―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「無じる真√N」第十二話 ―――反董卓連合編その二―――  ちょっとした一波乱はあったものの無事、再会の挨拶を交わすことが出来た一刀たちは 軍議へと向かわなければならないため、話を切り上げた。 「さて、そろそろ行かないとまずいよな」  なんとか落ち着いた白蓮に一刀が尋ねる。 「あぁ、そうだな。おそらく、始まるところだろうしな」  そう言って、歩き始めようとする。すると 「あ、ちょっと待って貰ってもいいかな?」  桃香が、二人へと声を掛ける。それに対し、振り返った白蓮が訊き返す。 「ん?どうかしたのか?」 「えっとね、私は軍師と一緒に行く予定なんだよね」 「わかった。それじゃあ、ゆっくり向かってるから」  白蓮が答えたのを確認し、桃香たちは自分たちの陣へと一旦戻っていった。 「では、私ももどっております」 「あぁ、わかった」  そう言って、星も公孫賛軍の陣へと戻っていくのだった。 「しかし、不安だ……」 「ん?どうした白蓮?」  軍議の場へと向かう途中でやけに気落ちしている白蓮に一刀が尋ねる。 「あ、あぁ、実はな今回の連合結成を呼びかけた袁紹……字を本初って言うんだが、奴は 一癖あるんだよ」 「!! いや、何となくわかった……」 「そうか……」  白蓮の言葉を聞いて一刀もがっくりと肩を落とす。一刀が袁紹の事を知っているような 発言をしているが、そのことに疑問を持つことなど今の白蓮には出来なかった。もし、袁 紹を知らない人物が、白蓮のこの様子を見れば、袁本初という人物がいかに"凄い"かが分 かることだろう。  二人がどこか暗い表情で歩いていると、後ろから桃香がやって来た。 「お待たせー」 「ん?あぁ、桃香か」  二人は桃香の方を振り返った。そこには桃香の他に二人の少女がいた。 「えぇと、その二人は?」  白蓮が桃香へと尋ねる。当の二人は先程から桃香の背後へと隠れてしまっていたのだが 、より身を隠してしまった。 「えっとね。ほら、二人とも……」  桃香に促され、二人が前に出てくる。片方の少女、紫を主体とした帽子と上着を着てい る金髪の少女を見て一刀はあることを感じていた。 (はは、相変わらず人前が駄目なんだな……) 「……えっと、私は桃香様の元で軍師をしていましゅ。しょ、諸葛亮孔明でしゅ」  金髪の少女が自己紹介をしてぺこりと頭を下げ、恥ずかしいのかすぐ後ろに下がった。 「…………同じく……ひょうとうしゅげn……あぅ」  もう一人の少女―――青紫の髪をしていて魔法使いの様な帽子を被った―――も同じよ うに自己紹介をした。取り敢えず二人ともカミカミだった……。 「え、えぇと孔明と……」  カミカミだったため聞き取れなかった白蓮が聞き返す。 「え、えぇと……しょの、ほうちょう士元でしゅ。」 「包丁?」  再び噛んだため、白蓮に上手く伝わらなかった。それを見て少女は更に慌ててしまう。 その様子を見て、一刀は(あぁ、パニックを起こしてるな……しょうがない)と、状況を 把握して、彼女たちの主である桃香が動くよりも速く行動を起こしていた。  ポンッ、と頭の上に何かが乗ったことに気付き、鳳統は俯いていた顔を上げる。すると そこには柔らかな笑みを浮かべる一刀の顔があった。一刀は囁くような、優しい声で鳳統 へと語りかけてきた。 「取り敢えず落ち着こうか、ほら深呼吸して」 「え、えっと……すぅーはぁーすぅーはぁー」  そっと頭を撫でながら、鳳統に対して優しく語りかける一刀。その様子を見て白蓮は元 より、鳳統をそれなりに知る桃香とよく知っている諸葛亮も驚いていた。 「すぅーはぁーすぅーはぁー もう……大丈夫……です」 「そっか、それじゃあもう大丈夫かな?彼女にもう一度自己紹介をしてみて」  そう言って、白蓮の方へと視線を向ける一刀。それに倣い鳳統も視線を向ける。そして 「……その、鳳統士元といいます。桃香様の元で軍師をしています」  今度は無事、自己紹介を終え、ぺこりとお辞儀をする鳳統。 「あぁ、私は公孫賛伯珪。よろしくな」 「ひゃ、ひゃい!」 「……はぃ」  白蓮が自己紹介をすると二人は再び身体を硬くしてしまった。 「で、こっちが」 「北郷一刀。公孫賛のところで部隊を率いさせて貰ってる。よろしく」 「まぁ、私の私的な参謀と言ったところかな」  白蓮の補足付きで一刀の自己紹介が済む。ちなみに"私的な参謀"については一刀自身は 初耳だった。 「北郷さん……!? もしかして?」 「……きっとそうだよ」  何かに気付いた諸葛亮と鳳統は顔を見合わせる。そして一刀へと視線を向ける。 「ん?どうかしたかい?」 「あ、あの……つかぬ事をお聞きしましゅが、もしかして北ぎょうさんって"天の御使い" 様でしゅか?」 「え、えぇと、まぁそう呼ばれたりしてはいるかな」  頭を掻きながら答える一刀。諸葛亮たちは自分たち考えが正しかったことを知り、更に 二人は固くなってしまった。 「はわわ……」 「あわわ……」  再び、もの凄く落ち着きを無くす二人。それを見て一刀は二人の前にしゃがみ頭に手を 乗せる。そして先程鳳統にしたのと同じように優しく撫でる。 「二人ともそんなに固くならないで欲しい。俺はそんなに畏まって相手をしてもらう様な 存在じゃないんだから。というか逆に畏まられると俺が落ち着かないんだよな。はは」  そう言って、笑いかけながら二人を撫でる一刀。既に何度も様々な女の子の頭を撫でて きた一刀の手、そして微笑みはある意味"凶器"と化していた。  そんな"自覚無き凶器"により別の意味で固くなってしまう二人。 「ひゃ、ひゃい」 「……わ、わかりましゅた」  なんとか返事はするものの二人の顔は真っ赤だった。 「それに、"伏竜"と"鳳雛"と称される程の二人と比べたら特にね」」  そう言って、一刀はふわりとした笑みを浮かべる。それを見せられた二人は更に動揺し てしまったのだが、それに一刀が気付くことはなかった。 「しょ、しょんなことないれす……」 「……でしゅ」 「はは、事実なんだから照れなくても良いのに」  一刀はそう言って、笑いながら二人から手を離した。ちなみに、二人が照れた理由を勘 違いしたままだった。そして一刀は立ち上がると、 「よし、それじゃあ行こうか。さすがにこれ以上遅れるわけにはいかないだろ」  そう言って、白蓮と桃香を見た。しかし、 「……」  二人ともただ黙って頷くだけだった。その顔には笑みが浮かんでいたのだが眼は据わっ ていた。一刀はそれに疑問を持ちながらも歩き出した。  首を傾げながらも歩き出した一刀を慌てて追いかける白蓮。そんな二人、正確には一刀 の背中を見つめながら、三人も歩き始めた。 「桃香様」 「ん?どうしたの?」 