「うーん、やっぱり中国は何もかもスケールがでかいなぁ」
　一刀は長江の雄大な流れを目の当たりにして感嘆の声を漏らした。
　彼は今、聖フランチェスカ学園の修学旅行で中国を訪れていた。
　級友の及川は『チャイナドレスの中国娘を俺の虜にしてくるで』などと言って早々にど
こかへ行ってしまった。
　一方の一刀は彼の好きな三国志の舞台でもあるこの国の景色を満喫するべく散策に耽っ
ていた。
　と、足が何かを蹴飛ばした。
「ん？」
　何気なくそれを拾い上げる。
　顔の前にかざした所で身体が硬直した。
「ほ、ほ、ほほほほ、骨ぇぇぇ────っ！？」
　それは薄茶色に変色し、ボロボロに崩れかかっていたが、紛れも無く動物の骨だった。
　それも人の大腿骨か何かに見える。
　思わず放り投げると地面に落ちてボスッと音を立てた。
　見た目は脆そうだが半分化石化しているようで意外と丈夫なようだ。
「つまりそれだけ古いって事だよな」
　呟きながらもう一度その骨に目を向けた。
「まさか人間の骨じゃあないと思うけど……」
　しかし何の動物であってもこんな所に野晒しなのは哀れだと思った。
　キョロキョロと辺りを見回し、適当な木切れを見つけると、それで地面を掘り出した。
「…………うん、こんな物かな？」
　やがて適当な大きさの穴を掘り終えると、一刀はそこに件の骨をそっと置き、また元の
様に穴を埋めた。
　そこに大き目の石を置くとカバンからペットボトルのお茶を取り出して石の前に供え、
最後に手を合わせた。
　暫く黙祷をすると、「よし」と立ち上がってその場を立ち去ったのだった。
　
　その夜の事だった。
『コンコン』
「ぐー……」
『コンコン』
「ぐー……むにゃむにゃ……ん？」
　ホテルの部屋の扉を何者かがノックする音で一刀は目を覚ました。
『コンコン』
「誰だ？」
　一刀が声を掛ける。
「ひ」
　声が返ってきた。
「ハァ？だから誰だよ？」
　不機嫌そうに言いながら一刀が扉を少し開いた。
　そこには一人の少女が立っていた。
　まだあどけなさの残る顔は背の低さも相俟って子供と言っても良い容姿だったが、かな
りの美少女である事は間違いが無い。
「……君は誰だ？」
「鈴々は張飛なのだ」
「…………は？」
（張飛ってあの三国志の？……まさかな）
「いや、君の名前を訊いてるんだけど？」
「だから張飛だって言ってるのだ」
　少女がぷぅと頬を膨らます。
「張飛って三国志に出てくる張飛？劉備や関羽と義兄弟の？」
「三国志ってのは知らないけど、劉備や関羽は鈴々のお姉ちゃん達なのだ」
　言っている意味はさっぱり分からないが、要するに張飛が好きな地元の子供なんだろう
と一刀は結論付けた。
「うーん、何処の子かは知らないけど、子供がこんな夜中に遊んでたらダメだよ。早く家
に帰らないとそのお姉ちゃん達も心配するだろ？」
　しかし少女は首を横に振った。
「まだ帰れないのだ。鈴々、お兄ちゃんに恩返しをしないとダメなのだ」
「恩返し？俺に？」
　全く心当たりの無い一刀が首を傾げる。
「昼間お兄ちゃんは鈴々の骨を丁寧に供養してくれたのだ。だからそのお礼に鈴々がお兄
ちゃんの事を気持ちよくしてあげるのだ」
　そう言って鈴々は一刀の身体を押して部屋の中に入ってきた。
「え？ちょ、ちょっと」
「大丈夫なのだ。紫苑や星に聞いた事があるから、鈴々ちゃんとやり方も知ってるのだ」
　押し留めようとする一刀を、鈴々はその見た目からは想像も付かないような怪力で押し
退ける。
「こら、勝手に入ってきちゃ──わっ！？」
　そのまま一刀は先程まで眠っていた布団の上に押し倒された。
「ちょ、何を！？」
「だからさっきから言ってるのだ。お兄ちゃんを気持ちよくしてあげるって」
　この状況で気持ちよくなどと言えば思い当たることは一つしかない。
　しかし眼前の少女の容姿を見れば、それはあまりに倫理的に悖る様に思えた。
「ちょっと待てって！ダメだってば」
　思わず強い口調で言葉が出る。
「……お兄ちゃん、鈴々の事、嫌い？鈴々じゃ気持ちよくなれない？」
　しょんぼりした顔で鈴々が悲しげに言う。
　たちまち一刀の胸に罪悪感が湧き上がった。
