「無じる真√N」拠点07  普段は太守の仕事を行っていて忙しい白蓮。近頃は一刀に可能な仕事は手伝って貰って いたがそれでも忙しいことには変わりなかった。そんな彼女がほんの束の間の休息を迎え たある日―――。  ―――白蓮は、城内を早足で歩いていた。 「まったく、何の用なんだ?」  首をひねりながら目的地へ向けて歩き続けている。廊下で兵士とすれ違うが、普段より 短めに挨拶をして通り過ぎていく。その様子から、白蓮がどれほど落ち着きをなくしてい るのかが伺える。  それからもそわそわしながら歩き続けた白蓮は、とある部屋の前で立ち止まった。そし て、中に居るであろう人物に声を掛ける。 「おい、来たぞ」 「あぁ、どうぞ入ってくれ」  部屋の主の声が返ってくるのを確認して扉を開く。 「邪魔するぞ」  入室しながら部屋の主を見やると、その人物は机にかじりついて仕事をこなしていると ころだった。 「あぁ、悪いな呼び出したりして」  白蓮に気付き手を止める。 「まぁ、休みが取れた時に来てくれって話だったからな別にかまわんさ」 「そっかそっか、それならよかった」  互いに笑みを浮かべる。その様子から二人の関係がどのような者であるかが解る。 「で、一体何の様なんだ……一刀」  白蓮は腰に手を当て、部屋の主……一刀へと問いかけた。 「あぁ、実はさ白蓮とお茶でもしようかなぁってね」 「はぁ、それは構わんがお前は仕事があるんだろう?」  白蓮は、ため息をつきながら、机の上に散らばる竹簡の束へと視線を向ける。その視線 に気付いた一刀は説明し始めた。 「これか?なら大丈夫だよ、もう終わるから。えぇと……あともう少しだからさ、悪いん だけど座って待っててくれないか?」 「あぁ、解った。急がなくて良いからしっかりと仕上げろよ」  一刀に気を配りながら椅子へと座る白蓮。仕事に関して、しっかりと釘を刺しておくこ とも忘れてはいない。 「あぁ、ちゃんとやるさ」  そう告げると、一刀は黙り込み仕事に集中して再び視線を書類へと向けた。 「……」  しばらくじっとしてはいたものの、手持ちぶさたになった白蓮は、机に向かいひたすら 仕事をこなしている一刀の横顔を覗き見る。 「えっと、これが……あぁ、だからこうか」  ぽつりぽつりと呟きながら考えをまとめ、次々と処理をしていく一刀。 「へぇ……」  仕事をしている一刀の表情は真剣そのもので、どこか凛々しかった。そんな横顔を白蓮 は飽きることなく見つめ続けていた―――。  ―――それから十数分後、一刀は筆を置いた。 「ふぅ、これで終わりだな。さて……ん?」  仕事が終わり、一息ついて白蓮の方を見やると、当の白蓮は 「……ふふ」  ニヤニヤとした顔で一刀を見ていた。 「どうした?白蓮」 「いやぁ、一刀でも真剣な顔をするんだなと思ってな」 「……白蓮、お前普段俺をどんな風に見てるんだよ」 「うーん、そうだな……街を遊び歩いてる女癖の悪い男?」  そう言って、可愛らしく首を傾げる。 「ず、随分酷い言いようだな……」  一刀はあまりの物言いに顔を引きつらせる。内心"誰か"の影響を軽く受けているのでは ないかと考え、冷や汗を掻く。 「まぁまぁ、冗談だって気にするな」  席を立った白蓮は、一刀を宥める。ただ、その心中では『とは言っても"半分"は、だけ どな』などと思っていたりする。 「はぁ、まぁいいや、お茶にしよう。白蓮はそこで待っててくれ」  白蓮に待つよう促し、一刀はお茶の準備を始める。 「ほぅ、自分で用意するんだな?」 「ん?まぁね、俺は自分にあったお茶が飲みたいからな」  感心したように一刀を見ながら言葉を漏らす白蓮に、準備をしている一刀は視線はその ままに返事をする。 「しかし、随分手慣れているな」 「あぁ、一応何度も入れてるからな」  そう言って一刀は、メイドの格好をした女の子二人とお茶をしている風景を思い出す。 そして、次に思い浮かべたのは、お茶の入れ方について黒髪、隻眼の女の子と競い合って いる場面だった。そこで、黒髪の女の子以外に一緒だった女の子二人の内、少し小柄な女 の子に二人して零点を喰らい、その後個人的に練習をしたのを思いだし笑みをこぼす。 「どうした?」 「いや、ちょっと昔を思い出してね」 「何か茶に関する話なのか?」 