「そこの者、少々よろしいか?」 「ん?何?……!!」 声を掛けられて振り返った俺の目に映ったのは女の子だった。 先程出会った女の子と似た感じの白と緑を基調とした服と紺色のスカートといった格好をしている。 「今、私は我が主のために兵士を集めているのだが働いてみないか?」 「え?いや、俺は……」 「見たところ商人のようでもなく、かといって職人でもないのだろう?」 「あ、あぁ……」 「それに、かといって農民でもないように見える。それにここの領主の臣下でもなさそうだ」 「まぁ、確かにその通りといえば、その通りかな」 「ならば、無駄に時間を浪費せず人々のために戦おうとは思わぬか?」 「え?まぁ、俺も多く人たちを守れるようになりたいとは思っているけど……」 「そうか、ならば話は速い。我らは人々のために戦おうとしているのだが。  我らについてこようという者がいなくてな。お主と我らの目指すものが同じならば共に立ち上がろうではないか!」 「え?え?」 「さぁ、共に行こう!」 「へ……?」 「善は急げだ。走れ!」 「えぇぇ!?」 俺が何も言えないでいると、黒髪の女の子に引っ張られながら連行される。 しばらく引っ張られ、目的地に到着後、彼女から包みを渡される。 「さぁ、この程度しか用意できなかったが、使ってくれ」 そう言って包みをとくと、中には不格好な鎧やら兜やらが入っている。 「え、えぇと」 「気にしなくていいぞ、さぁ、受け取るがいい」 「は、はい」 戸惑う俺に、彼女が笑顔で告げる。 情けないが、彼女の発する空気には逆らえない…… 俺が、受け取ったのを確認し、彼女が呟く。 「さて……ようやく一人か……」 「なぁ、もしかして、人を集めているのか?」 黒髪の女の子の言葉に対して尋ねてみる。 「あぁ、これから、『とある人物』に会う予定でな、それまでにある程度、人数を集めておきたいのだ」 「この鎧や兜から考えると、兵が必要なのか?」 「あぁ、予定ではそうだ」 「で、俺が一人目だと?」 「あぁ、その通りだ。なかなか我らと共に立とう、という者がおらぬのでな」 渋い顔をしながらの返答を聞きつつ考える。 (何とか、助けたいが……どうするべきか) ある理由から、この黒髪の美しい女の子と出会った瞬間から手助けをしようとは思っていた。 けれど、予想していなかった問題にどう解決するべきか悩む。 「……兵はすぐ集める必要があるのか?」 「どういう意味だ?」 「いや、人数が重要なのか、『兵』であることが重要なのかってことだよ」 「それは、兵に決まっている」 「何故?」 「無論、私と仲間が兵たちを束ねる力があることを証明するためだ」 「ん〜それなら兵でなくてもいいんじゃないか?」 「何?それはどういう……」 「つまり、その人物に会う時だけ、何人かはわからないが多くの人たちに兵の格好をさせるってこと」 「何と、相手を騙せと申すのか!」 「ま、まて、落ち着け、確かに心苦しいとは思う。だけど、俺に声を掛けた時のように頼むだけじゃあ  人は集まらない」 俺の言葉に対し、明らかに殺気のようなものを放つ彼女を宥めつつ理由を話す。 「た、確かに一理あるかもしれぬ……」 どうやら、心当たりがあったのか彼女は納得する。 「だろ、本来は、雇うのが一番だけど、それなりのお金が必要となる……」 「それは、私とて考えたことだ。ちなみに手持ちはまったくない」 「そうなると、やっぱり、人数を集めるしかないだろうな」 「しかし、人数を集めるにしても本当に手持ちがなくてな……」 そういって彼女が見せたのはほんの少しの硬貨だった。 「う〜ん、確かにこれじゃあ厳しいな」 「……」 「どうするべきか……よし!」 「何か考えが浮かんだのか?」 「まぁ、一応な……ちょっと待っててくれ」 そう告げて、俺は心当たりを当たり始める。 … …… ……… 数十分後、それなりの人数を集め、再び彼女の元へ戻る。 「おーい、待たせたな」 「おぉ、結構な人数を集めたものだな。いったいどのような方法で集めたのだ?」 「まぁな、集めた方法については秘密だ」 「まぁ、追求している暇はないので聞かないでおこう。では、早速、我が仲間のもとへ行くとしよう」 「へ?」 「何をしている。共に立ち上がる約束をしたではないか。ほら、鎧と兜を着けないか、すぐ出発なのだぞ」 爽やかな笑顔を浮かべ俺を急かしてくる。 「だ、だから」 「話なら後で聞く、だからはやく用意を済ませぬか」 「い、いやだから」 「もたもたするな」 「は、はぃ……」 あまりの迫力につい返事をしてしまう。 そうして、結局彼女の『仲間』の元へと連れて行かれることになった。 「ただいま戻りました。なんとか人数も必要なだけ集まりましたよ」 「おかえり〜、うわ〜結構いるね。すごい、すごいよ!」 「さすがは、姉者なのだ」 「いえ、いろいろありまして、説明は後々いたします」 何やら、ぎりぎり聞き取れないくらいで二言三言交わしたあと、黒髪の女の子がこちらを向く。 話していた相手はどうも先程出会った、肉まんをあげた二人の女の子のようだ。 兜を深くかぶっているせいか、俺には、気づいていないようだ。 「さて、この御方が、わが主であらせられる、劉備様だ。もし、向こうで聞かれるようなことがあった際に  間違えることのなきよう頼むぞ」 「劉備です。皆さん今日はよろしくお願いしますね」 (彼女が劉備!?やっぱり、俺のいた世界と異なるのか……) 俺が『あの世界』で出会わなかった人物の登場に頭が混乱してしまう。 「こちらが我が義妹の張飛」 「よろしくなのだ」 「そして、私が関羽だ。今回はよろしく頼むぞ」 「それじゃあ、紹介もすんだしさっそく行こうか」 「そうですね。では、皆の者ついてまいれ!」 彼女たちの準備が出来たようで、出発の声があがる。 (これで、俺の役目も終わったかな……) そう思い、この場を後にしようとする…… 「ん?どこへ行く?」 「あぁ、俺はこれで失礼しようかなって」 立ち去ろうとしたところで関羽に呼び止められ、理由を伝える。 「お主は、我らと道を同じくする者ではなかったのか?」 「……目指す場所は同じだと思う。ただ、俺はすでに道を歩み始めてるんだ。だから一緒には……」 「そうか……わかった。我らと共に歩めぬのだな……」 「あぁ」 「そうか……」 そういって、表情を曇らせる。 「だけど、まだ俺に手伝えることがあるならやるよ」 「ならば……もう少しだけ付き合ってもらえぬか?」 「あぁ、乗りかかった船だ、もちろん構わないよ」 「すまぬ、感謝する」 「気にしないでくれ。かわいい女の子が困ってるのなら助けるのが男ってものなんだから」 「……」 「さ、行こうか?」 急に黙り込んだ彼女に語りかける。 「あ、あぁ……そうだな」 「目的地までついて行けばいいのか?」 「いや、できれば今回の件が終わるまでは一緒にいて欲しい」 「わかった。じゃあ、俺は偽物じゃない兵ということにしておいてくれ。あの二人にもそう伝えておいてくれよ」 「あぁ、それでは、今度こそ出発する。よいか!!」 「「「おう!」」」 「では、これより城へ向かう。くれぐれも粗相のないよう、気をつけるのだぞ!」 そう告げ、彼女たちは進んでいく……ん?城? なんだか嫌な予感が……しかし、手助けすると約束した以上、逃げるわけにもいかない。 (まぁ、いろいろ身に付けてるしバレないだろう……) なんとかなるさ―――そう思いつつ、さらに顔を隠すために布で口元を隠し、覚悟を決める。 城へ到着し、集めた男たちは待たせて、中心人物である三人の女の子が玉座の間へ通されることになった。 俺はというと……何故か、関羽に引っ張られるように玉座の間へと連れて行かれた。 