「北郷さんっていい人ですね」  諸葛亮のその言葉に鳳統もこくりと頷き同意を表した。そんな二人を見て桃香はくすっ っと笑い、 「そうだね。私も素敵な人だと思うよ」  そう答えて、二人と同じように一刀の背中を見つめるのだった。  そんな会話が背後で行われているなどとは一切気付いていない一刀は歩きながらも白蓮 に質問されていた。 「なぁ、随分手慣れていなかったか?」 「まぁ、ちょっとあの位の子を相手にしたことがあるからな……」  そう言って、一刀は柔らかな笑みを浮かべた。その瞳はどこか懐かしいものでも見てい るようだなと白蓮は思った―――。  そして、いざ軍議の場へと入った訳だが、何やら重苦しい雰囲気が漂っていた。一刀は その原因に関しては予測が付いていた。それは彼が、かつての世界でも似たような状況を 経験しているためだった。 「お―――ほっほっほ、わたくしが袁本紹ですわ」  全員が集まったのを確認して高らかに告げる袁紹を見ながら一刀は現状を見て、 (どうせ、"また"総大将が決まってないんだろうな……) などと思っていた。 「あらあら、伯珪さんではありませんの」  居並ぶ諸侯の内の一人が白蓮へと声を掛けてきた。 「あぁ、久しぶりだな……」  それに応えながら白蓮は一刀を連れ、適当な位置へと移動する。その後に続き、桃香た ちも空いている場所へ行く。  それからの展開は、おおよそ一刀の予想通りだった。連合の総大将が決まっていなかっ たのだ。理由はあからさますぎて呆れそうになる。なぜなら、どの諸侯もそんな厄介な役 割はご免とばかりに立候補する気配も見せない。そして、袁紹もまた、誰かの推薦を促す ような素振りをしているだけで立候補はしない。もちろん、推薦したときの事を考え、諸 侯は黙ったままであったり、袁紹の言葉に適当に相づちをうったりといったという膠着状 態だったからだ。もちろん、一刀もここで余計なことを言えば公孫賛軍にそのしわ寄せが 来ることは分かっていたため黙ることにした。  そんな膠着状態が続いている中、先程から諸葛亮、鳳統、両名とひそひそと話していた 桃香の発言によって事態は急変した。桃香は、何時までも燻る諸侯たちへ意見をし、いつ までもうだうだとやっていた袁紹に総大将になるように進言したのだった。  そんな桃香を諸侯は冷ややかな目で見ていた。 「あちゃあ、桃香の奴……」  白蓮はそんな桃香を見て、頭を抱える。そして、 「私もその意見に賛成だ」 「ぱ、白蓮!?」  予想外の白蓮の行動に反応が遅れる一刀。 「あらあら、それでは私が総大将をするとしましょう」 「別に、かまわないわ」 「私たちも構わないわよ」  金髪の巻き髪の少女と、褐色の肌の女性―――今まで、一刀が知っている人物の中では "孫権"に似ている―――が適当に賛成する。 「妾も別に構わぬぞ。それより蜂蜜水が欲しいのじゃ」  先程まで袁紹とともに催促していた少女がどうでもいいといった感じで賛成し、側にい る女性に蜂蜜水を求めていた。  それを聞いた袁紹は高笑いをしながら、さっそく自称"指示出し"を始めた。 「それでは、劉備さんとやらには、私を推薦したのですからその御礼として先陣を切らせ てさしあげますわ」 「え?」  驚く桃香をよそに袁紹はペラペラと理由を述べていく。一刀は、案の定、厄介な役割を 与えられた桃香を見て黙っていられなかった。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。劉備陣営の戦力はこの中でもかなり低い方だぞ」 「何ですの貴方は、今私は劉備さんとお話してるんですの。貴方は黙っていて下さらない かしら」 「いや、私もどうかと思うぞ」  白蓮も一刀の意見に加わる。その行動は、先程の行動も含め、彼女がいかにお人好しで あるかを如実に表している。  そんな感想を一刀は抱いた。一刀がそう思ったのも仕方がなかった。何故なら、あくま で臣下の一人である一刀ならいざ知らず主人である白蓮が口を挟むような真似をすれば公 孫賛軍全体を巻き込みかねないからである。 「……でしたら伯珪さんの軍も先頭に出てくださいな」 「な!?」  一刀の嫌な予感通り、袁紹による、無茶な発言に白蓮もたじろいでしまう。それでも反 論をする人物がこの場にはいた。 「まってくれないか?」 「さっきから何ですのあなたは?」 「ん?あぁ、紹介がまだだったかな。俺は白蓮の元で世話になってる北郷一刀」 「で?そんな男がこの私になんですの?」 「だから、ちょっと、忠告をしとこうと思ってね」  そこまで言って、一刀は気合いを入れたが、膝は笑ってしまっていた。初めて、上の立 場の人間に自分なりの意見を告げるのだからそれくらいの緊張もしかたがないのかもしれ ない。 「忠告……ですの?」 「あぁ、連合内の各陣営の戦力的な部分で考えていくと、公孫賛軍を劉備軍と共に前曲に 出したりすると、全体的な均衡が崩れる恐れがあるんだ」 「?」  一刀の言葉の意味がよく分からず首を傾げる袁紹。それを見て一刀はここが正念場であ ることを悟り、笑ってしまっている膝を叱咤し、再度気合いを込める。 「つまり、仮に劉備軍と共に公孫賛軍が前曲を務めたとする、すると残るのは曹操軍、孫策軍 と袁術軍、涼州連合、その他の諸侯、そして袁紹軍となる。そうなるとどうしても左右均 等な配置は出来なくなる。そうなれば、戦力が薄い側を敵に突かれた時、あっという間に 本陣を務める軍は危機に晒される。だが、割と兵力のある公孫賛軍が、前曲以外のどこか に配置出来ればマシになる」 「……」  袁紹は既に自分の軍が本陣を務めることを頭の中で決めていた。その為、一刀の言った 普通に考えれば無理のある理論をただ、"本陣が危機に晒される"という一言で納得してし まっていた。納得はしても賛同出来ない袁紹は反論する。 「べ、別にそれくらいなら他の方たちが補うに決まっておりますわ」  いかにも名案と言った様子で打開策を挙げる袁紹。だが、諸侯の答えは、 「私たちは無理よ」 「私たちも無理ね」 「妾も無理なのじゃ」  だった。あまりにあっさりと断られ袁紹の肩が震える。 「なな、な」 「な?だから、公孫賛軍を無闇に前曲に送るべきじゃないんだよ」 「……わかりましたわ。なら、劉備軍のみでいってもらうといたしますわ」 「いや、それはそれで厳しいだろうな」 「では、どうしろというんですの?」  半ば怒り気味に訊き返す袁紹。 「あぁ、だから俺の部隊だけ劉備軍と一緒に前に出る」 「なっ、一刀!」 「悪い、白蓮。それと、俺が劉備軍と共に前に出るのに条件を設けたい」 「条件?何ですの?言ってごらんなさいな」 「あぁ、俺の部隊と劉備軍へ兵糧を分けてくれ。それと、劉備軍に兵五千を貸してあげて 欲しい」 「な、何故私が」 「だからいってるだろ。