白蓮の元へ劉備たちが訪れてから数日たったある日。 劉備たち、そして、俺と趙雲は白蓮に呼ばれ、城門へと訪れていた。 そこで、俺たちが目にしたのはここの兵たちの集合している光景だった。 「すごいね!全員、白蓮ちゃんの兵隊さんなんでしょ?」 劉備たちも、その光景に驚いているようだ。 正直、俺も驚きを隠せないでいる。 今まで、どれだけの兵が所属しているかを正確には知らなかったとはいえ、これほどとは思っていなかったからだ。 「まぁな、ただ、正規兵、義勇兵の混ざった混成部隊だけどな」 劉備の感嘆の声に、白蓮が説明をする。 「義勇兵はどれくらい集まったのですか?」 「そうだな、6割以上はいるだろうな」 「そんなにですか?」 「あぁ、最近、急激に増えたんだ」 関羽の質問に少し誇らしげに答える白蓮。 「すごいね。白蓮ちゃんの人徳かな?」 「いや、どちらかといえば北郷殿の案によるものですな」 「北郷殿の?」 素直に感嘆の声を上げる劉備への趙雲の補足に対し、聞き返す関羽。 「あぁ、治安向上を図った案なのだが、これによって人がこの街に集まり、それに比例して徴兵がうまくいったのだ」 「ほぉ、なるほど」 趙雲の説明に感心しつつこちらへ視線を向ける関羽。 「いや、俺はきっかけを作っただけさ。みんな、大陸の情勢に不安を感じているから集まってくれたんだと思うよ」 「確かに、それもあるでしょうな」 「うむ、確かに、最近、各地で盗賊だの何だのと、匪賊共が跋扈しているからな」 「この国はどうなっていくのだ……」 鈴々はそう言うと、顔を俯かせ暗い表情となる。 会話の内容のため、それぞれの表情が曇り始めた時、一人が口を開いた。 「多くの人々のため……誤った方向へは行かせぬさ。この私がな」 そう告げる趙雲の瞳には、何か強い意志を感じさせる光が宿っていた。 凛々しく、誇り高い、そんな横顔に俺が思わず見惚れていると 「趙雲殿」 「何かな?関羽殿」 「あなたの、志は素晴らしいものだと思う。もしよければ我らと盟友となってはくれぬか?」 「鈴々もなって欲しいのだ」 「あ、私も私も」 関羽の申し出に張飛、劉備も賛同する。 「ふむ、私もそうなりたいと思っていたところ」 「ではっ!」 「あぁ、ただ、北郷殿はよろしいのですかな?」 「え?俺?」 「北郷殿とて、この大陸に住む人々を救いたいと思っておられるのでしょう?」 「そりゃあ、思ってるさ。その為なら、俺に出来ることならば全力をもってするつもりだ」 「おぉ、さすが天の」 「天の御使いとして、とか関係なく一人の人間としてだからな」 天の御使いだという部分で判断されたくないため、思わず強めに訂正する。 「なるほど、趙雲殿が慕っているわけだ。なかなかに好人物のようだな」 「ふふ、そうだろう。この御方はとても興味深くてしょうがない」 「そんなに、不思議な存在でもないだろ俺なんて」 「そんなことないと思うな〜」 「その通りなのだ。でもお姉ちゃんも一緒なのだ」 「えぇぇ、私も!?」 「ふふっ、そうですね。私もそう思いますよ。桃香様」 「その意見には私も同意ですな」 「そうだな」 俺のことを変わってるみたいに言っていた劉備が逆に周りから言われる。 そんなやりとりで、更に場が笑いに包まれる。 しばらく、笑いあった後、趙雲が仕切り直す。 「では、我が真名を四人に預けるとしよう。星と呼んで頂きたい。よろしく頼む」 度々、見せる凛々しい表情で告げる星。 「私も、真名を預けよう。これからは、愛紗と呼んでもらいたい。よろしく頼む」 星に負けず劣らず凛々しさを漂わせながら自己紹介を行う。 「鈴々の真名は、鈴々なのだ。よろしくなのだ」 両手を挙げ、あふれんばかりの笑顔で自己紹介をする鈴々。 「私は、桃香だよ。よろしくね」 劉備、いや桃香が笑顔で告げる。 「みんな、よろしくな。俺には真名は無いから、よければ名前を呼ぶときは『一刀』って呼んでくれ」 「では、今後ともよろしくお願いしますぞ。愛紗、鈴々、桃香殿、そして、一刀殿」 「あぁ、今後とも頼む。星、一刀殿」 「わかったのだ、星。それと、鈴々はお兄ちゃんのままで呼びたいのだ」 「もちろん、それでも構わないよ」 「にゃはは、よかったのだ」 「よかったね鈴々ちゃん。それと、よろしくね。星ちゃん、一刀さん」 四人がとてもいい笑顔を向けてくれる。その光景に思わず見惚れてしまう。 と、そこで 「おーい、私のことを忘れてないか〜?」 どこか、寂しげな白蓮がこちらへと来る。 「別に忘れてないよ。