〜 たんぽぽ珈琲 〜 いつものように月の入れてくれたお茶は美味い。 こっちに来てから随分とお茶好きになったもんだ。 苦味・渋み・風味・旨み、こんなにお茶が美味しい物だったとは・・・。 月の腕前に感謝しつつ何時ものように笑顔で感謝をのべると「へぅ〜」と 可愛い反応がかえってくる。 うーん。お茶がドウのより、淹れてくれた人が問題なだけだったりして。 (爺ちゃんの飲んでるお茶は物凄く濃くて苦味と渋味しか感じなかったもんなあ。  急須あけたら隙間無くお茶葉がつまってたもんな、蓋もちあがってるときもあったし。  おかげでお茶飲まずにコーヒーばかり飲むようになったきもするな・・・。) 元の世界のことなど思い出す暇もないほど慌しく過ぎるこの世界での日々は、 滅多に郷愁を抱かせる事など無かったのだが、珈琲を久しぶりに飲みたいという欲求が思考をみたす。 「ふぅ。」と溜息を一つつく。 「あの・・・私お邪魔でしたでしょうか・・・?。」 と消え入りそうな声で月がつぶやく。 「ああ、そんな事無いよ! へぶっ!! ただね、月のお茶には敵わないけど、  同じくらい美味しい飲み物が天界にあってね。ちょっと思い出してたんだ。」 言い訳が終わる前にジト眼の詠のケリが脛にきまったので、涙目になりながらその場を辞し、 部屋にもどって急ぎ政務を終わらせた。 本日分の公務は少なめだったのと、気合を入れたおかげで昼からは自由時間となった。 となれば、やる事は一つ・・・。 コーヒーをに入れる。 とは言え、この時代に中国でコーヒー豆なぞ手に入る筈もなく・・・。 何か似たもので代用できないものかと思案をめぐらし、庭に大の字になって空を仰ぐ。 考えたからって新しい調理法が直ぐに思い浮かぶわけもなく・・・。 しかたなく、長くは無い自分の人生の記憶を掘り起こしていると二つの代用品にたどり着いた。 「うーん。遠乗りしてタンポポでもちぎるか・・・。」 遠乗りして気分転換もできて、材料もてにはいって一石二鳥だな。 「こっ・・・ここにいるぞー!。」 と何時もより歯切れの悪い感じの声が聞こえた。 顔を赤くそめた蒲公英が何時ものポーズで頭の直ぐ傍にたっていた。 「ご主人さま、そんなに蒲公英の気持ちよかった?  あ、それとも外でするのが気に入ったとか?。」 何時もの小悪魔な表情でにじり寄ってくる。 「え?」 それは気持ちよかったし、明るいところでやると視覚的にもいろいろと・・・。じゃなくて! 「いま、遠乗りして蒲公英と契るって・・・。」 「あっ、いやその、違うよ!、ほら、植物! 草のタンポポ!  アレを摘みにいこうかなって。」 「またまたー。 恥ずかしがることないって!  私は何時でも大丈夫だよ!でも、お姉さまにヤキモチやかれるかも・・・。」 「いや本当にあの花っていうか、草?、をねちょっと集めようかなって。  ついでに遠乗りもできて気分転換にもなるし・・・。 蒲公英はこれから時間はあるかい?」 「うん調練は昼迄で終わったから午後からの予定はないんだけど、  ご主人様あんなもの何にするの?食べても苦いよ?。」 この子は食べた事あるんだろうか・・・?まあいいや。 「まあ、細かいことはいいじゃないか。すまないけど護衛をかねて遠乗りにつきあってくれないか?。」 馬の準備を蒲公英にまかせ、城を離れる旨を桃香達に報告しておく。 愛紗には、お暇があるなら別な仕事を、大体遠乗りに護衛一人など危険すぎます・・・とブツブツ 桃香には、私はさそってくれないんだー ふーん 蒲公英ちゃんがいいんだー とグジグジ 朱里には、いーですもん、怒ってなんかいませんですもん!どーせ、どーせ・・・。とプンプン アハ、アハハハッその内何かで埋め合わせするから・・・と逃げ出すように遠乗りにでかけた。 上手くいけば今日の収穫で何とかなるはずだし。 帰ってからの事が心配だけど、まあ今を楽しもうと頭を切り替え、 蒲公英とタンポポの根っこを大量に収穫して城に帰った。 え?タンポポとはアンナ事やこんな事しなかったのかって? 無粋な事を聞くもんじゃないよ。 泥で汚れた手で女の子とあんなことできる訳ないだろ? 病気になったりしたらどうするんだ。 ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・ はい、ちぎる前に契りました・・・。 1週間程後 「翠、タンポポいまいいかい?。」 二人の部屋の前で来意をしらせる 「どうぞー。」 「ご主人様いらっしゃい。」 「すまんが開けてもらえないか、手がふさがっててね。」 ハイハーイとタンポポが扉を開けてくれる。 両手に茶器と茶菓子をのせた盆を抱えているのを確認して嬉しそうに招き入れてくれた。 「どーしたんだよ、ご主人さま茶器くらいこの部屋にもあるんだけど。」と翠 「いーじゃんお姉さま、きっとご主人様がお茶をいれてくれるんだよ、 私達の為に。」 私達の為にという言葉に翠が少し照れたような表情をうかべた。 本当にこいつは何時も可愛い。反則だろ。 「うん、二人に最初に飲んでもらおうとおもってね。もってきたんだ。」 乾燥して炒ったタンポポの根を刻んだものを煎じお茶?をいれる。 見慣れないお茶を二人は珍しそうにのぞきこむ。 「ご主人さまコレって・・・。」とちょっと微妙な表情を浮かべる蒲公英。 「よくわかったね、この前のアレだよ。」 本来のコーヒーよりも薄い色合いだが、香りも色も申し分ない上々の出来だ。 「これ・・・薬か?。」と訝しげな翠 「まあ、飲んでみろって。結構うまいんだぜ?  天の世界の飲物で、まあその物ではないけどさ。 代用として結構のまれてるんだよね。  俺が一生懸命つくったんだけどなぁ翠は飲んでくれないのかー 残念だなー。」 「のっ 飲むよ飲めばいいんだろ」 ズズズと二人が飲む音が部屋に響く。 「うん、おいしい。香りもいいな。」 「ホントだ、コレ美味しい。タンポポだからもっと苦いかとおもった。」 「コーヒーと言う飲物で、本当は豆をつかうんだけどここでは手に入らないからね。  でも、どうしても飲みたくてさ色々と考えてたら、  学校の生物部が文化祭の出店で出していたのを思い出てね。  ”たんぽぽ珈琲”っていうんだ。蒲公英と同じ名前だし気に入ってくれたら嬉しいな。」 自分の名を冠したお茶をつくってもらった蒲公英に満面の笑みを浮かべながら猛烈な感謝を受けたのはいうまでもない。 その横でうつむき加減に「なあ、翠珈琲とか翠茶とかはないのか?。」と馬超がつぶやいていた。 そんなもの在ったっけ・・・。と冷や汗を流す一刀であった。 - end - その後数十種類にも及ぶ人名を冠したお茶や食べ物を創作し世に出しつづけた北郷帝には、 茶聖・茶房皇といった称号がおくられたとかいないとか・・・。