条件だって。それとも、袁本初ともあろう御方が小勢力の軍と一 部隊への援助を出し渋るのか?」 「そ、そんなわけありませんわ! いいでしょう、その条件を呑みますわ」  その一言で話に決着がついた。今回は、なんとか最低限の援助を得ることに成功した一 刀の勝ちと言えるだろう。  そして、話が終わったのを切欠に諸侯たちは自分の陣へと帰って行った。それを視界の 隅に捉えながら白蓮は袁紹に気になっていたことを尋ねる。 「ところで、作戦はあるんだよな?」 「えぇ、もちろんありますわよ」  白蓮の質問にさもありなんといった様子で答える袁紹。 「……だよなぁ。これだけの規模なんだ作戦が決まってないのはまずいよな」 「うんうん」 「……」  不安が拭いきれず顔を引きつらせている白蓮の言葉に桃香は頷き、一刀は無言だった。 「それで、どんな作戦なんですか?」  桃香が袁紹へと尋ねる。それに対して袁紹は胸をはり自信満々に口を開く。 「それはもちろん―――」 「はぁ、雄々しく、勇ましく、華麗に進軍……だろ?」  袁紹の言葉を遮るようにため息をつきながら一刀が代わりに答える。 「あら、わかってらっしゃるではありませんの。あなた意外と良い感覚をお持ちのよう ですわね。まぁ、もちろん私には劣りますけどね。おーほほほほほほほほ!!」  意外という風に一刀を見やり、何故か自慢を始め、高笑いをする袁紹。桃香と諸葛亮、 鳳統、白蓮も驚きを隠せなかった。対する一刀は相変わらず呆れた様子のままだった。 「……いやいや、袁紹さんにはピッタリな作戦だよ。はは……」  どこか疲れた様な表情で乾いた笑いを浮かべながら答える一刀。それを見て白蓮も顔を 引きつらせる。 「な、なんと言っていいのやら……」 「つまり、その作戦に合っていれば、俺たちは俺たちで好きにやっても構わないってこと なんだよな?」 「えぇ、当然ですわ。一々、総大将たる私が作戦を考える必要ないではありませんの?で すから、あなた方はただ、この"私"が総大将を務めるにふさわしい戦いをすれば良いので すわ」 「わかった。そう言う事みたいだし、俺たちも行こうぜ。桃香」 「う、うん。それじゃあ、袁紹さん。兵糧と兵の手配お願いします」 「分かっておりますわ」 「くれぐれも頼む」  念のため、一刀は自らも頼み立ち去っていった―――。 ―――陣へと戻る諸侯たちの中で、先程のやり取りに興味を持っている者がいた。  先程、軍議に参加していた褐色の女性が、褐色、黒髪で眼鏡を掛けている女性と共に陣 へ戻るため歩いていた。 「ねぇ、さっきのどう思う?」 「袁紹とあの北郷という男のこと?」 「そうそう、天の御使だっけ?彼、結構いい感じじゃなかった?」 「そうね、あの発言は中々のものだと言わざるを得ないでしょうね。虚勢とは言え、袁紹 の性格をよく理解していなければできない芸当ですもの。それに、その後の彼の言動は意 外と奥が深いわね」 「へぇ、そうなの?」 「えぇ、彼は劉備軍へだけでなく自分の隊へも兵糧を分けるよう申し出をした。あれは一 部隊分、公孫賛軍に追加されるってことになる」 「つまり、公孫賛軍はタダで一部隊分の兵糧を増やしたって事ね」 「そう、一部隊とはいえ今回の戦いの規模を考えると結構な量になる。それを流れの中で 引き出した。そして、それは一部隊って言う小規模だからこそ可能なことだった。もし、 公孫賛軍全体だったら、恐らくは無理だったはず。そう考えれば、一部隊というのは正解 だったと私は思う。それに加え、彼が申し出たからこそ、他の人間にも利点が生まれた」  そこまで言って、眼鏡をくいっとあげる黒髪の女性。もう一人の女性はただ黙って続き を待っていた。 「その利点を得たのは劉備。本来は北郷の言葉は彼女の口から告げられるはずだった。 もちろん劉備がそれをしていたら―――」 「体裁は良くないわね」 「そう、あまり良くは思われない。だけど、一部隊を率いているだけの北郷がそれを願い 出たことで、少なくとも外聞は悪くなくなった。話を聞いた人間が、劉備自身が必要とし たわけではなく、彼が勝手に気を利かせたように取るのが自然な反応となる。つまり、彼 は劉備軍の名誉まで守ったことになる」 「ふぅん」 「まぁ、そこまで考えたうえでの行動ならいずれは厄介な相手になるでしょうね」  黒髪の女性の言葉を聞いてどこか満足そうに微笑む女性は嬉しそうに黒髪の女性の方を 向き、 「ふふ……やっぱり、私自身が出席して正解だったみたいね」 「そうね、相変わらずあなたの"勘"は怖いくらいに当たるのね」 「ふふ、それはそうでしょ。これで生き抜いてきてるんだから」  どちらともなく吹き出す。終いには笑い合っていた。 「ねぇ、ちょっと考えたんだけどさ―――」  一通り笑い合った後、黒髪の女性はもう一人の女性が発した考えに驚かされた。もっと も、彼女も"その考え"に同意したのだが―――。 ―――袁紹とのやり合いを終えた後、一刀は白蓮、桃香たちと共に歩いていた。 「それにしても、さっきのはびっくりしたよ」 「まったくだな。冷や汗ものだったな」 「はは、俺も緊張したよ」  それぞれの感想を告げる桃香と白蓮に照れる一刀。 「で、でも私もすごいと思いました」 「私も……ました」  諸葛亮もまた一刀を褒める。それに鳳統も頷く。彼女たちの頭の中には先程、別の場所 で黒髪、眼鏡の女性が至った考えが浮かんでいたためである。 「いや、ほんとあれは俺自身の力でもないからな」  一刀は称賛されるほど落ち込んでいた。本人はズルをしたと思っているからである。  実際、一刀が行ったのは、かつての世界で袁紹相手に行った交渉を、同じくその時手に した知識―――主に袁紹軍が本陣を務めること―――を元に少し応用しただけのものだっ た。ただ、そんなことが分かるのも、また実は名軍師たちが考えているような"裏"などな かったということを知っているのも、一刀本人だけな訳なのだが。  一刀はそういった理由から落ち込んではいたが、それを隠したまま、一端公孫賛軍の陣 に戻り、自分の隊の人間を集め、劉備軍の陣へと向かった。ちなみに、その際に星も一緒 に一刀について行くことにしたのは言わずもがなである。ただ、その際、指揮を執るため 陣に残ることになっている白蓮が「またかよ……また私はこんな役かよ……いっそのこと 私も……いや駄目だ……」などと呟きながら重苦しい気を発し、兵たちの緊張感を通常時 以上に高めていたりしていたのだが、もちろん一刀はそんなことなど知るよしもない。  公孫賛軍の陣が異様なまでの統率がとれている頃、一刀が隊を引き連れ劉備軍の陣へと 入るところだった。そして一刀が陣の中に入るとすぐに、愛紗が迎えに現れた。 「一刀殿、桃香様から聞きました。申し訳ありません」 「ん?