「まぁね……まだ俺がお茶の入れ方をよく知らなかった時のこと」 「へぇ、面白い話か?」 「うーん、別に他愛のない話だよ」 「ふぅん、なぁ、ちょっと聞かせてくれないか?」 「え?別に構わないけど。わりと前のことだ」  そう告げて一刀は語り始めた。自分が思い出した過去の出来事を。もちろん、出てくる 人物に関してはぼかしている。その話を聞いている白蓮は初めこそ、話の内容自体に興味 を持っていたが徐々に話に登場する女の子という単語―――"もちろん一刀がぼかすため に使用している"―――に興味を持ち始めていた。  そんな白蓮の様子に気付くことなく一刀は終わりの言葉を告げる。 「―――というわけなんだ」 「へぇ、なるほどな。そんな経緯があって入れ方を覚えたのか」 「はは、別に面白みのない話だったろ?」 「いや、私にしてみれば、お前の一面を知ることの出来る話だったと思う」  腕組みをしてしきりに頷く白蓮。 「そ、そうか?」  自分の一面を知れたと言われ、一刀はどこか照れくさくなり、視線を宙に漂わせた。そ んな風に照れている一刀に視線を向けたまま告げる白蓮の一言を耳にするまでは―――。 「あぁ、お前がいかに女癖が悪いかっていうのが、よーくわかったよ」  その言葉に驚き、漂わせていた視線を声の方へ向ける。そこには、呆れ半分、怒り半分 といった表情を貼り付けた白蓮の顔があった。その顔をあえて表現するなら、般若が呆れ た表情を浮かべているといったところだろう。つまり、それだけ不気味な表情をしている というわけだ。 「え、えぇと……白蓮さん?」  あまりの恐怖に思わずさん付けで呼び始める一刀。 「どうした?急にさん付けでよんだりして」  何気ないように白蓮が聞き返してくる、それだけの言葉で、一刀の冷や汗の量は増大し ていった。 「い、いや、あの……怒ってますよね?白蓮さん?」  ついには低姿勢になる一刀。この状況から脱するのに手段を選ぶのは止めたようだ。 「べ〜つ〜に〜、私は怒ってなんかいない」  白蓮はそう答えるが、一刀は間違いなく怒っていると確信した。 「……なぁ、どうしてそんなに怒ってるんだ?」 「べ、別に怒っていないって言ってるだろ!」  一刀が、何とか理由を探ろうと試みるが取り付く島もなく膠着状態が続いた。 「はぁ、もういい……何だか今更な気もするし……」   しばらく、片や怒りと呆れで、片や戸惑いで動けなくなっていると白蓮がどこか諦めの 混じった表情でため息をつく。 「い、今更って……」  やっぱり自分が碌な見方をされていないのではないかと思い顔が引きつる一刀だった。  それからは互いに何気ない会話を続け、そろそろお開きにしようと白蓮が告げ退室する 際、一刀は白蓮を呼び止めた。 「なぁ、ちょっといいかな?」 「ん?どうした?」 「実は、白蓮を呼んだのはお茶の為だけじゃないんだ」 「ほぅ、それじゃあ何の用で呼んだんだ?」 「あぁ、実は渡したいものがあってね」  そう告げると一刀は懐に手を忍ばせる。白蓮はそれを見ながら、自分に渡すものが何な のか分からず疑問を抱いていた。 「ほら、これ」  そう言って一刀は白蓮に包みを手渡す。 「いいのか?」 「あぁ、白蓮にはたくさん世話になったからな。いつも有り難う」 「!?」  感謝の気持ちを込めて一刀は満面の笑みを浮かべた。それを見た白蓮は自分の頬が熱く なるのを感じた。それを悟られたくなかったため慌ててしゃべり出した。 「あ、開けても良いか?」 「もちろん」 「それじゃあ、あっ!?」  包みの中には髪飾りが入っていた。白蓮には、それがおろした髪を後ろで束ねるための ものだろうということがすぐに分かった。 「ちょっと着けてみてくれないか? 「わ、わるいがそれは今度にしてくれ」  一刀の提案を白蓮は顔を赤く染めながら断った。 「わかった。約束な、今度は着けたところを見せてくれよ」 「あ、あぁ……それじゃあ」  素っ気なく別れの挨拶を交わすと白蓮は走り去ってしまった。小さくなっていく背中を 眺めながら一刀はそっとため息をついた。 「失敗……だったかな」  一刀は気付いていなかった。先程の白蓮の口元が僅かに歪んでいたことに―――。 ―――白蓮は顔を両手で覆いながら駆けていた。 