まらなくなっていた。 「ご、ごめ・・・俺・・・。」 静かな嗚咽で俺は先の言葉を語れずにただひたすら桃香のぬくもりを感じるのであった。 そんな俺に、3つの影が映っていたことを知るよしもなかった。 そして、2日後。 あれからなんとか、本案を書き上げた。 それもこれも、今日の三国会談の場で二人の王に提案をするためだ。 現在俺は白帝城に向けて、馬の上で愛紗に寄りかかりながらうとうとしていた。 「ご主人様、大丈夫ですか?顔色が優れないようですが・・・。」 背中に張り付いた俺に、心配そうな愛紗の声が聞こえた。 「んー。悪いな。あんまり寝てないから、悪いが着くまでこうしててくれ・・・。」 「むー、愛紗ちゃんずるいー!私が変わってほしいのにー!」 と、ぶーぶーいう桃香の声が聞こえるが俺は再び、愛紗のぬくもりとともに意識を手放していった。 「・・・主人様!ご主人様!」 なんだか、ゆらゆらとしていることに気づいた俺は、目を開けるとそこには目的の白帝城が映っていた。 「あー、着いたのか。ごめんな。愛紗。」 俺はそういいながら、馬を下りて体を伸ばした。 「い、いえ・・・。まだ時間はありますからもう少しだけなら・・・」 と、顔を赤くしながら愛紗はつぶやいていた。 「もー!今度は私の番だよ!」 桃香は腕を振りながらそうアピールするが、 「桃香様〜、城の前でそういうことしちゃだめですぅ〜!」 朱里にたしなめられるのであった。 俺たちが着いて半刻後 「魏の王・曹操様がご到着なさいました。続いて、呉の王・孫策様もご到着です!」 兵士の言葉に、俺は少しビクっとした。 いよいよか・・・。後にも先にもこの会談でしかアピールできないからな。 蜀の王の盟友という立場の俺は、本来王のみで行われる会談に出席することはできない。 そのため、俺は外で待機するという形になっている。 今この中では、それぞれの王が色々な議題で話し合っている。 あードキドキするなー。 いや、落ち着け北郷一刀。 成せば成る成さねば成らぬ何事もというではないか! そうだ、成さねば成さぬホトトギスだ!うん! と、そんなよくわからないことをぶつぶつと考えている俺のまえの扉が開く。 中からは、桃香のみが出てきた。 「ご主人様、おまたせー。二人とも中で待ってるからね!」 と、緊張をほぐしてくれているのか、桃香は明るく言ってくれた。 「お、おう。頑張るよ!うん!」 俺は、桃香のがんばれ!という応援を背中に受けながら中に入った。 そこに見たのは、威厳と風格を携えた二人の王の姿があった。 「久しいわね、北郷。」 「は〜い♪一刀♪」 ・・・一人は威厳もくそもなかったと訂正する。 「わ、悪いな。わざわざ残ってもらって・・・。」 俺はそう二人に頭を下げながら、近づいていった。 「気にしないで。それよりもなにやら、面白い提案があると 桃香に聞いたのだけど・・・一体何かしら?」 華琳は、薄笑いを浮かべながらそう聞いてきた。 「あ、ああ。」 俺は席につこうともせず、二人の前に徹夜で書き上げた学校創設の本案が書かれたものを置いた。 「二人に提案するのは、学校建設についてなんだ。詳しくはそれを見てほしい。」 俺は手に汗握りながら、二人にそう説明する。 「・・・ふむ。拝見しましょう。」 「は〜い♪どれどれ〜?」 二人はそれぞれの反応をしながら、俺の書いた学校建設の本案を読み出す。 だめだ、心臓バクバクだ。 親に通信簿を見せるときだって、ここまで緊張したことないのに・・・。 しばらく、二人は真剣に本案を読んでいた。そして、読み終わると同時に 「ふむ・・・。学校というものについてはわかったわ。それで、 私たちの国にも学校を建設するということで三国の均衡を保つというのもわかったわ。 それで?」 「え?それでって?」 「一刀〜。この学校建設における利点や不利な点とかが一切かかれてないわよ〜?」 雪蓮はそういうと、俺にその本案のかかれたものを渡した。 あ、あれ?きちんと書いて綴じたはずなんだが・・・。 俺は急いで中身を確認した。が、そこにはなかった・・・俺があれだけ必死に書いたものが・・・。 「三国において学校を同時に作って、というのも均衡を図る上で あなたの案を素直に他国の私たちに報告してくれるというところは美点ではあるわ。」 「で・も!朱里ちゃんもきっと懸念したことだと思うけど、そんな知恵をつけたものたちが 自分たちの国や他国にも仇なすこともありえるわよね〜?一刀はそこをどう考えてるの?」 