あぁ、そんなに気にしないでくれ」  陣に入るやいなや頭を下げてくる愛紗に苦笑を浮かべる一刀。やはり、顔には出さない が"俺はズルをしたんだから"と心のなかで付け加えていた。 「にゃ?お兄ちゃんも一緒なのか?」 「あぁ、そうだよ」 「やったー」  あまり事情を理解していない鈴々はただ一緒にいられるという理由だけで喜んでいた。  その後は、愛紗に必要以上に感謝され、鈴々と桃香に必要以上に御礼と言う名の抱きつ き地獄(天国?)を喰らい、星にそれを必要以上にからかわれていた。  そんな所へ、一刀にとっての救いの女神が現れた。 「ちょっと、いいかしら」  声を掛けられその場に居た面々は各々の行動を止め、そちらへ向かった。 「はい。あ、えぇと……」  そこには、先程軍議に参加していた金髪の巻き髪の少女が、二人の女性を従えて立って いた。桃香は軍議で見かけてはいたが、名前を聞いておらずなんと言えばいいか迷ってい た。そんな様子を見て少女は名乗り出した。 「我が名は曹孟徳。覚えておきなさい」 「あ、はい。それで、曹操さんは何でここへ?」 「ただ、ちょっと一声掛けにきただけよ。あなた、割とかわいいから」 「え!?」 「曹操殿!!」  曹操の不謹慎な一言に愛紗が怒りを露わにする。そんな彼女を見ても曹操は微塵も動揺 を見せず、むしろ口元を緩め笑みを浮かべた。 「あら、関羽。あなたの方が私の好みだわ」 「な!?」  関羽と曹操の臣下二人が驚きのあまり、声を上げる。 「おやおや」 「は、はは……」 「にゃはは、愛紗面白い顔なのだ」  星と一刀はその様子を見て呆れ、鈴々は驚愕を顔に貼り付けた愛紗を見て笑っていた。 「まぁ、今回は挨拶だけよ。それじゃあ失礼するわ」  そう言って、立ち去る曹操。 「?」  一刀は、振り返る瞬間、曹操が自分へ視線を向けてきたように感じたが、理由が分から ず、気のせいだと思い考えるのをやめた―――。 ―――曹操は自軍の陣へと戻る途中、臣下の一人に質問をされた。 「一体、何故劉備の元へ行かれたのですか?」 「さっきも言ったとおり、ただ声を掛けに行っただけよ」 「……」 「信用できないかしら?」 「……いえ」  結局青みがかった髪の女性は曹操の言葉に頷くことしかできなかった。 「……」  そんな二人の様子を眺めながら黒髪の女性は、何故妹がそんな事を聞いたのかよく分か らず、後で尋ねてみようと密かに決意するのだった。 「何故……心……私……あの男……」  何気なく口を突いて出た曹操の呟きは、二人の臣下や他の誰かの耳に入ること無く風の 中に消えていった―――。 ―――そのころ、劉備軍の陣では、曹操が出て行くのと入れ替えに二人の女性が入ってき たところだった。 「ちょっといいかしら」 「何用でしょうか?」  桃色がかった髪をした女性に愛紗が対応していた。  それから一刀は、しばらく何気なく二人のやり取りを見ていた。すると、女性のどこか 高圧な態度に愛紗が怒声を上げ青龍刀を構えた。それに合わせて女性を剣を抜き出す。 「げっ、何してるんだ!?」  その危うい雰囲気を目にして一刀は泡を食って止めに入ろうとする。 「待て待て、落ち着け!!」 「やめるのだ愛紗!」  この時、一刀は失念していた……自分以外に止めるべきかどうかを判断できる者がいる ということを。そして、一刀が二人の間に入るのと同時に止めに入った鈴々と頭から衝突 してしまった。 「ぐあぁぁあ」 「いたいのだ……」  鈴々は、当たった箇所をさすっている。それに対し、一刀の方は頭突きの痛みにのたう ち、地面をごろごろと転がり回っていた。そんな間抜けな姿を見て二人の纏う空気が消 し飛んだ。 「ぷっ、あははは」 「く……か、一刀殿、くく……な、何を」  女性の方は完全に笑い出し、愛紗はなんとか堪えて―――とは言え、少し笑いが漏れて いるのだが―――地面を転がる一刀に何をしているのか尋ねた。 「痛たた……何って、愛紗たちが、不穏な空気を振りまいていたから止めようとしたんだ よ……くぅぅぅ、痛た……」  頭を抑えながら立ち上がった一刀は涙目のまま愛紗をにらむようにして答えた。もちろ んそんな顔では威嚇など出来るはずもなく、 「くくく、ぷっ、あっははは」 「あはは、くく……な、何その顔! あははは」  結果として愛紗の口を決壊させ爆笑させてしまう。最初から笑っていた女性は、一刀の その顔を指差しながら、大爆笑しはじめた。 「く、わ、笑っては失礼よ」 「だ、だって、あんなの見せられちゃ我慢出来ないわよ。くくく」 「くく……何言ってるのここに来た理由を忘れたわけでは無いでしょ」 「そ、そうね。それと……あなたも十分笑ってるじゃない」 「……そ、そんなことは―――」 「声、震えてるわよ」  黒髪の女性は指摘された通り先程から口元に手を当てているうえ、声が震えていた。そ れはあきらかに先程までの愛紗同様笑いを堪えている証拠だった。それを自覚していた彼 女は慌てて顔をそらす。ちょうどそこへ、 「あれ〜みんなどうしたの?」  桃香が歩いてきた。それを見て黒髪の女性はこほんと咳払いをする。それに合わせても う一人の女性も気を引き締め直す。 「あなが、劉備ね?」 「はい、あなたは?」 「私は孫策伯符。今は弱小化してしまった"呉"の王よ。それと隣に居るのが」 「周瑜字は公謹。私は、呉のそして彼女の軍師だ」 「はぁ、それで……用件は?」  納得したのかしてないのか分からない様子で桃香が尋ねると孫策はふっと笑みを浮かべ て訪ねてきた真意を語り出す。 「もし貴方たちさえよかったら、協力してあげる」 「えぇ!?」  その場にいた劉備陣営の人間と一刀は驚きの声をあげた。  その後は、桃香と孫策による対話のみが続いた。孫策が告げた理由は、やがて孫呉を取 り戻すには、"外"の味方が必要でありその相手を桃香たちに決めたということらしい。もち ろん協力してもらえば桃香たちとしてもこの戦いが楽になる。ということで利益が一致し ていると言えるが、結果としては一先ず、呉がどれほど真剣なのかを示してからというこ とになった。その様子を端から見ていた一刀は、普段ほわほわっとしている桃香が意外と したたかだったことを知り、自分への接し方も意外と何処か計算尽くなのではないだろう かと思い、これからのつきあい方を改めた方がいいのだろうかと小一時間ほど考え込むの だった。  一方、桃香たちと別れ、自陣へと戻るため颯爽と歩いて行く孫策を見ながら周瑜は改め て確信していた。やはり、彼女は乱世に君臨するだけの、王たる資質を持っている人なの だと。そんな風に思われている当人である、孫策は別のことを考えていた。それは、桃香 たちに協力した"もう一つの理由"である。 (ふふ……"彼"中々面白そうだったし、何とか見れる機会が多く取れて良かったわ)  実はそんな個人的な興味が理由に含まれていたりすることなど、長年相棒を務めている 周瑜ですらも気付くことはできなかった。