『ま、まずい……一刻も早く部屋に戻らないと』  何故、彼女が慌てているのか、その理由は先程一刀の部屋から逃げるように立ち去った ことにある。  現在、彼女は自分の顔が少しでも気をぬけばにやけてしまうことを自覚していたのだ。 髪飾りを渡されたところですでに破顔しそうだったのだがこらえてここまで逃げてきたの だった。  そして現在も自室に向かいもの凄い速度で駆け抜けていた。  その後、運良く誰かに会うこともなく部屋に入った白蓮は一気に気を抜く。そして何と なく鏡を見ると、そこには阿呆のように顔をだらしなくにやけさせている少女がいた。  言わずもがな白蓮自身である。そんな抑えの効かなくなった顔を鏡で見て 『あ、危なかった……こんな顔をあいつに見られていたら』 などと思い、一人ぞっとする白蓮だった。 余談ではあるが、逃げるように立ち去られたことで一刀が白蓮と距離を取り、その後白蓮 に涙目で怒られたという彼らだけの後日談があったりもしたことをここに追記しておく。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今回出てきた髪飾りですが、表現がわかりにくかったと思います。 真・恋姫†無双のCGの中の髪を下ろした状態の白蓮がベースですのでそれを元に想像して 下さい。で、下ろした髪の毛を先端の方で束ねるのに使う髪留めと思って下さい。 わかりにくくて本当にすみません。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  「無じる真√N」拠点08 「ふむ、聞いていたのとは随分異なるのだな……」  槍を肩に担いだ一人の女性が呟く。彼女はとある人物に頼まれこの地を訪れていた。 「やはり、あの方はこの事を知っていたのだろうか?」  彼女は思い描く、自分に頼み事をした一人の人物、"天の御使い"のことを。  かつて彼女は幽州啄群の太守"公孫賛"の元で客将をしていた。そんな彼女が己の役割を 終え、旅出つ際に"天の御使い"により託された頼みが"長安"そして、この"洛陽"の様子を 伺うことだった。  この"洛陽"と"長安"は朝廷にて起こった権力争いの流れの中でとある暴君によって治め られることになり、その暴君により酷い圧政を強いられているという噂が流れていた。  彼女自身、その噂を耳にしていたが疑い半分だった。そして実際に長安、そしてこの洛 陽に訪れてみればそんな様子は微塵も見受けられなかったのである。 「中々、活気はあるようだな」  露店の居並ぶを通りを歩きながら人々の観察をする。露店の商人も、並ぶ商品を見てい る客も全員とは言わないが、割と笑顔が見受けられる。この程度なら他の国と対して差は ない、それどころかなにやら特殊な楽団―――何とか姉妹の歌を中心とした―――の公演 が行われるらしく現在は活気に溢れていた。そんな風に、可もなく不可もなく評価を下し ながら歩いていたそのとき、 「きゃああああ!」  若い女性の悲鳴が辺りに響き渡った。 「何事だ!?」  彼女もその悲鳴の元へと駆けていく。その先には人だかりが出来ていた。彼女は、その 中の一人に事情を尋ねた。 「失礼、一体何があったのだ?」 「へぇ、どうやら連行中だった罪人が仲間に助け出されて逃げて来たようなんです」 「……なるほど。それで?」 「それで、あそこの店の娘が人質に取られているようです」 「何と!?、随分と性根の腐った者のようだな」  そう呟くと彼女は礼を言って人混みの先へと進む。何とか見えるところまで進み出たと ころでようやく、詳しい様子が伺えた。 「来るんじゃねぇ!!」  どうやら、罪人と思われる男が威嚇しているようだ。その男の手元には短剣と少女が納 められていた。そして、その男の側には仲間らしき男たちがいた。 「おらぁ、おめぇら早く馬もってこい!」 「ア、アニキが怒り狂う前に早くするんだな」  そんな男たちを囲むように数人の兵が居るが、人質が居るためか一歩も動けずにいるよ うだった。 「ふむ、このままではいかんな」  しばし考えた後、彼女は人垣を抜け、裏路地へとその姿を潜り込ませた。 「よし、ここからならば」  すっかり人気がないことを確認して彼女は屋根へと登ろうとするが、すぐに止めた。何 故ならば、気配を感じたからだ。 「あらあら、だめよぉ、そのままじゃあ。