目が覚めた時、一刀は森の中で一人倒れていた。 周囲を見渡してみると、懐かしい寮があるのに気がついた。 寮というにはお粗末なプレハブ小屋だが、自分が住んでいた物だと一目でわかった。 「戻されちゃったか…。」 一刀は、華琳の望みを叶えることでその役目を果たし、あの外史から除外されたのだった。 あそこに残してきた女の子達には、本当に申し訳ないことをしてしまった。 華琳以外には、別れの言葉すら言えていないし、霞との約束にいたっては反故にしてしまったのだから。 それに、華琳から自分が元の世界に帰ったと聞かされ悲しむだろう彼女達のことを思うと心が痛んだ。 戻れるものなら、今すぐにでも戻りたいが方法がわからないければどうしようもない。 「そうだ!もしかしたら。」 あの世界へ行く直前まで自室にいたはず、ならそこになにか手掛りがあるかもしれない。 わずかな望みをかけて一刀は自分の部屋に向かって走った。 一刀が、自室だった部屋に駆け込むと、そこには何もなかった。 家具一式からくずかごに至るまでなに一つ残っていない空っぽの部屋だった。 「………そんな。」 これで、華琳達のいる世界へ行く手掛りは失われてしまっていた。 その状況を受け入れられず立ち尽くしていた一刀を突然、激しい頭痛が襲った。 「ぐ…ぅぅ……。」 あまりに激しい頭痛で立っていることも、声を出すこともはできなくなった一刀は頭を抱えてうずくまり、ただ痛みに耐えるしかなかった。 一刀にとって永遠のような時間が過ぎ、ようやく痛みは引いたがまだ頭はぼんやりとしていた。 一刀は起き上がると、自分が失踪した後どうなったのかを知るために学校へ行くことにした。 学校へつづく道に一刀が出ると、女の子の泣く声が聞こえてきた。 その声のする方へ目を向けるとそこには十人余りの人が集まっていた。 一刀の目では、それが誰なのかはっきりとはわからなかったが、泣いている女の子のことが気にかかり一刀はその集団に近づいていった。 近づくにつれ自然と一刀の足は速まっていく。 そしてその集団にいるのが誰なのかそれがわかると一刀は叫んだ。 「おーい!みんなー!」 そこにいたのは、紛れもなく魏の将である女の子達だった。 声が聞こえた女の子達がこちらを向くと、皆驚愕の表情を浮かべて固まってしまった。 そんな中、凪だけがこちらに向かって走ってくる。 「たいちょー!」 凪の声は少しかすれていて、目からはボロボロと涙を流している。 一刀は、凪が自分との別れをそこまで悲しんでくれたことが嬉しかった。 一刀は凪を抱きとめようとしたが、まったく速度を減じることなく飛びついてきた凪の勢いを殺しきれず後ろに倒れてその拍子に、一刀は後頭部を石畳に強かにぶつけて気を失ってしまった。 一刀に抱きついて泣いている凪を見ている華琳に、霞が尋ねた。 「なぁ華琳、一刀は天の国に帰ったんとちゃうんか?」 「天に帰ったかどうかは別としても、あの時、私の目の前から一刀は消えた。それは確かよ。」 「華琳の元離れてどっかいったちゅーわけやないんやな?」 「霞、あなたも自分の間合いにいる人間を気配で容易に感じ取れるでしょう。それに、私がそんな簡単に私のものを手放すと思う?」 「…それもそうやな。ほな、うちもいくわ。」 そう言うと霞は、一刀の方へ早足で向かっていった。 入れ替わるようにして秋蘭が話しかけてくる。 「華琳様、行かなくてよろしいのですか?」 「ええ。今はあの子達に貸してあげるわ。」 「そうですか。」 「まったく、あの孕ませ無責任男はいなくなったと思った次の瞬間には戻ってきて、堪え性がないったらありゃしない!」 「いいではないか桂花。華琳様が嬉しそうにしているのだから。」 魏の将たちは、華琳・春蘭・秋蘭・桂花以外はみな一刀のもとで騒いでいる。 今しがた華琳から一刀が天に帰ったと伝えられ落ち込んでいたというのに、現金なことだった。 むこうでは抱きついたままの凪を引き剥がそうとする天和と地和以外は、一刀を囲むと何か話し合っている。 