もし、周瑜が、そんな理由が含まれていたこと を知れば、おそらく彼女は頭痛に襲われ、頭を抱えることになるであろう。故に気付かな かったことは彼女にとって幸せなのかも知れない―――。 ―――それから連合軍は、第一の関門とされる『水関』へ向けて出陣を始めた。  一刀は進軍中である連合軍の前曲を務めている劉備軍、その主である桃香を初めとする 主要人物たちと会話を続けていた。いかんせん連合軍の総大将が頼りないため、目的地に 着くまでにある程度考えをまとめておく必要があったからである。  そんな理由から話し合いをしていると、既に放っていた斥候から情報がもたらされる。 水関に立てこもっている董卓軍は五万、そしてその内三万は、強力な武将"華雄"率いる 部隊という報告を受け、さすがに厳しい戦いになるであろうことをその場にいる誰もが理 解していた。だが、そう思っていても作戦の立てようもなく、ただ臨機応変に動かざるを 得ないのが現状であることもまた理解していた。結局、華雄の性格を考え引きずり出すこ とだけが決定して話し合いは終わった。ただ、先程の約束もあるため、孫策軍がどう動くの かも頭の隅に残しながら……。  そんな一抹の不安を抱えながらも一刀たちは、連合軍とともに水関へと向かうのだっ た―――。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「無じる真√N」第十三話 ―――反董卓連合編その三――― ―――水関前にたどり着くと、これまでとは違う独自の空気が辺りを支配していた。 「うぅ、なんだか緊張するね」  あたりを漂う、ピリピリとした空気を感じながら桃香が呟く。それは、差はあれどその 場にいる者たち全員が抱いていることだった。 「あぁ、後は号令が掛かれば戦いが始まる」 「えぇ、そしてこの戦いを切り抜けなければなりません」  自らに言い聞かせるように答えながら愛紗は気合いを入れる。同じように鈴々、星も普 段とは異なる武人の顔へと変わる。そして、今開戦の合図が辺りに鳴り響く―――。 ―――連合軍が、水関を攻略せんと動き始めてから少し経った頃、その水関では二人 の女性が言い争いをしていた。 「もう、我慢出来ん!!私は出る!」 「アホなこというな!」 「何と言われようと構わん、さすがにあれだけ好き放題言わせるのは我慢ならぬのだ!」  華雄がここまで荒々しくなっているのには訳があった。先程から城門付近に居る一人の 少女によって華雄という一武人の名がけなされているからだった。それを知りながらも華 雄を止めようと女性は尚も説得を続ける。 「武人としての誇りか?アホぬかすんやない!!ウチらはそんなモンより"大事なモン"のた めに戦ってるんちゃうんかい!」 「ぐっ、確かにそうだが、もう私一人の誇りではない。私の部下たちも限界なのだ」  そう言われて、袴の女性"張遼"は華雄隊の兵を見る。どの兵も殺気立っており、華雄が 動けばそれに合わせて動くであろうことが手に取るように分かってしまった。 「……それでもや、ウチらは守るべきモンがある。それともアンタは違うんか?華雄」 「くっ、それはそうだが……」  張遼に鋭い視線と共に言葉を投げつけられる華雄。彼女とて、張遼の言うことは理解し ていた。しかし、連合軍による己の仕える主への―――彼女からすれば―――狼藉に対し て既に怒り心頭であるが故、彼女の沸点は低くなってしまっていた。  もちろん、張遼も華雄同様怒りを内包しており、それを知っているからこそ華雄も未だ に暴走していないのだった。  あと少しで、華雄を宥め落ち着かせることが出来る。その時、張遼はそう思っていた。    もうすぐ、連合による更なる一手によってそれが覆されてしまうことになるとも知らず に―――。 ―――劉備軍と北郷隊による共同の陣へ一人の少女が戻ってくる。その表情は優れない。 「駄目なのだ……何度も言ってるのに出てこないのだ」 「うーん、困ったね……」 「そうだな……」  今回の華雄の行動は一刀にとって"予想外"であった。彼の知っている華雄であれば既に 出てきているはずだった。しかし、実際には未だに籠もったままだった。  全く進展しない現状に困り果てていると。そこに第三者が現れる。 「どうやら、苦戦しているみたいね」 「あ、孫策さん」 「まだ、籠もったままなのね」 「そうなの、何度か挑発してみたんだけど効果が無くて……」 「そうでもないと思うわよ」 「え?」 「私、華雄のことはそれなりに知ってるのよ。華雄はこんなに大人しくしていられる様な 人間ではないはずよ」 「でも、実際出てきてないんですよ?」 「恐らくは、誰かが食い止めてるのでしょうね。でも恐らくあと一押しがあれば出てくる でしょうね」 「そうなのかな?」 「そこで俺を見られても困るが、まぁ華雄が噂通りならそうなんじゃないか?」 「まぁ、どちらにしても打つ手がないのなら少し見ててくれないかしら」 「?」 「私たちに任せてくれないかしら?」 「……わかりました」 「期待してていいわよ」  どこか余裕を感じさせる笑みを浮かべ、手をひらひらと振りながら軍の先頭へと消えて いった―――。 ―――水関に立て籠もっていた華雄は進み出てきた女性を見て動揺を露わにした。 「や、奴は……」 「どないしたん?」 「まさか……な。私の知る人間に似ているが……」  先程から華雄の様子がおかしい、それに気付く張遼。華雄と同じように女性を見ようと したのとほぼ同時に女性が口を開いた。 「聞けぃ!我が名は孫策伯符!華雄よ!貴様が水関を守っているようだな!だが、貴様 はかつて我が母、孫堅文台によって破られた。ならば、その子である私に破られるのもそ う時間は掛からぬであろうな。違うか?違うと言うならその手で我が口を封じて見せよ! もっとも恐れていなければの話ではあるがな。なぁ、臆病者の華雄?」  張遼は孫策の言葉が終わると同時に、隣から何かが切れる音が聞こえた気がした。その 音の出所へと視線を向けるとそこには身体をわなわなと震わせている華雄の姿があった。 「ちょ、華雄。あんな言葉気にしたらあかん」 「うるさい!もう限界だ!私は出る。出て奴らを蹴散らしてくれる!!」 「な、何言うとるんや!さっきも言ったやろが―――」 「そんなことはわかっている!その上でもう限界なのだ!」  自分の言葉を遮って叫ぶ華雄を見て、張遼は最終手段を試みる。 「……もし、あんたが出陣するっちゅうんなら。ウチらは虎牢関まで撤退する。"ここ"を 守るべきアンタがその役目を放棄するならこの水関は落ちたも同然。そんならウチらは 下がらせてもらう」 「ふん、好きにしろ!」  