乱丁によって動揺していた俺に、雪蓮の質問が心を落ち着かせてくれる。 「ああ。それなんだが、華琳たちが危惧していることも十分理解してる。 たしかに国を裏切るモノが"絶対に"出ないわけはない。この世の中"絶対"なんてないわけだから。 でもさ、逆に国の助けになる優秀な人が絶対に現れないということもないよね? 必ずどこかに国にとって有益になってくれる人もいると考えることもできるはず。」 俺は、懐に入れていた書き付けを二人に見せる。 「それは、実際に日数が足りなかったけど、 俺が字が書けない民たちにある名前のみの読み書きを教えた蜀の民の字だよ。」 そういうと二人は、それらを見る。 「羽や亮。愛紗や朱里のことね。他の名前もいっぱいあるわ。 ・・・あら?これ操に見えるわね。でもこれ、どういうことかしら?」 「こっちは策って読めるわこっちは、権?・・・蓮華のことかしら。」 二人は不思議そうにこちらを向いた。 「うん。それはね。もし、仕えることが叶うなら誰に仕えたい?という質問に対して、 その仕えたい人の名前のみを教えたものなんだ。」 俺は、あらかじめ作っていた票の集計も見せた。 「この人数は?」 「それは、蜀の武将を除いた魏や呉に仕えたい人の数。・・・蜀の武将は圧倒的だったけど、 中にはそういう他国の武将に仕えたいと考える人もいるという意味での資料だよ。」 俺はここぞとばかりに、言葉を続けた。 「蜀の民でも、そういう人もいるんだ。魏・呉においても蜀に仕えたいと思う人もいるはず。 こういう人にとって、学校というのは好機にもなりうるし、その可能性を積むのは国としても得策ではないはずだよ。」 それこそ、三国の均衡を王自らが崩す結果になるようなものだ。 均衡を保つ上で大事なのは、協力と互いの理解その上での信用。 それがなければ、ただたんに後ろ暗いだけの関係になる。 それは、華琳や雪蓮も望んでるわけじゃないと思うなど、俺は自分の考えを二人に説明した。 「・・・ふむ。言いたいことはわかったわ。後ろ向きな考えでは発展は望めない・・・ということね。」 「なるほどね〜。」 二人は俺の拙い説明に理解を示してくれたみたいだ。 よし、ここが北郷一刀一世一代の頼みだ。 「頼む、このとおりだ。学校建設に対して認可を!」 俺は精一杯二人に対して、頭を下げる。 俺の熱意が通じてくれたなら・・・きっと! 「でも、まだダメね。残念だけど。」 「そうね。個人的には、面白そうなんだけどね。」 そして、冒頭に回帰するのであった。 「な、なんでだ?二人にとってその必要性ってのは十分理解してくれただろ?なのに・・・。」 俺は、愕然としながらも二人に問いかけた。 「北郷、あなた一つ大事なことを見落としてるわ。」 「一刀〜。あたしたちが了承してもね、じゃあ実際民のどれくらいが 興味を持ってくれる?そして、受け入れてくれるのかしら?」 「そう。たとえ、私たちがそれを了承しようとしても、民が望まなければそれはただの暴政に過ぎないわ。 その予算は民たちの税によってまかなわれるわけなのだから。」 「一刀の熱意は十分伝わったんだけどね〜。そこが見えないとなんともいえないかな〜。」 ・・・そうか、見落としていた。 俺ばかりがやっきになって学校作っても、実際に通いたいと思う人が不透明であれば建設時の予算等が無駄になってしまう。 そればかりか、指導者としては自分たちの血税を見誤った行いということで使われたら、民たちから非難されるだろう。 戦後まだ一年のこの時期だ、まだまだ復興してないところもあるわけで、全ての土地の人心が落ち着いてるわけではない。 そこにそういう無駄な予算として作られた学校は全く意味を成さなくなる。そればかりか、争いの火種にもなりえるかもしれないのだ。 「あなたの気持ちは、二日前のあなたの部屋の前で十分理解してるつもりよ。」 「泣いてる一刀、可愛かったわよね♪」 な・・・。 「ああそれと、さっき学校を作る上での利点を聞き直さなかったのも あの時、あなたが熱く語ってたからよ。」 な、なにー!? そういや、利点については何も言ってなかった・・・。 い、いや、それよりも! 「え?ど、どうして?」 俺は動揺しまくりな心境で、二人に尋ねた。 「朱里の入れ知恵でしょうね。あなたの部屋に案内してくれたのも朱里だし、その前に説明を受けたのも彼女よ。 まさか、あんなところに出くわすとはさすがの朱里でも考えていなかったようだけれど?」 「彼女がわざわざ直に来た時はびっくりしたわよ。 