その輪から季衣が抜けるとこっちに駆けてくる。 季衣が抜けた所に、霞が加わり二、三言葉を交わしただけで笑いだした。 何がそんなにおかしいのだろうか…、気になる。 ようやく凪を引き剥がした天和と地和は、今度はどちらが先に抱き締めるかで争いだした。 引き剥がされた凪にの方はだいぶ落ち着いたようで、沙和と真桜の問いかけにコクコクとうなずいている。 そろそろ行こうかしら、と華琳が思い始めた頃に季衣が戻って来た。 「華琳様。」 「どうしたの?季衣。」 「兄ちゃん頭打って気絶ちゃったみたいです。」 「はぁ。」 そう言われてみれば、凪に飛びつかれてから一刀は全く動いていない。 さっき霞が笑ったのは、それを聞いたからだろう。 「それで、兄ちゃんが起きるまでそっとしておこおって。」 「そう。わかったわ。」 華琳は少し呆れながらそう答えた、その時。 「誰だそこにいるのは!」 突然、春蘭の声があたりに響いた。 皆の目が集まった時には、春蘭は森の一点を見据え刀を構えていた。 一刀の周りにいる将達にも緊張が走る。 「その声は夏侯惇か?」 「曹操お姉ちゃんも一緒なのだ。」 森の中から姿を現したのは、愛紗と鈴々だった。 その後、森の中から桃香をはじめとする蜀の将達がぞくぞくと出てきた。 その様子を見ていた風・稟それと流々は、華琳の方に戻ってきた。 「桃香、あなた達ここで何をしているの?」 「それなんだけど…、朱里ちゃんお願いできる?」 「はい。」 自分ではうまく説明できないと判断した桃香は、朱里に任せた。 「私達が今朝、目を覚ますとこの森の中に眠らされていました。私達が目を覚ましたときにはすでに周辺に人影は無く、私達を運んだような痕跡もありませんでした。 また、数名行方のわからない人がいたのでその捜索している最中、女の人が泣く声が聞こえたのでそちらに向かったところ曹操さん達に遭遇したわけです。」 「あなた達も私達と同じみたいね。…ところで、あなた達はここがどこなのかわからない?」 蜀も、魏とさほど変わらない状況だったが、魏は天に帰ったはずの一刀が戻って欠員がいないだけ蜀よりもましだった。 「申し訳ありません。曹操さん達もここがどこなのかわからなかったんですか?」 「ええ、残念ながら。」 「そうですか。」 「…あなた達、行方がわからない者がいると言っていたけれど誰がいないのかしら?」 その問いには雛里が答えた。 「ええと、袁紹さん、顔良さん、文醜さん、美以ちゃん、ミケちゃん、トラちゃん、シャムちゃんそれとご主人様です。」 「ご主人様?」 「そうだ、曹操殿。ご主人様を見なかっただろうか?」 愛紗が一歩前に出て華琳に聞いてくる。 袁紹達や、恐らく南蛮の将であろう名前はともかくとして、ご主人様? 蜀の陣営に、そのように呼ばれる者がいただろうか? 「ご主人様とは一体誰のことかしら?」 いくら考えてもそれらしい人物が思い浮かばなかった華琳は、率直に尋ねた。 「曹操殿も何度か会っているはず。我々のご主人様は天の御使いである本郷一刀様だ。」 それを聞いた瞬間、華琳・秋蘭・軍師の三人は、即座に考えを巡らせる。 一刀は黄巾の乱以前に華琳に拾われてからずっとその庇護下にあった。 黄巾の乱以後は警備隊長として働き始め、まとまった休みなどはありはしなかった。 休みがあっても、大抵誰かと一緒にいて蜀の将との接点などなかったはず。 それがなぜご主人様と呼ばれているのか? 桃香達を不審に思った華琳達が一刀のことは伏せておこうとしたが 「なんだ、本郷を探してたのか?それならあっちで倒れてるぞ。」 春蘭が一刀の居所を教えてしまった。 それを聞いた蜀の数人が一刀の方へ駆けていく。 「…姉者。」 「な、なんだ秋蘭。言ってはまずかったのか?」 そんな春蘭の様子を見て軍師達はため息をついた。 「構わないわ、春蘭。それより、私達も行きましょうか。」 