半ば、脅しに近い形で告げるが焼け石に水、もう華雄を止めるのは不可能。そう判断し た張遼は自ら率いる隊に指示―――張遼隊の撤退―――をした。  それを横目で見つつ華雄は部下たちに号令を掛ける。 「良いか!華雄隊の強き兵たちよ!これより我らは愚かなる連合軍を蹴散らしに出る!覚 悟を決めろ!」 「うぉぉぉぉおおお」  華雄の声に続いて兵たちの怒号が辺りに響く、そして水関の門が開かれる―――。 ―――水関内部で動きがあったことを察知した孫策たちは一度桃香たちの元へ戻った。 「出てくるのは華雄の部隊3万だけみたいね」 「それじゃあ、私たちが相手をしましょうか」  周瑜の報告を聞き、孫策は桃香たちの方を向きそう告げた。その言葉に桃香が応える。 「いえ、私たちも戦います」 「へぇ、私たちだけでも相手はできるんだけどね」 「そうもいきません我々としてもここで名を上げなければなりません」  孫策の言葉に愛紗が応える。孫策はその答えが分かっていたのか大した反応は見せなか った。 「それじゃあ、華雄を討ち取るのかしら?」 「出来ればそうしたいところです」 「そう、それじゃあ私たちは華雄を含めた主軸以外のおまけを倒すとしようかしら」  そう言って孫策は周瑜の反応を伺う。周瑜はただ目を閉じ腕を組んだまま黙っていた。 それを肯定と見た孫策は、兵たちを引き受ける趣を桃香たちへ伝えた後、そのまま陣へと 戻ろうとする。その際に、一刀は彼女に声を掛けた。 「孫策さん、ありがとう」 「あら、どうして礼なんか言うのかしら?」 「すごく嫌な役目を任せちゃったからさ」 「へぇ、どう嫌な役目なのかしら?」  どこか観察するような目で一刀を見る孫策。 「孫策さんたちに華雄の挑発をしてもらったのに、実際に出てきたところで孫策さんたち は華雄とは戦わない……見方によっては、言うだけ言っていざ目の前に来たら逃げ出した ように見える……下手をすれば、余計な評判がつきかねない。違うかな?」 「そうね、貴方の言う通りよ」 「だからこそ、ありがとう……そして、ごめん」 「ふふ、いいのよ。劉備にも言ったでしょ?私が彼女たちに"誠意"を見せるって、だから 、今回のことで、いずれ呉を取り戻す上で協力して貰えるのならこれくらい問題ないわ」 「そっか……頑張って、としか俺には言えないかな」 「ふふ、それじゃあもう戻るわ」 「あぁ、ごめん呼び止めて」 「気にしなくていいわ」  そう言って一刀と別れ自陣へと戻る孫策。一刀には言わなかったが彼女は短い間とはい え会話が出来た事は彼女にとって悪いことではなかった。 (収穫があったわね……)  そんな事を思いながらもどる彼女の顔には不思議と笑みがこぼれていた。幸いその顔は 周瑜にも、また影から自分を守っている少女たちにも見られることはなかった。  そして、華雄隊が全て水関より出てきたことで。ついに戦が始まった―――。 ―――華雄隊と劉備軍、孫策軍、北郷隊のよる連合軍前曲が激突を始めてから数刻たった。  戦いは終わりを迎えるどころか一層激しさを増していた。 「くそっ、孫策はどこだ!」  華雄は、目的の人物を捜し駆け回っていた。邪魔な兵士を薙ぎ倒し、進むのを邪魔する 敵兵を倒しただ、進み続けた。途中、劉備軍の将である関羽が近づいてこようとしていた が部下によって食い止められていた。華雄としては戦いたかったのだが、今は孫策を優先 していた。 「孫の旗、おそらくあそこだと思われます」 「よし、敵を蹴散らし奴の元へ行くぞ!」  部下の指した方向へ向かい、直進を始める華雄。この時、戦っているどの軍も予想して いない事が起こる。劉備の軍の兵を蹴散らし、孫策の元へ向かう華雄の前に劉備軍 とも孫策軍とも違う。もちろん自分たちとも異なる部隊が出てきたのだ。 「おいあの十文字旗は何だ?」 「恐らく、公孫賛軍の北郷だと思われます」 「あぁ、あの天の御使いとか言われている胡散臭い奴か」  華雄も噂には聞いていた。もちろん、そんな噂など信じていなかったが。 「まぁ、関係ない我らは邪魔な敵を蹴散らすのみ!」  そう意気込み、華雄はさらに前進する速度を上げた―――。 ―――北郷隊は、あくまで一部隊である。その為、劉備軍の補佐をしながら戦っていた。  その結果、気がつくと劉備軍と孫策軍の間に移動してしまっていた。そして、そこへ華雄 が突撃してきたのだった。 「北郷様、敵の本隊がこちらへ向かって直進しております」 「そうか……参ったな」  その報告を聞き、一刀は少し考える。彼が望んでいたものとは異なった状況になったた めである。彼はこの水関での戦いである目的を隠し持っていたのだが、それは戦いの後 、行う予定だった。  そんなことを考えている内に、両方の兵による激しい戦いが始まっていた。なんとか劉 備軍の兵と連携を行い上手く戦って居るが、それでも華雄隊の一部は抜け出てきてしまっ ていた。 「華雄将軍!多くの兵が足止めを喰らっております」 「やむを得ん。我らだけでさらに前進するぞ!」  一刀はその声を耳にした時には目の前に華雄がいた。 「貴様も邪魔だ!」  華雄が叫びながら戦斧を振り上げる。一刀はもの凄い速度で迫られていたため反応が遅 れてしまった。周りの兵は他の兵に遮られ手が出せない状態、一刀はもはや自分の命がこ れまでなのだろうかと考えた。そして、目的も遂げられずここで散ろうとしている自分に 対し、情けなさといらだちを感じた。一刀のそんな思いなど関係なく、戦斧は振り下ろさ れた。  だが、一刀の頭に触れようとした瞬間、戦斧が止まった。よく見ると、何かが戦斧の柄 に引っかかりそれ以上下がらないようになっていた。 「ふぅ、間一髪でしたな」  その言葉と同時に、華雄の戦斧の柄から"龍牙"が勢いよく引き抜かれ、その反動で戦斧 を弾いた。 「せ、星!」 「申し訳ありません主、遅れました。ですが、私が来た以上、主を死なせるような真似は させませぬ!」  そう言って星は槍<龍牙>を構え、華雄と対峙する。それを見て、華雄はにやりと笑み を浮かべる。 「さぁ、華雄よ!この趙子龍がお相手致す!」 「よかろう、この華雄の金剛爆斧を止めるとは……なかなかやる。不足はない!」  華雄が横振りの一撃を放つが、目標の姿はすでになかった。それに驚くと同時に戦斧を 持つ両腕に重みがかかった。気がつけば、刃の腹に星が乗っていた。 「ふ、それが自慢の一撃か?」 「!?なめて貰っては困る!」  華雄は、不敵に笑う星を振り落とそうと斧を力任せに持ち上げる。その勢いにのって星 は飛んだ。そして、落下しながら突きを放つ。それに対して、華雄は下から振り上げる。 「なんと!?」 「ちっ、やはり力が足りなかったか!」  星は華雄の振り上げた一撃に驚かされた。何故なら、元々かなりの重さである戦斧を下 段から振り上げるという無理な動きをしたにもかかわらず、華雄はその威力を弱めること なく重い一撃を放って見せたのだ。