そんなに近いわけでもないのにね。」 なんでも、3日前に魏・呉それぞれに自ら使者として今回の学校建設における計画を説明、また 俺がいかにそれを頑張って推し進めてるのかを実際にその目で確かめてほしいという要請を受けたらしいのだ。 「まぁ、会談の日程もあったからできたことではあるわね。 まさか、絶影が疲れ切るまで急がされるとは思ってなかったけれど。」 「たしかにね。私の場合は建業からになるところだけど、これもあの子の策なのか 私がたまたま、江陵での用で滞在してたからよいのだけれど。 相当急いでいたのでしょうね、はわわはわわして一生懸命説明してる朱里ちゃんは可愛かったわ〜♪」 その様子が容易に思い浮かぶ。 ていうか、朱里そんなことしてくれてたなんて・・・。 真っ先に反対意見のあった朱里だけに、こういうことには消極的だろうと考えていたのだが それは全くの逆だった。本当に、とてつもなく力が沸いてくれることをしてくれるよ。うちの軍師様は。 「二人とも!重ね重ねで悪いんだが、頼みがある!」 俺は二人に向き直ると、真剣なまなざしで二人に言い放った。 「三ヶ月・・・いや、二ヶ月待ってほしい!」 そういうと、俺はおもいっきり頭を下げた。 「その理由は?」 華琳は意地悪そうな笑みを浮かべながらそう尋ねてきた。 「二人が納得するものを、今度こそ必ず提出するため!これが理由だ。」 俺は、華琳につかみかからんばかりの勢いで答えた。 そして、雪蓮の目も見つめる。 「・・・ふふ。面白そうじゃない?」 「そうね・・・わかったわ。でも、二ヶ月だけよ。それ以降は一切認めないわ。 そうまで大言壮語とするのならこの曹孟徳を納得させるだけのものを提出なさい。」 「一刀。この孫伯符にその言葉を吐いた以上責任はきちんと取るのよ? この宣約はそれほどのものなのだから。」 二人は、あの戦場でも見せたような威圧感で俺に返答をくれた。 こ、こええ・・・。 だが、これに打ち勝つようなものを二人に提出すればいいんだ。 俺は、気持ちを新たに二人にうなづいた。 「ああ、この北郷一刀。約束は必ず守るよ!」 そういうと、俺は二人に深く礼をした。 そして― 「本当に泊まっていかなくてもいいの?二人とも。」 桃香は寂しげに華琳、雪蓮二人に問いかけた。 「ええ。もう十分よ。これ以上いたら、あなたを閨に誘いたくなるわ。ふふ。」 華琳はそういうと、桃香のアゴを撫でる。 「ちょ、だ、だめだよ!私はご主人様のモノなの!だから・・・。」 桃香は真っ赤にしながら、華琳の冗談に答えた。 「バカね。冗談に決まってるでしょう?・・・うちでも色々と問題はあるのよ。問題は・・・ね?」 華琳はそういうと、ふいに今はいない誰かに向けて視線を送った。 それから華琳は、雪蓮に場所を譲るように馬を移動させる。 「桃香、またしばらくの間お互いに頑張っていきましょう。現状で、荊州のことは 問題解決には至らないかもしれないのが痛いところではあるけれど。」 雪蓮は、桃香の頭を撫でながらそうつぶやく。 「はい!私のほうでも民たちに理解してもらえるように、頑張って対策考えます。 あ、それとお土産に蓮華ちゃんが希望していた櫛を荷に積んでおきましたから、よろしくお伝えくださいね!」 「ええ、悪いわね。今度は蓮華と小蓮もつれてくるわ。シャオったら、鈴々ちゃんに会いたがっていたし。」 「はい!お待ちしてますね!」 そういうと桃香は深く礼をした。 「それじゃ、桃香。雪蓮。また会いましょう。皆の者、魏へ帰還する!」 「ええ、またね華琳。それじゃね。桃香。我々も呉へ帰還するぞ!」 二人はそう言い放つと、護衛の兵を連れて馬を走らせあっという間に見えなくなっていった。 桃香は二人に手を振り終えると、城門のところで兵士に 「ねぇ、ご主人様知らない?」 と、話しかけた。 「一刀様・・・ですか?一刀様なら、なにやら急ぎ足で成都のほうへ帰られましたが・・・。」 「えーーーーーーーーーーーーーーー!?そ、そんなぁ〜・・・。」 桃香のその驚きと落胆の声は、城内にも聞こえたという。 「はいやー!」 その当の一刀はというと、早馬に乗り成都へ急いでいた。 待ってろよ、二人があっと驚くようなもの提出してやるぞ! 俺は、心の中でそう改めて誓いを立てると急ぎ足で成都へと駆けるのであった。 今夜は白帝で閨を供にという桃香との約束をさらっと忘れているとも知らずに・・・。                             〜つづく?〜