白蓮ちゃん」 「そうだぞ、あ、そうだ良かったら白蓮も俺のことを一刀って呼んでくれよ」 「な、なななな、何言ってるんだ。私は、別に」 白蓮はそういって、俯いてしまう。 そんな様子から察するに、また余計なことを言ってしまったのだろう。 俺ってやつは…… 「そうだよな、こんなこと言われても困るのが普通か……」 「い、いや、そんなことないって。お前の信頼の証なんだろ、なら呼ばせてもらうぞ、一刀」 「ありがとう。白蓮」 頬を真っ赤に染めつつ慌てた様子ながらも、全力で答えてくれた白蓮と見つめ合う。 それから、しばし見つめ合っていると――― 「おやおや……白蓮殿こそ、我々をお忘れですかな?」 「―――!!??、ば、馬鹿言うな!忘れてなんていないって」 星の突っ込みに更に真っ赤になった白蓮が返す。 それから様々な会話を楽しんだ後、ようやく陣割が決定した。 桃香たちは左翼、趙雲と俺が右翼を率いることになった。 新しく参入した桃香たちや、経験不足の俺に任せるのは信頼の現れなのだろう。 俺は、その信頼に答えるためにも頑張ろう。きっと、彼女たちもそう思っているはずだ。 そんな風に色々考えていると、 「諸君、いいか!」 白蓮が兵隊たちへ向けて演説を始める。 「いよいよ、出陣の時が来た!今まで、幾度となく奴らとは相まみえ討伐してきた!  だが、奴らは、その度に逃げ散っていた」 一端、区切り、大きく息を吸う白蓮。 「いいか!今日こそ、奴ら賊共を成敗……いや、そんな言葉では生ぬるい!  そう、殲滅してくれようではないか!」 その言葉に、俺の喉がごくりとなる。 「公孫の勇者たちよ、巧妙の好機だ!手柄を立てたければ、各々、全力をもって戦ぇい!」 「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ―――――――!!!!!」」」」 公孫賛の声に、兵たちが大地をふるわすほどの声で答える兵士たち。 そんな、兵たちの様子に満足した公孫賛は 「さぁ、出陣だ!」 剣を掲げ、号令を出す。 その号令を合図に、城門から出発する。 出陣の流れの中で、俺の横に居る星が声を掛けてくる。 「どうかなされましたか?」 「いや、ちょっと緊張しちゃってな」 前の世界では、結局慣れることはなかったとはいえ、かなりの経験を重ねた。 しかし、この世界にきてからはさっぱりだったためか、戦場へ向かうことを考えると体が硬くなる。 どうやら、感覚が鈍ってしまったらしい。 「ふむ……怖いのですかな?」 「ん?まぁ、恐怖は感じるさ……でも、俺は白蓮を支えることを決めた。それに、ここにきてから仲間もできた。  それに、それだけじゃなく、街のみんな、近隣の村の住人たち、俺の周りだけでも、誰かが守ってあげなきゃいけない  人たちがあれだけいる。なら、俺はそんな人たちを守るため、戦う!……そう、決めたんだ。だから、逃げないし目をそらさない」 「よい心がけです。その想いを忘れずにいてくだされ。さすれば、一刀殿の身は、この趙子龍がお守りしましょう」 「はは……なんか格好つかないよな。偉そうなこといって星に守ってもらうなんてさ」 「ふふ……人には出来ぬことの一つや二つあるもの。それを認めることこそが成長の早道となります。ですから  私に守られる今をを恥じるのではなく、心に刻んでくだされ」 「あぁ、わかった。俺は、決して忘れたりしない。そして、誰かに守られなくてもせめて自分の身を守れるようになる。  そして、何らかのかたちででも、誰かを守れるようになる」 これはあの世界との『別れ』によって刻まれた『後悔』と共に俺の中で生き続ける想いだ。 「ふふ……きっと一刀殿は良き男になられるのでしょうな」 口に手を添えつつ、意味ありげに笑みを浮かべる星。 「おいおい、変な期待して……裏切られても知らないぞ……」 「おや?裏切るのですかな」 「さぁな、それはこれからの話だろ?」 「ふ……それもそうですな」 互いに、軽口をたたき合う。気がつけば俺の震えは収まっていた。 星と会話をして心が落ち着いてきたとき、こちらへ兵が向かってくる。 「全軍停止せよ、これより我々は鶴翼の陣を敷く!総員、準備せよ!」 本陣から前衛へと駆ける伝令を聞き、鶴翼の陣を敷くため動く。 「いよいよ……か」 新たな世界で、俺は再び戦場に立っている。これから目の前で多くの命が失われるのを見ることになる…… かつての世界でも、その場に居合わせ、何度も見てきた戦場。その中で奪い、奪われた命…… そんな、命のやり取りを間近でこの目で見てきたけれど、慣れることはなかった。 