「どうぞ、お入りください」 入り口に立っている兵士が入室の許可を出す。 「失礼します」 「失礼いたします」 「失礼するのだ」 先頭にいる彼女たちから玉座の間へと入っていく。 その二、三歩程後に続くようにして俺も入室する。 部屋に入室した後、部屋の主が少女たちへ歩み寄る。 「よくきたなー、『桃香』廬植先生の元を卒業して以来だな」 おそらく、あの桃色の髪をした女の子、劉備の真名かな? というか公孫賛に会いに来たんだな、やっぱり……。 「そうだね『白蓮ちゃん』。久しぶり〜」 へぇ、公孫賛の真名なんて初めて知ったな。 前の時は……いや、思い出してもしょうがない……か。 「でも、すごいね〜、今じゃ太守様でしょ。すごいよー」 「まだまだだよ、私の目標はもっと先にあるんだ」 「さっすが白蓮ちゃんだね」 「私だって武人だからな。で、桃香はどうしてたんだ」 「私はね……」 二人はどうやら旧知の仲だったようで二人で会話が進んでいく しばらく会話を続けた後。 「で、最近はどうしてたんだ? 桃香」 「仲間と一緒にあちこち回ってたんだ」 公孫賛と劉備がこちらへ視線を移す。 「仲間って言うのは、その後ろにいる者たちか?」 「うん、そうだよ」 「そうか……ところで、今日はいったい何の用があってきたんだ?まさか挨拶のためだけじゃないんだろ?」 「う、うん。実はね、白蓮ちゃんが盗賊退治をしてるって聞いて、そのお手伝いをさせてもらいたくて、だめかな?」 「そうだな、聞くところによると、それなりの数の兵を連れていたと聞いてはいるんだが……」 「うん……」 「で?」 「でって何かな?」 「何人が本当の兵士なんだ?」 「え、えぇと……」 「桃香……私だって太守を務めてるんだ。それなりに見抜く力はもってる」 「ごめんね……」 苦笑する公孫賛と申し訳なさそうにする劉備。 「公孫賛殿、この作戦の責は私にあります。桃香様は何も悪くありません」 俺が、前に出るより速く黒髪の女の子が前に出る。 もちろん、彼女も悪くないと知っている俺はさらに前に出る。 「いや、本当に悪いのは俺だ。これを考えたのは俺だ」 正直に告げる。さすがに声で気づくと思ったが、顔に巻いた布によって声が くぐもったため俺だと気づいていない様子だ。 そこで、素顔をさらそうとするが、それを遮るように公孫賛がしゃべり始める。 「いや、気にはしてないんだ。ただ、友としての信義をないがしろにするようでは、人はついてこない。  そのことは気をつけろ。ってことを伝えたかっただけだ」 「やはり、誠心誠意で当たっていった方が良いということですか?」 「いや、判断して赤心を見せろってことだ」 「成る程、相手の本質を見抜けと」 「そういうことだ」 二人の会話から、ただ真心を見せるのではなく、見極めも大事だと学べた。これは心に刻んでおこう。 俺は改めて、公孫賛は太守をつとめるだけの人間なんだと思い知らされた。 「公孫賛殿のご助言、大変勉強になりました。まことにありがとうございます」 「や、やめてくれよ。ただの老婆心なんだから」 そう言って、公孫賛は照れて顔を真っ赤にする。ほんと、可愛らしいな。 「そ、それよりも兵の数はいくつなんだ?」 「じ、実は一人しかいないんだ……」 「ひ、ひとり!?」 「うん!ここにいる人がそうなんだ、手前にいる二人は元からの仲間で……」 そういえば、劉備には兵ということで話を通してあったんだっけな。 「確かに、二人は兵という感じではないな、ということは、その後ろの奴か……」 「うん、そうだよ。そうだ、紹介がまだだったね」 「そういえば、そうだな」 「では、私からさせて頂く。姓は関、名は羽 字は雲長。桃香様の第一の矛です。以後、お見知りおきを」 「鈴々は、姓は張、名は飛で、字は翼徳なのだ!!強さには自信があるのだ!」 「よろしく……と言いたいところだが、正直まだ力量が分からん。