──真√── 真・恋姫†無双 外史 北郷新勢力ルート:??拠点……? 天真爛漫 ─チイサナオトメ─ **  一刀がその女の子を見かけたのは、政務の息抜きに街へ出かけ、大通りを散策している時だった。  最近気に入っている天津の屋台の向かいにちょこんと腰掛け、ぼーっと大通りを行き交う人を見つめる、 小さな女の子。  その時は、買い物しているお母さんでも待っているのかなーと通り過ぎたのだが、約半刻(一時間)後、 小腹が空いたので、先の屋台で肉まんでも買おうかと戻ったところ……その子はまだそこに居たのだった。  これはさすがにおかしい。  恐らく迷子であろうと思い、店主へ肉まんをもう一つ追加してもらうと、一刀はその子へ近づいていった。 「こんにちは」  突然自分の前に立った人に声を掛けられ、少女は小さくビクリとしてから、伏せていた顔を上げる。  目に入ったのは、しゃがみこんで自分に視線を合わせ、微笑んでいる男の人と…… 「……肉まん?」  差し出された肉まん。  状況が飲み込めずにキョトンとしていると、なし崩しのうちにそれを手渡され、 「隣、いいかな?」  と男性に言われて、慌てて石段に座っていた腰をずらし、場所を空ける。  男性は少女が持っていた肉まんを指して「どうぞ」と言うと、自分も手に持っていた袋から同じそれを取り出し、 ばくりっと思い切りかぶりついていた。  そのいかにも美味しそうに食べる様子に、少女は手渡されていた肉まんをじっとみつめ…… 少し考えたあと、意を決した様に口へ運んだ。  手に持った肉まんをどうしたものかと思案している女の子に、美味しいよと教える代わりに、 一刀は自分の分の肉まんにかぶりついてみせた。  その瞬間、広がる肉汁と豊満な香り。 ──うん、美味い。  そんな一刀の様子に刺激されたか、少女もまた手渡されていたそれを口に運んでいた。 「……美味しいね」  そう言って、一刀の顔を見上げてニパッと笑う女の子。  歳相応のその笑顔がとても可愛く、一刀は「ああ、最近気に入ってるんだ」と言いつつ、 女の子の頭を優しく撫でる。  そんな一刀へ、少女は「えへへ」とにこやかに笑い、ゆっくりと手の中の肉まんを平らげていった。 「ごちそうさまでした」  一刀に向き直って、ぺこりとお辞儀をする女の子。  年齢の割りには、かなり確りした子の様だ。  一刀はそんな少女へ、さっきまで考えていた疑問を聞いてみることにする。 「ずっとここに座り込んでたみたいだけど、お母さんとはぐれたのかい?」  一刀にそう聞かれた瞬間、少女は泣きそうになるのをこらえるかのように表情をゆがませ、 小さくコクリと頷く。  案の定か。  予想道理であった以上、一刀が取る行動は一つしかなかった。  彼はわしゃわしゃと少女の頭を撫でた後、 「じゃあ、俺が一緒にお母さんを探してあげるよ。これでもこの街じゃ結構顔が利くんだ」  その一刀の提案に、女の子の表情は一気に明るくなった。  そして一刀はその表情を見て、ああ、やっぱり声を掛けて良かったなと、しみじみ思うのだった。  その後、少女と名前を教え合うーー彼女の名前は璃々と言ったーーと、一刀はおもむろに少女を肩車し、 「璃々ちゃんのお母さん居ませんかー?」  と声を挙げながら、ついでにと言いつつ、街中を案内してあげるのだった。  それから約半刻あまり。警備隊から、璃々ぐらいの年頃の子を捜している女性がいると報告を受け、 そちらの方へ向かってみると……そこには、薄紅色のチャイナドレスの様な服装の、スタイルの良い美人が一人。  女性は、一刀に肩車された璃々を見るや、 「璃々!」  と、安堵の表情を浮かべて駆けてくる。  一刀は璃々を肩から降ろすと、軽く背中をぽんっと叩いて促してやった。 「おかーさん!」  途端に嬉しそうな顔で駆けて行く璃々。  そしてすぐに二人は抱き合い、女性は、無事で良かったと、優しく璃々を撫でる。  そして一刀はその様子を、うむうむと頷きながら見守るのだった。 「本当に有り難うございました」  ややもして、璃々と離れた女性が深々と頭を下げる。 「梓潼に居る友人を訪ねる途中で、久しぶりに此処に寄ってみたのですが…… 記憶にあるより随分と変わってしまって、恥ずかしながら迷ってしまいました。 その上璃々ともはぐれてしまうなんて……」 「お母さん、きをつけないとだめだよー」 「うん、ごめんね、璃々?」  ぷぅっと頬を膨らませて言う璃々に、すまなそうに謝る女性。  そんな微笑ましい様子に、一刀の頬も自然と緩む。 「まぁ、お互い無事だったんだし、いいじゃないですか。  それに俺も、璃々ちゃんと街を歩くの楽しかったですしね」  そう言ってははっと笑う一刀へ、 「そう言えば、まだ名を名乗っていませんでしたね。私は黄漢升といいます。 ……改めまして、璃々と一緒に居てくださって、有難うございました」  ふわりとした、花の様な笑顔を浮かべて礼を言う。 「ところで璃々、ちゃんとお礼はしたの?」  そして続けて璃々へとそう言うと、りりは「ん〜」と唸ってから、 クイクイっと一刀の服の袖を引く。 「ん?」  何かあるのかと、一刀が璃々へと顔を寄せた所で── チュッ  ……と言う擬音が聞こえそうな感じに、璃々が一刀へとかるく口付け、 「お兄ちゃん、ありがとうございました」  にぱーと笑って、ぺこりと頭を下げた。 「ははっ、こっちこそ、ありがと」  そんな璃々の様子に心を和ませながら、わしゃわしゃと頭を撫でてやる。  そしてそんな二人の様子を、漢升は微笑みながら見守って居るのだった。 「……では、私達は失礼させて頂きます」 「はい。……道中、お気をつけて」  ……何と言うか、色々な意味で将来が楽しみな子だ。  なんて事を思いながら、去っていく親子の背中を見送った一刀は、不意にある事に気づく。 「そういえば……黄漢升って黄忠のことか!」  気づいた時には、既に二人の姿は見えなくなっていたのだった。 「……ま、縁があればまた会えるか」 「ねーねーおかーさん」 「なあに、璃々?」  梓潼へ向かう道すがら、不意に璃々が言った。 「璃々、しょうらいお兄ちゃんのおよめさんになりたい!」 「……あらあら」  言われた黄忠は、突然の娘の婿候補の出現に、困ったような嬉しいような、 何ともいえない微笑を浮かべるのであった。