普通の相手ならば今の上空からの勢いに乗った一撃と 戦斧を振り上げ弱まった一撃という二つの要素によって倒せていただろう。  だが、目の前にいる華雄はそんな事を感じさせないほど強い一撃を放った。一般の兵な らここで恐れてしまうことだろう。しかし、彼女の相手をしているのは一般兵ではない、 星、もとい"趙雲子龍"である。星は、恐れるどころか高揚感に包まれていた。その顔には 笑みすら浮かんでいる。 「やはり、一筋縄ではいかぬか。さすがは、"猛将"華雄といったところ」 「ふ、そういう貴様もやるではないか。この金剛爆斧の上に飛び乗ったのは貴様で二人目 だ」 「ほぅ、きっと一人目はさぞかし華麗なる御仁だったのだろうな」 「いいや、貴様同様、いやそれ以上に怪しさを放つ奴だった」 「怪しい、そんなはずはなかろう」 「いいや、おかしな仮面を被り、妙なことを口走る変な奴だった」 「……」  華雄の言葉を聞いた星からもの凄い気迫が発せられる。ちなみに先程から二人の戦いを 見ていた一刀は、今のやり取りを見た瞬間、背中に悪寒が走ったのを感じた。 「おっと、つい余計なことを話してしまったな。いくぞ!」 「……」  華雄が先程以上に爆発的な勢いで突っ込んでくるが星は未だに俯き黙ったままだった。 それを隙とみた華雄が上段から振り下ろす。 「もらったぁ!」  華雄の振り下ろしによる勢いに乗った一撃を星は槍の柄で受け止めた。そう"避けた"で もなく、"受け流した"でもない……受け止めたのだ。それには華雄も一刀も驚かされた。 何故なら、普通これだけ強力な一撃を柄の部分で受けたりしたら槍は真っ二つとなり、持 ち主である星にそのまま一撃が当たってもおかしくないのである。 「そ、そんな馬鹿な!?」 「……変人といったな」 「?」 「あの"華麗さ"と"美しさ"と"強さ"を兼ね備えた人物を変人と申したか!」  星が俯かせた顔を上げる。その顔は今までと同じだった。だが、普段の飄々とした雰囲 気は無く、どこか恐ろしさを感じさせていた。その不気味な気に当てられたのか華雄が距 離を取る。 「な、なんだ貴様は!?」 「……ふ、まぁいい。説教は後だ!」  瞬間、星の姿が華雄へ向けて直進する。その動きに合わせ華雄が上段右から下段左へと 斧を振り下ろす。がやはり、星に止められる。あり得ないことに華雄は動揺した。その僅 かな気の揺らぎが隙を作ってしまった。斧の側面を滑らすように槍ごと前進し、滑らせる ことで突いた勢いに乗せ素早い一撃を華雄に当てた。 「ぐぁっ!」 「これで終わりだな」  地面に転がった華雄の胸に星の龍牙が突きつけられた。華雄は倒された際に手放してし まった金剛爆斧を見て諦めた。 「くっ、私の負けだ!殺せ!」 「ふ、そうもいかぬ。そうですな?主」 「あぁ、よく分かったな星」 「主のお考えは再会するときには予想できておりましたよ」 「そっか、それじゃあ星。取り敢えずこの水関の戦いに終止符を」 「御意」  一刀の言葉を受けた星は、華雄を縛り上げた上で全体に聞こえるよう声を上げた。 「聞けぃ!華雄の兵たちよ。華雄はこの趙子龍が打ち破った!!命ある者は、無駄な抵抗を 止め、投降せよ!」  その言葉を切欠にあたりの喧噪が鳴り止んだ。こうして水関の戦いは終止符を迎えた のだった―――。 ―――その後、孫策軍が始めに水関の内部へと突入したのに続き劉備軍、そして北郷隊と 入って行ったのを切欠に連合軍は水関へと入った。  そして、各軍が次の戦いへ備え準備をしている中、一刀は一つの天幕にいた。 「ところで星、さっきのはどんな仕組みなんだ?」 「何のことですかな?」 「あぁ、ほら華雄の一撃を正面から受け止めていただろ。あれって」 「ふん、おそらく私の攻撃が柄に触れる瞬間、槍の角度をずらし最も威力を発揮する垂直 から外させたのだろう?」  一刀の疑問に答えたのは目の前にいる星ではなかった。それは二人の前で縛られている 華雄だった。 「そうなのか?」 「えぇ、今の説明通りに威力を落とした後、身体全体で衝撃を吸収し、振り抜けなくしま した」 「それを、あの僅かな瞬間でやるとは……凄いな星」 「いえ、これくらい大したことではありませぬよ」 「いやいや」 「おい!いつまで待たせるのだ」 「ん?あぁ、ごめんごめん」  いつまでも相手にされずにいた華雄が怒り出す。怒られた一刀は、これでは立場があべ こべじゃないか、と思いつつも口にはしなかった。これ以上怒られたくないからである。 「どうせ、私の頸を落とすのだろう?ならば早くしろ!」 「待ってくれ、俺は別に君の命を奪うつもりはない」 「何!?そうか!ならば拷問にでもかけるのか!」 「だぁぁ、なんでそう痛いことばっか考えるんだよ。違うから俺、そんなことして喜ぶ様 な変態じゃないから!」 「ふん、どうだかな。今の二つが違うなら私を嬲り、陵辱しつくすつもりなのだろう!」 「ほう、お盛んですな。主」 「違うからね!無理矢理そんなことするつもりないから!というか話を聞いてくれ!」  天幕内には今喋っている三人しかいないのに、何故か自分が一番立場が弱くなっている という事態に直面した一刀の頭には"何故"という単語が飛び回っていた。 (なんで、俺こんなに押され気味なんだろ?俺って星の主だよな……華雄って俺たちに負 けたんだよな?あ、あれ……なんだか目頭が熱くなってきたぞ)  一刀はそんな事を考え、身体を震わせながら口を開いた。 「あぁ、なんだか泣けてk―――」 「それより、早く用件を言ってはどうですかな?」 「……泣かせても貰えないのね」  涙を流しそうになったところで星に促され、結局本題に移ることになった。 「さて、それじゃあ本題だ」 「……なぁ、貴様はあの"天の御使い"と聞いたが本当か?」 「ん?まぁ、そう呼ばれているね」 「……じぬ」 「あれ?どうし―――」 「信じぬ! 貴様が天の御使いなどという戯れ言、私は信じぬぞ!!」 「え?」 「貴様が本当の天の御使いならばこんな戦いに参加しているはずがない!いや、そもそも 起こるはずがない!」 「……そうだな」 「主!……華雄よ今のは聞き捨てならぬぞ」  星が華雄に厳しい視線を向ける。だが華雄はそんなことなどお構いなしに一刀を睨み付 けていた。 「ふん、そやつも自ら認めて居るではないか!」 「!」 「星、待ってくれ」 「主……」  華雄の言葉に反応し、動こうとした星を一刀が手で制す。そして華雄と顔の位置を合わ せ、正面から向き合い語りかけた。 「華雄……本当にすまないと思ってる。きっとこんな言葉じゃ足りないんだろうけど」 「……」 「俺はさ、天の御使いだなんだって言われているけど実際には何の力も持っていない情け ない男だ……現に君の言ったとおり、この戦いを食い止めることも出来なかった。