華琳は桃香達を引き連れて一刀のもとへ向かうとそこでは、お互いに衝撃的な事が起こっていた。 「なんや?関羽に張飛、それに黄忠もこっちくんで。」 「こっちになにかありましたっけ?姐さん。」 「さぁ。うちにきかれてもなぁ。」 霞と真桜が話していると、愛紗と鈴々が声を上がった。 「ご主人様!」「お兄ちゃん!」 「ごしゅじんさま?」「おにいちゃん?」 ここに関羽達にそんな風に呼ばれる者はいない、ということは後ろに誰かいるのか? そう思って後ろを確認した霞達であったが、そこには誰もいない。 となると、考えられるのは……。 視線は自然と一刀に集まった。 その時、また声が上がった。 「お父さーん!」 その言葉に驚いて霞達が顔を上げるとそこには紫苑の手を引っ張る璃々の姿があった。 「まさか……。」「………。」 絶句する霞と人和。 「………。」 頬を膨らませて、天和は不快感を表していた。 「隊長にあない大きな子どもがおったとは。」 「い、いくら隊長でもあんな大きなお子さんがいるわけが…」 「でも、隊長ならいてもおかしくないと思うのー。」 違ってほしいと思う凪に、沙和は本当に一刀の子どもおかしくないと言う。 「あんな、年増のどこがいいのよ。なに、胸?そんなに大きな胸がいいっていうの?」 地和は紫苑を見ながら苛立たしげにそうつぶやくと、一刀の胸倉を掴んで叫ぶ。 「ちょっと、いつまで寝てるつもり!さっさと起きなさいよ!」 そう言って一刀を揺さぶるが起きない。 「ご主人様になにをする!」 「お兄ちゃんを放すのだ!」 一刀の服を掴んで叫ぶ地和は、愛紗と鈴々には一刀を襲っているように映った。 「うるさいわよあんた達!わたしは一刀に聞きたいことがあるの。邪魔しないで!」 「貴様、なぜご主人様を名前で呼ぶ!」 「一刀をどう呼ぼうとわたしの勝手でしょ!それとも、一刀の名前を呼ぶのにあんたの許しが必要だとでもいうの?」 蜀の猛将二人を前にしても地和は一切引かない、それどころかその剣幕に鈴々がたじろぐほどだった。 「それに、なんなのよあんた達。わたしの一刀をご主人様なんて呼んで。」 「わたしの一刀だと…。どういうことだ!」 地和の言葉に動揺しているのが表情からわかった。 「言葉通りの意味よ。なに、あんた一刀に惚れてるの?」 「なっ…。」 その時の表情で確信した地和は意地の悪い顔をした。 「ふーん。そうなんだ。」 そう言って一刀を放すと、見せ付けるように一刀の頭を抱きしめる。 「貴様、ご主人様から離れろ!」 「嫌よ。ちぃと一刀は愛し合ってるの、誰があんたなんかに一刀を渡すもんですか。」 優越感からかいつもの調子に戻った地和は、愛紗を挑発する。 地和と愛紗が睨み合っていると、意外なところから邪魔がはいった。 「一刀はわたしのー。」 そう言いながら天和が一刀を奪おうとその背中を引っ張る。 「ちょ、ちょっと天和姉さん邪魔しないで。」 争う二人を見て好機と思ったのか、愛紗が一刀を取り返すために一刀の腕を掴むと引っ張りだした。 その様子をついていけない鈴々と、二人の姉をどう止めるか考える人和が眺めていた。 紫苑と璃々が一刀のもとに来たのは地和と愛紗が言い争いを始めた頃だった。 「なぁなぁお嬢ちゃん、ちぃと聞きたいことがあるんやけど。」 一刀に近づこうにも近づけない、璃々と紫苑に真桜が話しかけた。 その後ろには凪、沙和、霞がついて来ている。 「なに、おねえちゃん?」 「さっきお嬢ちゃんお父さんゆうてたやろ?それが誰のなんかお姉ちゃん達に教えてくれへんかな?」 「璃々のお父さん?」 「そうそう」 紫苑に警戒されないように優しく聞く真桜だったが、返ってきた答えはよくわからないものだった。 「璃々のお父さんは、ごしゅじんさまなの。」 「…お嬢ちゃん、そのご主人様ってあの人のこと?」 一刀を指差しながら真桜が聞くと、璃々はウンとうなずいて 「それで、こっちがお母さん。」 と、璃々は紫苑に抱きつきながら言った。 璃々のその言葉に真桜は言葉を失った。 