──真√── 真・恋姫†無双 外史 北郷新勢力ルート:星拠点 我龍天星 ─ワレ リュウトナリテ テントトモニアル─ **  反董卓連合軍へ合流する為の出発前夜──。  最早夜も更け、あとは寝るだけとなった深夜、一刀の部屋の扉を叩く音がする。  どうぞ、と声をかけると、 「申し訳ありませぬ、主。開けていただいてよろしいですかな?」 「星か?ああ、ちょっと待ってろ」  一刀が扉を開けると、そこにはやはり星がいて、その手には二つの瓶を抱えていた。 「少々良い“モノ”が手に入りましてな」  そう言って部屋に入った星は、机の上に瓶を置き、片方……口の狭い方の瓶の中身を、 どこからともなく取り出した二つの杯に注いだ。 「酒か?じゃあこっちは?」  一刀がもう片方……口の広い瓶を指すと、 「肴ですよ」  と、蓋を取って見せた。その中にあったのは── 「これは……メンマ?」 「ええ。町で美味いメンマ屋を見つけまして」  “メンマ屋”という部分に多少の疑問を感じもしたが、気にしないことにしておく。 「……って言うか、酒とメンマって合うのか?」  そんなふと思った疑問を口にした一刀に、星はものすごく驚いた顔で、 「なんと!……主よ……それを知らぬとは、人生の半分は損をしておりますぞ?」 「そ、そうか……じゃあ、試してみるか」 「ええ、是非に」  星に勧められ、実際にメンマを肴に呑んでみると、 「あ、美味い」  確かに美味かった。  若干甘めに作られたメンマが、辛口の酒によく合う。 「でしょう?」  一刀に美味いと言われ、本当に嬉しそうに言う星の様子に、自然と顔をほころばせ、 それからしばし、二人は黙して酒を進めた。  いかほどの時が過ぎただろうか。 「……それで、今日はどうしたんだ?」  沈黙を破った一刀に、星はふっと笑みを浮かべながら、 「美味い酒とメンマが手に入ったから……と言うのもありますが、今日は一日、 主が浮かない顔をなさっておいででしたので」 「あ〜……分かるか?」 「無論、主の事ですからな。……悩む事は結構。ですが、一度決めたならば、その道を貫き通しなされ。 上が揺れ動いていては、下の者達は尚のこと不安になりましょう」  星のその言葉は、一刀の悩みを的確に言い当てていた。  一刀はそれに驚きつつも、己の事を見ていてくれた事に嬉しくなる。 「月達の事……と言うより、本当に連合側に付いていいのか?……と言った所ですか」 「ああ」  星の推測にコクリと頷く。 「俺は、月達が間違った事をしているとは思って居ない。  寧ろ、その月達と敵対する側に付く事自体が、間違っているんじゃないか……  いっそのこと、風評なんて気にしないで、今からでも月達の側に付いてしまえばいいんじゃないかって言う想いもある」  そう己の思いを告げる一刀の顔に浮かぶのは、苦渋……いや、苦痛と言っても言い過ぎではないのかもしれない。  「……そうなさらないので?  先ほどは一度決めたならばと申しましたが、主がどうしてもと言うならば、皆反対はしますまい」  一刀を気遣うように、優しげに言う星の言葉に、一刀は「そうだな……」としばし考えると、 「俺と一緒に居るのが風に稟、星だけだったら……きっとそうしただろうな」  苦笑を浮かべながら言う。 「ふむ……思う様に行動するには、背負うものが増えすぎましたか」  星はそう呟く様に言った後、いつも浮かべる様な不適な笑みではなく、純粋な……本当に只の微笑を浮かべ、 「……そうですな、主よ。主は既に我等のみならず、多くの民の想いを背負う立場になりました。 ですが、だからと言って主が己が想いを押し殺すことはありません。そのために風や稟の知恵があり、私という力があるのですから。  ……世の者どもに如何様なる非難をされたとしても、主が己の志を貫く限り……この趙子龍、主の槍となりて、 如何なる障害も突き崩しましょう。  そしてもし……主が己が志を忘れ、道を外れた時は……この趙子龍、主が槍として、必ずや止めて見せます故に」  そう確りと目を見つめて星に言われ──どこか照れくさそうに、「ああ」とだけ言って、止まっていた酒を呷った。 「……その時は……頼りにしてるよ」 「ええ、必ずや。  我が槍と……そうですな、この美味い酒とメンマにかけて」  そして、再び訪れる、快い沈黙。  一刀の心から、迷いが無くなったわけではない。けれども──今回は、行うと定めた事を貫こうと、心に決めた。  大丈夫。自分には、心強い仲間がいるのだから。  夜は静かに更け往くのみ──。