― 妄想・魏√END 〜桂花編〜 ― 三国による戦乱は終幕を迎えた。 魏・呉・蜀の面々が一同に介し、料理に舌鼓を打ち、そして酒に酔いしれている。 そんな、華琳が追い求め、そして勝ち取った至高の光景が今ここに広がっているのだ。 今、俺の心はあまりの興奮に震えている。 震えているのだが、それを表立って表現する事が出来ずにいた。 ただただその光景を眺め、そして胸の奥へ刻み込んでいく。 決して、忘れる事の無いように…。 ふと華琳の姿が目に入る。 丁度劉備さんと孫策さんに酒を注がれている所だった。 困った顔をしながらも注がれた酒を一気にあおった…かと思えば、手近な徳利を2つ持ち、2人の口元へと突きつけた。 まるで「さあ、次はあなた達の番よ」とでも言いたげに口の端を持ち上げている。 劉備さんも孫策さんも顔を見合わせて驚いていた様だがが、やがて揃って笑顔になり大きく頷いた。 そして華琳の持つ徳利へと手を伸ばし、一気に飲み始めた。 突如として始まった飲み比べに、周囲も盛り上がりを見せている。 三国それぞれの王が、まるで長年の友であるかの様に睦まじく騒ぎ、皆もそれを喜んでいる。 「もう、憂う事は何も無いんだな…」 そう独り言ち、この場を後にする事を決意する。 そして最後に一度だけ、一人の女性へと視線を向ける。 彼女は何も告げずに去る俺をどう思うのかな……? さようなら、華琳…。さようなら、皆…。 そして、桂花…俺は……。 「………あの馬鹿男、何処行くつもりよ…。ま、概ね酒に酔い過ぎて厠所が何処か判らないんでしょうね」 「………………」 「あーもう! まったく世話の掛かる全身変態男だわ!!」 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 「ちょっとあんた! 城の庭に汚物ぶちまけるんじゃないわよ!!」 「……桂花?」 「ああ!? 服を着てると言う事はもうしちゃったのね! この馬鹿! さっさと掃除しなさいよ!」 「はい?」 「もう最悪…! これだから酔っ払いは嫌いよ! 特にこんな阿呆で阿呆な阿呆は!」 「えーと……?」 「酔っ払いの癖にその落ち着き様……はっ! まさかあんた手淫までやったわね!?」 「えええええ!?」 「この変態! こんな日になんて事してるのあんたは!! 恥ずかしくないの!?」 「ちょ、待て待て待て! 俺は何もしてないって!」 「嫌! 触るんじゃないわよ汚らわしい! どうせ蜀や呉やらの女達をその頭で犯してたんでしょ!?」 「意味分かんないし!」 「あ〜もうこれだから男っていう生き物は…………え? あ、あんた…その体……?」 「うわ! もう始まったのか!? 桂花のせいで感傷に浸る暇も無かったな…」 「あ、あたしは悪く無いわよ! そ、それよりもなんでそんな風になってるのよ…?」 「俺さ、この世界での役目を終えたらしくてな…。 ここに居られないみたいなんだ…」 「……消える…と言う事?」 「…………」 「華琳様は…この事を知っているの…?」 「……薄々気付いてはいるみたいだよ」 「何も言わずに去るつもりだったの?」 「……そのつもりだったんだけどな」 「そう…。 ちょっとあんた。 着いて来なさいよ」 「………。 華琳の所へなら行かないぞ」 「違うわ。 いいから黙って着いて来なさい」 「……判った」  …………………… 「こっちよ」 「何処まで行く気だ……どわぁ!!」 「やった!! とうとう落とし穴に嵌めてやったわ!!」 「ててて……。桂花〜…」 「ふふん。 苦労して掘ったんだもの。 これに落とさずに消えられても困るわ」 「……はぁ。 まったく」 「……何笑ってるのよ?」 「いや、最後に桂花と話せて良かったな…って」 「あ、そう。 あたしはあんたが消えて清々するわ」 「はは…。 その憎まれ口も聞けなくなるなんて、寂しいもんだな…」 「……………」 「さようなら、桂花…。愛していたよ…」 〜 〜 〜 〜 〜 〜  雲に覆われた月を見上げながら、少女は祝宴会場へと歩いていた。 「まったく、華琳様になんて報告すればいいのよ…。 あの全自動孕ませ男、最後の最後まで私に迷惑を掛けて…!」  ぶつぶつと今はもう居ない人物への非難を綴り続けながら。 「あぁ! もうすぐ華琳様の演説が始まるわ! い、急がなきゃ!」  少女は駆け出した。    それと同時に雲が流れ、月明かりが少女を照らし出す。  少女の頬へ月明かりを反射する一筋の光が見える。  それは汗か…それとも…。                         〜 桂花編・完 〜