そんなことを思い出しつつ、改めて気を引き締める。 「では、兵たちの指揮は私が務めます。一刀殿は、今回は見ていてくだされ」 「そうだな、俺が出しゃばれば足を引っ張る。だから、今は諦める……」 「そう、今はそれでよいのです。では」 「あぁ、気をつけてくれよ!」 「えぇ、油断などいたしませぬゆえ、安心して見送ってくだされ。 さぁ、趙雲隊の兵よ!  我と共に賊共を蹴散らしてくれよう!奴らは兵数で我らを上回っているが、雑兵の集まりにすぎぬ。  気後れする必要などないのだ!されど、慢心はするな!完膚無きまでに叩きのめすのだ!」 星の凛々しい声が辺り一帯に響く。 「「「「おう!」」」」 そんな、星の迫力にまけないくらいの気合いを込めて兵たちが返事をする。 「全軍、戦闘態勢を取れ!!」 星のかけ声に合わせ兵たちが抜刀する。 「賊軍、こちらへ突出してきました!」 それと同時に、賊軍が攻め込んでくる。 「よし!行くぞ、奴らに我らの力を思い知らせてくれよう!」 そんな、星の声が合図となったかのように、両軍が激突する。 兵数こそ賊軍が勝る者の、調練を積んできた兵と比べれば力の差は歴然だった。 部隊ごとに、敵を撃破していくのが確認できる。 中でも、星の活躍は凄い、何人もの敵を一人で相手にしながらも寄せ付けない。 そんな星を補助するように周りの兵も上手く動き、敵兵を減らしていく。 そして、こちらの攻撃により賊軍がひるむのを確認すると 「よし、敵は総崩れだ!今こそ、奴らを完膚無きまでに殲滅する好機!ここで、雁行の陣へと移行しつつ  敵を挟み撃ちにする!皆、私に続けぇ!」 星が、周囲の兵に、檄を飛ばしながら、さらに敵兵を蹴散らす。 それに呼応するように、兵たちがさらに勢いづく。 その勢いのまま、右翼と左翼が中央に集まった敵を挟み込む。 それでも、何とか逃げようとする賊軍の残りを騎射を行える白馬隊が補足、撃破していく。 その様子は、白馬義従の名が伊達ではないことを思い知らせるのに十分だった。 こうして―――― 戦闘は終始圧倒的に行われ、賊軍の撃破に成功した。 終わってからしばらくは、俺にとって久しぶりの戦場だったためか、気分が悪くなったが帰り支度が済んだ頃には気分も 幾分かは楽なっていた。 そんな俺の様子を見て、みんなが色々と声を掛けてくれた。 俺の抱く感情は人として当たり前のことだといったことや、むしろ、そう思える心を持ち続けるべきだとか、気遣ってくれる言葉が 気分を楽にしてくれた。 そして、城へと帰還する途中、白蓮がご機嫌な様子でしゃべり出す。 「いや〜快勝だったな。奴らにはずっとやきもきさせられていたからな、やり遂げたって感じがするな」 「しかし、白蓮殿。近頃は、なにやら雲行きが怪しいとは思いませぬか?」 ご機嫌な白蓮に、真剣な表情で星が告げる。 「怪しい?私は気づかなかったがな」 どうやら、白蓮にはいまいち伝わっていないようで首を傾げている。 「白蓮殿、私も星の言うとおりだと思います。近頃は匪賊どもの動きも活発化しているようですし」 「……確かに、言われてみるとそうだな」 愛紗の指摘に、白蓮も何か思い当たったのだろう、納得する。 そこから、さらに大陸全土で起こっている様々な事態に関して語り合う。 「そう遠くないうちに、動乱が起こる……か」 彼女たちの会話を聞きながら、かつての世界で俺が初めに関わった戦いを思い出す。 「一刀殿もそう思いますか」 何気なく口にした俺の言葉に、愛紗が聞き返してくる。 「あぁ、きっと起こる……それも、かなり大きな爆発となって」 「ふむ、一刀殿は何か確信をお持ちのようですな」 断言する俺を、星が興味深そうに見てくる。 「まぁな……きっと、悪い循環が大陸全土を包み、最終的に暴動が起こる」 「そうか……一刀がそう言うならきっと起こるんだろうな」 「そうですな」 俺の言葉に、不思議と同意してくる二人 「そんな、中で私たちに何が出来るかが重要になるってことだよね?」 桃香が、彼女にしては珍しく表情を引き締めて告げる。 「そうですね、動乱の渦に巻き込まれれば今以上に涙に濡れる人々が現れるでしょう」 そんな言葉に愛紗が同意する。 「そんな人たちのためにも、鈴々たちは頑張るのだ!」 片手を天に衝き上げながら元気いっぱいに告げられる鈴々の言葉。 その言葉は、ここに居る者たちの思いを表している。 「そうだな……」 思わず同意の言葉が口をついていた。 そんな言葉を告げながら、見上げた空は、これから、この世界に訪れる未来を暗示しているかのように荒れ始めていた。