だけど 俺は、まだやれることがあると思ってる」 「何だと」 「華雄、俺は君に降れとも、捕虜になれとも言わない。ただ、一つ頼みがある。だが、そ の前に確認させて欲しいことがあるんだ」 「……」 「ここに書いてあること、これは真実だよな?あ、くれぐれも具体的な単語は口にしない でほしい」  そう言って、一刀はひとつの竹簡を取り出して開いた。それは星と再会した際、受け取 っていたものだった。そこには"董卓没做圧政、長安和洛陽都和平"(董卓は圧政をしてお らず、長安も洛陽もいたって平穏なり)と書かれていた。 「なっ!?」 「どうかな?あってないかな?」 「そんなわけあるか!ここに書いてあるとおりだ!むしろ、今回のことで荒れ始めている くらいだ!」 「やっぱり、そうか……」  普通ではありえない一刀の行動に、華雄は困惑する。 「どういうつもりだ?」 「いや、だから頼みがあるんだ」 「私が、聞き入れると思うか」 「まぁ、普通には無理だろうな」 「どんな、手を使われようと私の心は動きはしないぞ」 「そんなに、気を張らないでくれ。俺も無理矢理なんて嫌いだからしないからさ」 「……」  この男なら確かにしないかもしれん。華雄はそんなことを思ってしまう自分を叱咤した。 (馬鹿か私は!変な期待をしても後悔するだけだ!) 「なぁ、華雄」 「……」  一刀は華雄が一応、自分を見たのを確認して、再び話し始める。 「俺の狙いが、これに書いてある。もちろんこっちのも具体的な単語は言わないでくれ」  そう言って、一刀は白蓮に見せた竹簡を華雄と星に見せた。星はやはりと呟き、納得し たように頷いたが、華雄は目を見開き言葉が出てこないのか口をぱくぱくとさせていた。 「!!??」 「俺は、"彼女たち"を救いたいと思っている。ただ、連合に参加せざるを得ない今 表 立っての行動は出来ないんだ。俺の恩人に迷惑が掛かるからね」 「な、ななな」 「それと、どこに、他の陣営の兵が紛れ込んでいるかわからないから具体的な話は勘弁し て欲しい」 「……」 「そして、この作戦を実行するのには華雄、君が必要だったんだ」 「な、なんだと……」 「そして、ここからが重要な話。実際の所、俺たちがいくら救いたいと思っても連合に離 反する真似は出来ない。確実に潰される。そこで、俺は諸侯に内緒で"彼女たち"を匿おう と思っている」 「何!?」 「だけど、きっと匿うと言っても彼女たちは信じてくれないはずだ。そこで華雄には、俺 と一緒に説得して欲しい」 「ほ、本気か貴様!?」 「あぁ、本気だよ。彼女たちは悪いことなんてしていないんだ。だったら、みすみす死な せるわけにはいかない」 「……」 「どうかな?俺の頼み受けて貰えないかな?」 「それがお前の本心だという保証が欲しい」  華雄が条件を提示してくるのに対して、一刀は苦笑する。だが、一刀は気付いていない 彼女が一刀に対し、"貴様"と言っていたのが"お前"となっていたことに……それが意味す ることに……。 「保証は、俺の頸でどうかな?」 「な、何だと!?」  華雄が驚き声を上げる。傍観者に徹していた星も僅かに驚きを見せる。 「俺は、これから華雄の縄を解く。そして華雄には俺の側にいてもらい、彼女たちに会っ たとき危害を加えようとするようなら、その金剛爆斧だっけ?で」  一刀がそこまで言った時、誰かの喉がごくりと音を立てた。 「俺の頸を落とせばいい」 「!?」  この瞬間、華雄は完全に圧倒されてしまった。初めて"武"も"知"も使わず"心"のみで負 けを認めさせられてしまった。そして皮肉にもそれが原因で先程自分が一刀を罵った時に 彼が見せた悲しみに彩られた瞳の意味に気付いてしまった。 (こいつは、本当に董卓様の身を案じている……そして、今の私同様、守れなかった事を 悔やんでいる……)  華雄が先程の出来事を後悔していると、急に体が自由になった。 「さて、どうかな?俺と一緒に来てくれるかな?」  そう言って一刀が手を差し出す。 「……いいだろう。お前の隣でしっかりと見張らせて貰うぞ」  華雄はそう言いながらも、差し出された手をしっかりと握りしめた。  その後、その報告を白蓮に伝えるため記した竹簡を兵に届けさせるため星が出ていった のを確認した一刀は、こっそりと華雄へ尋ねた。 「ところで、董卓の周辺に白装束のやつはいたか?」 「いや、一度も見たことはない」 「そうか、ありがとう」 「それが、どうかしたのか?」 「いや、何でもないんだ。ごめんな、変なこと聞いて」  聞きたいことも聞いたので、機嫌を損ねないうちに話を切り上げようとする。 (しかし、どうやらこの世界には"あいつら"はいないみたいだな)  一刀が一人の世界に入ろうとしていると 「ちょっと、待て」  華雄が声を掛けてくる。 「え?」 「私にも質問をさせろ」 「あ、あぁ、そうだよな俺だけ聞くってのもないよな。で、何かな?」 「何故、お前はそこまでする……何故、私を信じ、董卓様を信じられるのだ?」 「う〜ん、それは董卓は悪人じゃないってわかってたからかな。それに華雄はよくはわか らないけど、真っ直ぐな人なんだろうって感じたからかな」 「ふん、知ったような口を……というか、そんな理由で私の拘束を外したのか?」 「ん?そうだな、今の理由に加えて武人だから己の信念に反することはしないって思った からだな」 「武人……確かに私は武人である以上、姑息な真似は好かんのは確かだな」 「だろ……あっ、あと、もう一つあった」 「何だ?」 「女の子を縛りっぱなしというのは嫌だったからかな」 「き、貴様、武人たる私を捕まえて女だとぉ!」 「お、落ち着けって、別に貶そうとしたわけじゃないんだって」 「何?」 「いや、華雄に武人としての信念があるように俺にだって信念があるんだ。その一つがた だ、"そういうこと"なんだ。だから貶している訳じゃない。信じて欲しい」 「……わかった。一応納得しておこう」  "武"のみで生きてきた華雄にとって"女性"として見られたのは初めての経験だった。董 卓を初めとする、よく一緒に居た者たちからはどちらかというと"家族"として見られてい たため、一刀が彼女を"女性"と見た初めての人だった。  その後、星が戻ったところで虎牢関へと進軍することとなった。華雄の部下である 兵たちの残りは報告を受けた白蓮が、水関での北郷隊の功績を上手く使い公孫賛軍本陣 へと移送させた。そしてそれと同時に、先の戦いで減った兵の補充も行ったのだった。  こうして次の戦いへの準備は整った。果たして、次の虎牢関ではどのような戦いが待ち 受けているのだろうか―――。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――