素顔のまま出たりしたら、間違いなく、ややこ しい事態になっちゃうわ」  気配の元を視界へ入れるとそこには、頭からすっぽりと布に覆われている大柄な人物が いつの間にか立っていた。 「しかし、黙って見過ごすことなぞできぬ」 「えぇ、わかってるわん。だ、か、ら」  謎の人物は、人差し指を左右に振りながら口元を綻ばしたのが顔を覆う布から覗き見え た。そして懐から何かを含んだ巾着を取り出し、彼女の方へ差し出す。 「これをあげるわん」  その巾着を受け取り、彼女は中身を取り出した。 「っ!!」  その中身を見て彼女は息を呑んだ。彼女が手にしたのは一つの仮面だった。蝶を思わせ る文様をした外見。何と表現すれば良いか解らない程の質感。彼女はそんな仮面をまじま じと見つめる。 「おぉ、これは見事な……まさに職人の魂のこもった一品に違いない!」  彼女の瞳は巾着から出した瞬間から仮面に釘付けとなっていた。 「……この仮面が私を惹きつける。この誘い、抗うことなど出来ぬ!!」  さらに、彼女は仮面を近づけていく。 「おぉぉぉ!!なんだこの感覚は!?血が、血が滾る!!」  仮面を顔に近づけていくにつれ、彼女の鼓動が速くなる。また、まるで久しくあってい なかった親友と再開したかのように気分が高揚し始めていた。そして、仮面を着けた瞬間 「でゅわっ!!」  謎の掛け声を発し、彼女は地面を蹴り、屋根へと飛び乗っていた。その姿を瞳で追いな がら謎の人物が問いかける。 「あらん、気に入ったみたいね」 「あぁ、かたじけない!!」  謎の人物にそう告げて、彼女は駆けていく。それを見送りながら謎の人物は呟く。 「うふふ、また会いましょう。一号……さて、早くあの娘たちのところへ戻らないといけ ないわね」  そのまま謎の人物は路地裏の屋根へと消えていった―――。  ―――先程から店前での、罪人と人質、兵たちも含め状況が変わっていなかった。それ を固唾を呑んで見守る民衆。そこに力強い声が響く。 「あいや、待たれぇい!!」  その声に、罪人と仲間、人質、民衆、そして兵までもが注目する。そこには、一人の女 性と思われる人物が立っていた。女性と断定出来ていないのには訳があった。その人物は 仮面をつけていたのだ。 「な、何だてめぇは!!」 「ふっ、お言葉に甘えて名乗らせて頂こう!!」  そして、仮面の人物は仁王立ちを止め構えを取る。 「可憐な花に誘われて、美々しき蝶が今、舞い降りる! 我が名は華蝶仮面! 混乱の都に美 と愛をもたらす、正義の化身なり!」  どこからか『バァーン』という効果音(?)が鳴り響く。 「……」  その場にいた人々の時が止まった。罪人とその仲間までも―――。 「隙あり!!」  罪人が呆気にとられている隙を突き、何かを罪人の手へと当てる。 「痛ぇ!!」  思わず手を人質の少女から離す罪人、自分にぶつかり、今は地面に転がっている物体に 視線を向ける。そこには、 「杯……?」  杯が一つ転がっていた。罪人の視線がそちらへ注がれて出来た隙を仮面の人物は見逃さ なかった。 「!!」  屋根より飛び降りた仮面の人物は呆気にとられていた少女を引き寄せ、そのまま罪人か ら距離を取る。 「し、しまった!」 救い出した人質の少女を仮面の人物は兵の方へと走るよう促す。 「さぁ、今の内に逃げるのだ」 「あ、ありがとうお姉さん」 「ふっ、気にするでない。それと、私のことは"華蝶仮面"と呼んで頂こう」 「え、えぇと……ありがとう、華蝶仮面」 「うむ、では!」  少女を兵の元へと逃がした華蝶仮面は、罪人たちの方へ向き直り、と駆けていく。そし て未だに呆けている兵士たちへと檄を飛ばす。 「何をしている。貴公らは民衆を守らぬか!」 「は、はいぃぃ」  華蝶仮面のあまりにも堂々とした物言いについ従い、民衆の護りにつく兵たち。そんな 兵たちとは逆に華蝶仮面は更に罪人の方へと進む。 「て、てめぇ、なんなんだぁ!!」 「だから行っておるだろう、我が名は華蝶仮面」 「華蝶だかお蝶だか知らねぇが……こうなりゃてめぇを人質にしてやるぜ!!」  叫びながら罪人が襲いかかろうと進んでくる。だが、華蝶仮面は勢いを変えずに突っ込む。 「ア、アニキ、俺もやるぜぇ!!」 「こうなりゃ、やけなんだな」  仲間の二人も襲いかかろうと動き出す。