「黄忠、その子はホンマに一刀とあんたの子どもか?」 霞が紫苑に尋ねると、 「ええ。ご主人様も璃々のことを認知してくださいましたわ。」 それを聞いた霞も言葉を失う。 凪にいたっては卒倒してしまい、沙和に支えられながら“隊長に子ども、隊長に子ども”と、うわ言を言っている。 凪を支えている沙和は 「私達に甘い言葉を囁いておいて、裏でこんな子どもをつくってたなんて。この裏切りの代償は高くつくのー。」 なんて言っている。 一刀のもとまで来た華琳は、その状況を見るとまず天和と地和をと止めた。 「天和、地和やめなさい。」 華琳に言われた二人はようやく一刀を引っ張るのをやめると、その隙に愛紗が一刀を引き寄せて抱きしめる。 それを見た桃香たちは愛紗ちゃんずるい等言いながら一刀の方へ移動して行った。 「これはどうゆうことかしら、霞?」 華琳は、この場で一番立場が上の霞を問い詰める。 「どうも、こうも一刀に子どもがおってん、そんでみんな気が動転しとったんや。」 そう言って視線で璃々を示す。 「一刀に子ども…?」 たしかにそこには、紫苑に連れられた年端もゆかぬ子どもがいた。 それを確認すると、華琳は不機嫌そうに顔を歪める。 「いやー、まさかあんな大きな子どもがいるとは、流石お兄さんというべきでしょうか。」 「隣には寝ている子どもがいるのに、一刀殿はその獣欲を抑えることなくわたしに…………、ぶはっ!」 「はいはい、トントンしましょうね。トントン。」 「あの万年発情男、私達にあんなことしておいてまだ足りてなかったっていうの!」 その声が聞こえた蜀の将達がみな桂花の方を向く。 「えっ!まさかご主人様、曹操さん達にも…。」 その時、森から華琳に向けて矢が放たれた。 「華琳様!」 それに気づいた春蘭が矢を打ち落としたが、同時に三つの影が森から出てきたいた。 「曹操、覚悟!」 蓮華が叫びながら華琳に斬りかかるが、それを季衣に弾かれるとすぐに後ろに下がるとそのまま対峙した。 残りの二つの影が一刀に向かって走って来るのを星と鈴々が止める。 「おっと、ここは通しませんぞ。」 「通さないのだ。」 「ちぃ、行くぞ明命。」 「はい!」 思春と明命は、そう言うと二人に斬りかかった。 蓮華とは異なり二人はしつこく攻めてくるが、一刀を狙っているのがわかると翠や恋が加勢に入りいっきに分が悪くなると下がっていった。 「蓮華さん、なんでこんなことするんですか。私達争う事なんてもうないんですよ。」 桃香が、蓮華に語りかけるが 「桃香、曹操に手を貸すとは見損なったぞ。一刀を人質にとるなど、卑怯だとは思わないのか。」 「一刀はもともと私のものよ。どう扱おうとあなたには関係ないわ。」 「なにぃ。」 「それより孫権、これはなんのつもりかしら?」 「決まっている、貴様の首を獲り雪蓮姉さまの仇を…。」 蓮華の言葉を遮るように森から声が聞こえた。 「ちょっと蓮華、私まだ生きてるんだからそんな死んだみたいに言わなでよ。」 呉の将達を連れて雪蓮が森から姿を現すと、その中に祭がいることに華琳達は驚いた。 「黄蓋…、生きていたのか。」 赤壁で彼女に必殺の一撃を打ち込んだ秋蘭は我が目を疑った。 祭の方はなにをそんなに驚いているのか不思議そうに 「異なことを、生きておらねばこうして貴様等の前にはおらんじゃろう。」 と、言うと不敵に笑う。 華琳は祭が生きていることに驚いたがすぐに冷静さそ取り戻し、蓮華に向きなおった。 「孫権、引く気はないのかしら?」 「当然だ。ここで貴様の首をいただく。」 「孫策、あなたはどうなの?」 「…王の座はこの子に譲っちゃたからね。今の私は一人の将として王の命に従うだけ。」 「そう、ならこの曹孟徳に逆らったらどうなるかその体に刻み付けてあげるわ。」 双方武器を構え、いつ火蓋が切って落とされてもおかしくなかった。 蜀の将達はその様子を固唾を飲んで見守っているが、背後から突然声を掛けられた。 