「い、いや、そう言う意味じゃなくって……。ほ、ほら、ここ周りに皆が寝てるだろ？こ
こでそんな事したら皆起きちゃうからさ」
「それなら大丈夫なのだ。鈴々が居る間は誰も目を覚まさないのだ」
「へ？」
　言われて見れば先程から結構大きな声を出したりした筈だが、何故か周りで眠る級友達
は全く起きる気配が無かった。
「と言うわけだから、お兄ちゃんは観念して鈴々で気持ちよくなるのだ」
「うわ、うわぁぁぁ…………」
　結局──
　一刀は明け方近くまで鈴々の幼い肢体で気持ちよくされまくってしまったのだった。
　
「と言う夢を見た」
「な、なんやてー！？ずるいぞ、かずぴー。一人だけそないな美味しい思いを……」
「いや、夢だし」
「夢でも何でも、可愛いロリッ子に気持ちようされるなんて羨まし過ぎるやないか！」
　前日、何人もの地元少女に声を掛け悉くふられていた及川が涙目で一刀を睨む。
「よーし、ほな俺も誰かの骨を供養して可愛い女の子とイチャイチャする夢を見たるんや」
　そう言って及川は何処へとも無く走り出したのだった。
　その夜、一刀達の部屋では目をギンギンに光らせた及川の姿があった。
　彼はあの後、明らかに人の頭蓋骨と思える骨を見つけていた。
　しかし及川はそんな物を見つけても怯む事無く、それを丁寧に土に埋め、用意していた
幾つものお供え品や線香まであげて手厚く供養していたのだ。
（来る！今夜は俺の所に絶対美少女が来る！ああ、どないな子やろ？真面目そうな黒髪の
美少女かな？おっぱい大きなおっとり系美少女やろか？おっぱい大きな熟女とか、メンマ
とか好きな不思議系とか、ボーイッシュな純情ツンデレっ子とかもええなぁ。ああ、もう
辛抱たまらんわぁ）
　及川は妄想に胸と股間を大きく膨らませている時だった。
『コンコン』
　部屋の扉が鳴った。
「キタ────ッ！！」
　ガバッと跳ね起きる。
『コンコン』
　再び扉が叩かれた。
　いそいそとズボンを下ろしながら扉へと向かう。
「はいはーい！誰や？誰が来てくれたんや！？」
「ひ」
　声が返ってきた。
（確かかずぴーの時もひって答えたんやったな。ちゅう事は昨日と同じロリっ子なんかな）
　そんな事を考えながら及川は扉を開いた。
　果たしてそこに立っていたのは──
「我が名は卑弥呼。うぬから受けた恩義に報いる為に参った」
　筋骨隆々とした半裸の巨漢が立っていた。
「打ち捨てられていた我が骨を手厚く葬ってくれた事、我が胸にときめきがめもりあるさ
れたぞ。そこで儂の伽を以ってうぬに恩を返したい」
　言いながら卑弥呼は申し訳程度に股間を覆っていた腰巻を取り払う。
　その衝撃的な光景に、停止していた及川の思考が甦った。
「う……う……う……うわああぁぁぁぁ────っ！！」
　悲鳴を上げて部屋の中へ逃げ込む。
　しかしその後を卑弥呼が追ってきた。
「何故逃げる？そう遠慮されてはうぬへの恩を返せぬではないか」
「ひ、ひぃっ！？──かずぴー、起きて！助けてくれぇっ！」
　しかし一刀も他の級友達も全く目覚める気配は無かった。
「無駄だ。うぬに思う存分気持ちよくなって貰う為、他の者には深い眠りについて貰って
おる。さあ、遠慮なくうぬのキングオブハートを我が尻に突き立てるが良い」
　尻を突き出すようにして卑弥呼がにじり寄る。
「うひゃー！？」
　逃げ出そうとする及川だったが、限界を超えた恐怖に腰が抜けてしまい、四つんばいで
身体を引きずる様に部屋の隅へと向かうしか出来ない。
　更に激しく動き回ったためにパンツが少しずり下がってしまっていた。
　半分露わになった及川の尻を卑弥呼の目が捕らえる。
「ふむ、うぬはそちらを所望であったか。儂は基本的に受けなのだが、恩人がそちらを望
むとあらば是非も無し。うぬの体内に我が王者の風を存分に送り込んで進ぜよう」
　そう言うと卑弥呼は及川の腰をがっちりと掴み、二の腕ほどもあろうかと言う隆々とし
たそれをあてがい──
「うっぎゃあああぁぁぁぁぁ────────っ！！」
　及川の悲鳴がホテル中に響き渡ったのだった。
　翌日から旅行の間中、青い顔で尻を押さえる及川の姿があったと言う。