──真√── 真・恋姫†無双 外史 北郷新勢力ルート:風拠点之三 開心見愛 ─ワタシハ、アナタヲアイシテイル─ **  ある朝眼が覚めた北郷一刀は、ふといくつかの違和感を感じた。  寝起きの呆けた頭で一つ一つその違和感を確かめていく。  まず一つ、暖かい。  今はもう十二月も終りが近い、真冬の早朝だ。  いつもなら肌寒さでブルッと来るはずの所が、部分的にであるが、ぬくぬくとしている。 言うなれば、人肌の湯たんぽを抱いているような感じ。  そしてもう一つ、圧迫感がある。  まるで自分の上に何かが乗っているかのような、重量感と圧迫感がある。  前述の物と合わせて考えるならば、人の重さの人肌の湯たんぽを乗せているかのような。  そして最後に一つ、好い匂いがする。 「……………………」  そこでようやく頭が働いてきたのか、昨夜のことを思い出し、眼を開き、視線を下げる。  そして一刀の視界に映ったのは、流れるような金髪。透き通る様な白い肌──  すうすうと寝息を立てて眠る、風だった。 -------------------- 六日前──  反董卓連合軍がその役目を事実上終え、いち早く抜けて漢中へと戻ってきた一刀等一行は、 その城門前にて二人の人物に出迎えられていた。  此度の遠征の間、漢中の留守を頼んでいた、閻圃と楊任である。  今、出迎えられるまで、二人の顔をしっかりと見た事は無かった一刀であるが、 二人を見て改めて、この世界の“女性化した”武将の容姿のレベルの高さを実感する。  ……要するに、 「あ、結構可愛い」  のである。  思わず漏れ出た一刀の呟きに、件の二人は彼の方を見て、恭しく礼をする。  そんな二人に、一刀はニコリと笑いかけながら、小さく手を振って応えた。  まさかそんな反応が返ってくるとは思わなかったのだろう、二人は若干慌てつつも、 その頬には軽く朱が差しており、  ──うん、やっぱり結構可愛 「痛てててててててててててて!!」  不意に脇腹に走った猛烈な痛みにうめきながら見てみると、風が済ました顔でつねっていた。  それはもう思い切り。 四日前──  久しぶりに湯に浸かる。  この時代だと、大量の湯を沸かすのは結構大変なため、こうしてちゃんと風呂に入れるのは週に一度程度。 そのうち温泉を手に入れたいものだと、一刀は固く心に誓った。  ……それはともかく、湯に浸かって居ると、風が侵入してきて非常に焦る一刀。 そのままなし崩しのうちに身体中を洗われてしまった。  ……まったく、人が入ってる時に入って来るなんて、襲っちまうぞ!  何て思いつつ慌てて出た後に、もしかして風は最初からそのつもりだったのか?  と、遅まきながらに思い至る一刀である。 三日前──  どうにも帰って来てから、風が妙に積極的だ。  ……と、少々困惑しつつも一刀は、普段の飄々とした雰囲気とは一味違う、 意外な一面を見られた事が嬉しかったりする。 二日前── 「……まったく、あれだけやって反応が無いとは、ご主人様はにぶにぶなのですよー。  おぉ、一刀二号もそう思いますかー。やれやれですね〜」  一刀が中庭に差し掛かった時、そんな声が聞こえたので行ってみると、風が猫と会話していた。  ……どうでもいいが、猫にひとの名前を付けるんじゃない。  と、心の中でツッコミつつも、ようやく色々と察することが出来た一刀である。  そして、そのまま立ち聞きするのはまずいなと思い至ってきびすを返したところで、 「それにしても、風は魅力がないのですかねー……」  そんな寂しそうな呟きに、思わず足を止めていた。 「やはり劉備さんや雪蓮さんぐらいでなければ、食指が動かないのでしょうか。 ……となると、やはり別の攻め方をしなければいけませんかねー……」  そして、その後聴こえてきたそんな不穏当な呟きは……聞かなかったことにしてその場を後にした。 