「どうしたの怖い顔なんかしちゃって、折角のかわいい顔がだいなしよん。」 その声のした方を向くとそこには、ピンクのビキニパンツ一枚しか身に着けていない筋骨たくましい巨漢がいた。 三国の将のほとんどはその姿に戦いた。 「なんなのよ、あの化け物は。」 「キェェェェー!」 「ひぃ。」 「か弱い漢女をつかまえて化け物呼ばわりなんてヒドイじゃない。」 「あなたのどこをどう見ればか弱いなんて言葉がでてくるのよ。というか、誰よあなた?」 「わたし?わたしは貂蝉、歌と踊りを生業にするしがない踊り子よん。そして、ご主人様の肉奴隷希望者。」 それを聞いた者達は、まさか一刀はこんなのにも手を出したのでは、と一瞬思ってしまった。 「とりあえず、みんな武器を下げてくれないかしらん。そんな怖いもの向けられたんじゃ話したいことも話せないわ。」 貂蝉の申し出を蓮華が断る。 「貴様には話すことがあっても、私には貴様に話すことなどない。それに私達が大人しく貴様の話を聞くと思うか。」 「あら〜ん、ご主人様のこともっと知りたくない?それに、ここのことも。」 その言葉に華琳が反応した。 「あなた、ここがどこだか知っているの?」 「ええ。だから、武器を引いてちょうだい。」 貂蝉は再度武器を下げるよう言うと、華琳は少し考えて決断した。 「…春蘭、剣を引きなさい。皆もいいわね。」 「「華琳様!」」 「平気よ。今私達に手を出せば魏・蜀の二国を相手にすることになる。いくら、呉でもそんなことはしないでしょう。」 春蘭には華琳の言葉が信じられなかった。 「華琳様、蜀が我々に手を貸すとは…。」 「呉も一刀が欲しい。なら、私達の後は蜀にも剣を向けるはずよ。それに、桃香なら争いを止めるために攻撃を受けた側につくわ。」 先ほどの奇襲のこともあり容易に考えられる。 「しかし…。」 それでも華琳が心配な春蘭は食い下がるが、 「春蘭、あなたでも呉の将を止ることができないのかしら?」 「いいえ華琳様、呉の将など私一人ですべて止めてみせます。」 「なら問題ないでしょう。」 あっさり丸め込まれてしいまった。 「これでいいかしら。」 「んふ、ありがとう。でも…。」 魏は剣を引いたが、呉はまだ剣を引こうとしない。 呉の王たる蓮華は、その性格が災いして引くことができなかった。 蓮華の性格を理解している冥琳と雪蓮が助け舟を出す。 「蓮華様ここはいったん引きましょう。あの貂蝉という者、ここの謎をなにか知っているようです。なら話を聞くのも良いかと。」 「それに、曹操の首ならその後でも獲れるわ。」 「………わかりました。…皆、剣を引いて。」 信頼する二人の言葉にようやく蓮華は命令を出した。 「さあ、話してもらいましょうか貂蝉。」 「そうね、でもその前にご主人様に起きてもらいましょうか。」 そう言うと貂蝉は、一人の男の名前を呼んだ。 「げんきになれぇぇぇぇ!」 その掛け声と共に一刀に針が刺されると、間も無く一刀は目を覚ました。 すると女の子達から歓声が上がり、皆安堵の表情を浮かべた。 一刀は三国の女の子達に囲まれている状況に困惑した。 「………えーと。これは…、どういうこと?」 「それを今から話すのよ、ご主人様。」 「貂蝉!」 それから貂蝉は皆に正史と外史の話をするが、ほとんどの者がチンプンカンプンで華琳ですら理解しきれていなかった。 「いいかしら貂蝉。」 「どうしたの曹操ちゃん?」 「あなたの言うことが真実だったとして、今の状況とどう関係しているのかしら?」 「それはね、今教えた外史というのは同時に複数存在するの。貴方達のいた外史に入り込んだご主人様を異なる勢力が拾うことで、その外史は枝分かれしていった。そして、その枝分かれしていった外史の中でご主人様と心をかよわせた女の子達が、今ここにいる貴方達なのよ。」 つまり、ここにいるのはすべて一刀とそういう仲であるということだ。 「隊長…、いくらなんでもこれはヤリすぎやろ。」 