それでも華蝶仮面の前進は揺るがない。 「ち、ちくしょう!」  華蝶仮面との距離が射程範囲に入ったのを確認し、叫びながら罪人が短剣を突き出して くる。しかし、華蝶仮面は動じない。ただ、冷静にその切っ先をぎりぎりのところで避け る。逆に男の首を自慢の槍の刃の腹の部分で殴打する。 「ぐ、ぐぇ……」  その一撃で罪人は倒れる。その姿に残りの仲間たちが動揺する。 「や、やべぇアニキがやられた」 「ど、どうするんだな」  男たちは華蝶仮面へと向かって進むのを止め、後ずさり始める。 「ふっ、逃がすはずなかろう!!」  いつの間にか背後へ回り込んだ華蝶仮面の攻撃により仲間たちもその場に昏倒した。そ して華蝶仮面は、罪人たちを捕獲させるため兵たちを中へ呼び込み罪人たちを縛り上げさ せた。  その間に華蝶仮面は店の外へと出て行く。店から出てきた、その姿を眼にした民衆たち は、歓声を上げた。 「うぉぉおおおおお」 「む?」  その声に、華蝶仮面は訝る。すると、 「華蝶仮面万歳!! 正義の味方万歳!!」  民衆は華蝶仮面へ声援を送り始めた。その声を心地よく感じ、しばらく華蝶仮面は声援 に浸ってた。すると、そこへ、 「これは、何事だ!?」  一人の女性が短めの銀髪を揺らしながら店の前へと駆けてきた。その手には斧が握られ ていた。その風体から、この女性がおそらくはこの洛陽の将、低く見ても部隊の隊長なの だということが感じられた。その銀髪の女性は、華蝶仮面を視野へ納めると睨み付ける。 「なんだ貴様は?見かけん顔だが……貴様か?あいつら相手に暴れたというのは?」 「ふっ、いかにも。この華蝶仮面が成敗致した」 「……取り敢えず、その仮面をはずせ!」 「そうはいかぬ、この美しい仮面が欲しいのは解るが、譲るわけには行かぬのでな!」  華蝶仮面がその言葉を告げると同時に、両者とも身構える。そして、 「はぁあ」  銀髪の女性が華蝶仮面へ向かって、斧を横降りする。彼女は間違いなく相手を捉えたと 確信していた。しかし、 「ふ、甘いな」  華蝶仮面は、斧に当たっていなかった。ひらりと軽快に飛び上がり、斧の刃の上に立っ ていた。 「な、何!!」  驚愕する銀髪の女性。その一瞬を見逃さず、華蝶仮面は更に飛び上がった。そして、華 蝶仮面は屋根へと着地した。銀髪の女性は、それが何を意味するかを把握し慌てて叫ぶ。 「な、待てぇい!」 「ふ、そうもいかぬ。さらばだ!!」 「ちぃ!、しまった!!」 「はーっはっはっはっはっは!!」  高らかに笑い声をあげながら華蝶仮面は屋根の上を駆けていく。銀髪の女性も追いかけ ようとしたが兵にその場の処理をして欲しいといわれ、仕方が無く、他の兵たちを追わせ ることにした。 「お前たち、あの変態仮面を追ってくれ」 「はっ!!了解致しました」  そして、兵たちが追いかけようとした瞬間、辺りに声が響き渡る。 「私は、変態仮面ではない! 華蝶仮面だ!」 「ど、どこだ!?」  兵たちは姿が見えず、声だけが聞こえてくるため戸惑いながら周囲を見渡す。しかし、 その姿を見つけることは出来なかった。 「さて、今度こそさらばだ!」  そして、声すらも消えていった―――ー。  ―――結局、銀髪の女性は、華蝶仮面の足取りを掴むことはできなかった。 「いったい何者だったのだ……」  街を歩いている銀髪の女性は、ぼやきながら空を見上げた。 「―――華蝶仮面」  その姿を思い出し、ぐっと拳を握りしめた。 「ふっ……」  その時、銀髪の女性とすれ違った青い髪の女性が、口の端を僅かにつり上げた。だが、 空を見上げていた銀髪の女性がそれに気付くことはなかった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――  尚、この出来事は、著者不明の"仮面英雄伝"において、華蝶の章内の華蝶降臨!!にて記 されているとかいないとか……。  また、この物語は、近日ハ●ウッドにて「The Legend of Mask's Hero 〜The Episode of Kachou〜」としてリメイク映画化!!……が予定されているとかいないとか。 (注意:この項目はフィクションです) 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