昨日──  夜、その日までの風の様子をぼおっと思い返していた。  一刀は、余り女心と言う者に聡い方ではない……と自分では思っている。  だが、そんな彼でも風が自分に大きな好意を寄せてくれている事は知っているし、 ここ数日は、風にしては意外にも……と言っては失礼かもしれないが、 分かり易いアプローチをかけてくれていた事も分かっていた。  彼女が──彼女の独白を聞いてではあるが──何を望んでいるのかも。  それ故に、今日一日は手が空くとつい風の事を考えてしまっており── 「…………風」  ぽつり、と、特に意識もしていなかったが、つい風の名前が口から漏れた。 「はい、風ですよー」 「うおおおおお!!?」  突如後ろから掛けられた声に、思わず叫び声を上げ、座っていた椅子から転げ落ちる。  バックンバックンと、動悸がありえない程に強くなっているのを無理やり無視して、 掛けれた声の方を振り返ると……メイド服姿の風が居た。  非常に可愛い。  惜しむらくは、現在の激しい鼓動の原因が風のメイド服姿にではなく、 先ほどの不意打ちによる驚愕の余韻であることか。 「……って言うか、突如現れた上に人の独り言に返事をするんじゃない」 「……名前を呼ばれた物でついつい。  お声をおかけしたのですが、お返事が無かったものでー」  特に悪びれる様子も無く流す風に、一刀はやれやれと苦笑を漏らし、どうしたのか尋ねると、  何でも、以前一刀が送ったものは月達に進呈してしまったので、 戻ってきてから急ぎ仕立ててもらっていたそうだ。 「是非、ご主人様に一番に見ていただきたく思いましてー」  そんな嬉しいことを、さも何でもない事の様にさらりと言う風に、苦笑しつつも嬉しく思う。  メイド服の楚々とした感じと、風自身の飄々とした雰囲気がミスマッチな様で良く合っていて、 「……うん、似合ってる。……可愛いよ」  気がつけば──風をギュッと抱き締めていた。  そして風は抱き締められながら、一刀を上目遣いに見上げ、 「ご主人様……」と、囁くように名を呼んだ。  そんな風を愛おしそうに撫でながら、一刀の胸にに去来するのは、今日まで彼女が向けてくれた想いと、 彼女へ向ける自分の想い。  そう、此処に来てようやく──我ながら調子のいい事だと思いつつも──一刀は、 自分の心が彼女を求めている事を自覚していた。 「……風」  一刀は風を抱き締めたまま、静かに風の名を呼ぶと、 「……ご主人様」  それに答える様に、風が囁く。 「……風の心は、既にご主人様に捧げております。  だから次は……風の全てを、ご主人様のものにしていただきたいのですよ」 「…………っはは」 『風が欲しい』  そのたった一言──自分が今正に言おうとしていた言葉を先取りするかの様に風に言われ、 思わず苦笑しつつも、嬉しそうに彼女の髪の毛へ顔をうずめ、そのまま……顔を滑らすように耳元へ口を寄せ、  抱き締める力を少しだけ強くしながら、万感の想いを籠めて、想いの全てが届く様に── 「ああ……愛してるよ、風」 -------------------- 「…………んぅ〜……?」  そんな不明瞭な呻き声を上げ、小さく身じろぎしてから眼を覚ました風は、 自分が置かれている現状に、二三眼を瞬かせ、 「………………ぐぅ」 「寝なおすのかよ!」 「おぉ……ご主人様の暖かさについ誘われましてー」  何気ないやり取りに、「ああ、やっぱり風はこうじゃないとなー」などと思いつつ、 一刀は小さく笑みを浮かべる。  風が身じろぎする度にこすれる、肌が、髪が、体温が心地よい。  ──ああ、風ではないが、寝てしまいそうだ──  そしてそんな一刀へ、風はニッコリと幸せそうな笑顔を浮かべ── 「ご主人様……風も、ご主人様を愛していますよー」  風の身体を、声を、言葉を、想いを、全身で感じながら、一刀はもう少しだけ…… 幸せなまどろみへ、意識を落とすのだった──