「女とみれば見境なしに手を出すなんて、本当にただの種馬じゃない。」 「ふむ、どうやら私は主を見誤っていたようだ。まさか、これほどのものだったとわ。」 「はっはっは、お館様はその点だけは真に英雄の器じゃな。」 「はー、これじゃ冥琳も思春も落ちるわけだわ。」 みなの反応はそれぞれだったが、一刀なら仕方ないかという雰囲気が辺りに漂っていた。 そんな雰囲気を無視して一刀が質問する。 「ちょっと待ってくれ貂蝉。」 「なぁにご主人様?」 「今の話でもここに皆がいることは説明がついてないぞ。」 異なる外史でそれぞれ一刀と過ごしたはずの彼女達がなぜこの場に集まっているのか、それがわからなかった。 「私もよくわかっていないんだけど。」 貂蝉はそう前置きをすると言葉を続けた。 「それぞれの外史にいたご主人様が同時期に同じようなことを考えた。本来ならそこでいくつかの外史ができるはずなのに、その時できたのは今いるこの外史だけだったの。そして、ご主人様と外史に行くはずだった女の子達はこの外史に集まったみたいなのよ。」 「じゃあ、なんで死んだはずの人もここにいるんだ?それに、俺は一人しかいないのも?」 そう言う一刀の視線の先には雪蓮と冥琳そして祭がいた。 「前者の方だけど、それはご主人様が強く望んだからよん。」 「俺が?」 雪蓮達の復活の原因が自身にあることに少し驚いた。 「そう。さっきも言ったけど、この外史はご主人様が起点としてできたの。だから、ご主人様が望めば死んだ人でも存在することができるの。」 それを聞いた雪蓮が、 「なに一刀、私としたのがそんなに良かったの?言ってくれれば拒んだりしなかったのに。」 なんて言うから、愛紗や華琳に睨まれるはめになった。 「ご主人様が一人なのは、存在が重複すると色々と不都合があるから一人に集約されたんだと思うわ。ご主人様、ここに来てからなにか異変はなかったかしら?」 「…あったのは頭痛くらいかな?あの時は頭が割れるかと思ったよ。その後は気を失っちゃたから。」 凪はそれを聞くとシュンとしてしまった。 「きっとそれだわ。なら、今のご主人様は魏・呉・蜀どこのご主人様でもあるはずよ。」 確かに、目覚めた後の一刀には女の子達との鮮明な記憶があり、それが偽りのものではないと心で感じていた。 「ここにいるのは俺と仲の良かった子達なのはわかったけど、なんで貂蝉に卑弥呼それに華佗がいるんだ?」 話を聞いてる最中も、貂蝉の後ろにいるのが気になっていた。 「私はご主人様と会うために追いかけて来たのよん。卑弥呼は私が誘ったんだけど…」 「ダーリンは儂が説得して来てもらったんじゃ。」 「ああ、ここには俺の五斗米道とは違う体系の医術があると聞いて興味が湧いてな、ついて来たんだ。」 一刀は、この三人は自分がこの世界に連れ込んだわけではないとわかると、すこし安心した。 「もう話は終わりかしら、貂蝉?」 「ええ。もう私が話すことはないわ。」 それを聞いて華琳は蓮華に尋ねた 「どうする孫権。まだ私達と戦いたい?」 「……。」 蓮華は、自分の理解を超えた話を聞かされた事で考えがまとまらず答えがだせずにいた。 「いいんじゃない。別に戦わなくても。」 「雪蓮姉様。」 「私はこうやって生きているし、この曹操は私達と戦っていたのと違うみたいだし。」 「蓮華、俺からもお願いするよ。戦うのはやめてくれないかな?」 「一刀まで…。……わかったわ。もう曹操達に剣は向けないわ。」 一刀にお願いされては蓮華は従うしかなかった。 「ありがとう、蓮華。」 蓮華が戦わない意思を表すと、桃香が手を上げながらおずおずと訊いてきた。 「あのー。結局ここはどこなんですか?」 「ああ、それならご主人様が知ってわ。」 その言葉に皆の視線が一刀に集まる。 「ご主人様、ここはどこなのか知ってるんですか?」 「一刀、早く教えなさい。」 皆、一刀に早く答えろと急かした。 「ここは、俺が通ってた学校…、聖フランチェスカ学園だ。」 それで理解した子達は驚嘆していたが、 「どういうことだ、本郷?」 「ご主人様、あたしにもわかるように言ってくれよ。」 できない子もいた。 春蘭や翠のような子のために、一刀はわかりやすいように言い換える。 「ここは、皆の言う天の国だよ。」 ようやく全員が理解してくれたが、一刀には一つの不安が浮かび上がった。 「なぁ皆、この後はどうするるの?」 「決まってるじゃない。私達がここで頼れるのは一刀、貴方しかいないのだから貴方がなんとかしなさい。」 「ごめんねご主人様、私達もお願いしていいかな?」 「ごめんなさい一刀。でも、協力はするから。」 ここにいる全員が一刀に任せると返してきてので一刀は焦った。 一人二人ならまだしも、いきなり四十人余りを面倒見るなんて一刀には不可能だった。 「ご主人様、ここで皆と暮らすだけだったら大丈夫よ。」 その言葉で一刀に光明が差した。 「なにか良い手があるのか?貂蝉。」 「ええ、そのために卑弥呼にも動いてもらったから。」 「ふむ、貴様の通っていたというフランチェスカ学園にここに来た者達を学園の関係者として受け入れてくれるよう話は通してある。それと、この近くにある新しい寮の使用許可も取ったからな。当分は大丈夫じゃろ。」 「本当に!助かったよ!」 この時ばかりは貂蝉と卑弥呼が輝いて見えた一刀だった。 卑弥呼の案内で寮に向かう一刀達。 その中で白蓮は何か事か考えていた。 「なぁ、翠。私達なにか忘れてないか?」 「そうか?あたしは、そんなことないとないと思うぞ。」 白蓮の質問に翠は特に考える素振りを見せなかった。 真面目に聞いているのにそんな答え方をする翠に白蓮は少しイラッとした。 「翠、おまえなぁ…。」 白蓮が翠に注意しようとすると、タンポポが入ってきた。 「白蓮さん、お姉様に聞いたのが間違いだよ。お姉様、頭使うの苦手なんだから。」 「なんだと。」 そう言われた翠が何か言おうとするが、タンポポに先を越される。 「それに、今思い出せないなら特に重要な事じゃないんじゃない。」 「そんなものか?」 「そうだよ。ほら、急がないと遅れちゃうよ。」 もう少しで出そうなのに出てこないそんな不快感を感じながらも、白蓮は先を急いだ。 「きー!斗詩さん、猪々子さん一体ここはどこなのです。」 「そんなの私達に訊いてもわかりませんよー。」 「っかしいなー、昨日は確かに斗詩の床に忍び込んだのになー。」 「文ちゃん、昨日そんなことしたの!?」 「だって、最近斗詩素っ気無いんだもん。」 「そんなことないって。」 「ところで、一刀さんはどこへ行ったんですの?」 「麗羽様、だから今探してるんじゃないですか。」 「あー、また一刀のこと考えてる。斗詩があたいから離れてくー。」 「違うから文ちゃん。七乃さん、華雄さん見てないで助けてくださいよ。」 「いや、私は武以外はちょっとな…。」 「私はお嬢様で手いっぱいなんですよぅ。」 「なーなーのー、疲れたのじゃ。蜂蜜水は無いのかえ。」 「ありませんよ、お嬢様。蜂蜜の入った荷物がなくなってたんですから。」 「妾は今飲みたいのじゃ。」 「なら一刀さんを見つけて荷物を探してもらいましょう。」 「それは良い考えなのじゃ。一刀はどこかえ。」 斗詩が頭を抱えているとガサガサと近くの草むらがなった。 「おお、そこにおったか。」 しかしそこにいたのは、 「獲物を見つけたのにゃー。」 「獲物にゃー。」「獲物、獲物。」「………獲物。」 「かかるのにゃー。」 「「「にゃー!」」」 「なんですのあれは。斗詩さん、猪々子さん蹴散らしてあげなさい。」 「流石にあたいでもあれと戦うのは…、なあ斗詩。」 「あんな子どもいじめるのはちょっと。」 「では、華雄さんお願いしますわ。」 「私も子どもに手を上げるのは気が引けるが、追っ払うくらいならなんとかなる。」 その後、麗羽達がいないことを思い出した白蓮の進言で捜索が始められ、日が暮れる前に美以達と一緒に発見された。