桃香?」 俺は、一般兵と言うことになっているため。名乗る必要はないようだ。 「二人とも、すっっっごく強いんだよ!」 「うーん、そう言われてもなぁ……」 悩む公孫賛、その後ろからこの部屋に居たもう一人の人物が動く 「おや、見抜く力が大事だと語ったのに力量が見抜けないのですかな?」 「う……返す言葉がない……だが、『趙雲』は分かるのか?」 公孫賛が、部屋に居たもう一人の人物……趙雲に尋ねる。 というか……警邏中に消えた後は、城に戻ってたのか? 「えぇ、当然です。武を志す者ですから、姿を見ただけで只者ではないと分かるというもの」 「まぁ、お前がそう言うなら信用できそうだな」 「どうですかな? 関羽殿」 「えぇ、そういう貴女も大層な腕をお持ちだとお見受けするが」 「鈴々もそう思うのだ」 「ふふ……さて、どうだろうな」 相変わらずの微笑を浮かべつつ答える趙雲 「おい、趙雲。自己紹介くらいしたらどうだ?」 「それも、そうですな。では改めて、我が名は、姓は趙、名は運、字は子龍。  伯珪殿の元で客将をしている。以後お見知りおきを」 「こちらこそ、よろしく頼む」 「よろしくなのだ」 「よろしくお願いします。それと、私は、姓は劉、名は備、字は玄徳です」 趙雲子龍、そして劉備玄徳が自己紹介をして、ひとまず話が終わる。 「ところで、そこにいる者については触れぬのですかな?」 趙雲の言葉によって、すっかり、空気となっていた俺に注目が集まる。 (……あれ?趙雲、今笑った?) こちらに視線が集まった瞬間、趙雲が面白そうに微笑を浮かべ直すのに気づいた。 (ま、まさか気づいてるのか……) 確認のため趙雲の方を伺う。 「……二ヤッ」 (笑った、今絶対笑った。公孫賛が気づいてないのを楽しんじゃってるよ……) さりげなく、俺と公孫賛を見比べている様子から判断する。 俺の様子に気づくことなく、公孫賛が俺を話題にする。 「そうだな、兵一人の自己紹介を聞くくらいの余裕はある。どうだ桃香?」 「うん、そうだね。実は私も知ってるのは愛紗ちゃんが連れてきた人ってことだけだし」 「じ、実は私も名前を聞くのを忘れておりました」 「にゃはは、愛紗は間抜けなのだ」 「うっ、……それと、実を申しますと、この者は兵ではありません」 ここにきて、隠しようがないと感じたのか、真実を告白する。 「え?そうなの?」 「では、何者なんだ?」 「そうですね……協力者、といったところです」 「「協力者?」」 「えぇ、公孫賛殿の元を訪ねる準備をいろいろと手伝ってもらいました」 「なるほど、それで先程の件での謝罪か……」 「はい」 「しかし、関羽が責任を背負うととした時に、すぐ名乗り出たのは感心したぞ」 「そうですね。他者に頼った私が負うべき責を代わりに背負われたのは驚きましたね」 「うんうん、愛紗ちゃんに任せっぱなしにしてれば、自分は責任を負わなくてすんだのに  それでも、名乗るっていうのは、なかなかできないもんね」 「きっと、いい奴なのだ」 「そうですな。この者は人が良いのでしょうな。ふふっ」 会話が盛り上がるにつれ、俺の気分は盛り下がる。 (なんか、いい人みたいに、言われてる……しかも、本質を見抜けなんて話の後でこれはまずい 下手をすれば……) 最悪な結果を想像し身震いする。 「では、自己紹介をしていただけますかな?」 趙雲が自己紹介の催促をするが、ふと何かに気づき再び口を開く。 「それと、自己紹介の前にその暑苦しい兜や顔を覆う布を外してはいかがですかな」 「趙雲殿の言うとおりだな、太守殿の前にいるのだ、そのままというのは、失礼だろう」 自己紹介どころか素顔をさらす状況へと変化する。 (やっぱり気づいてるんだな、趙雲……) 「もう、頃合いだと思いますぞ?」 「ん?何を言ってるんだ?趙雲」 「ふふ……この者が素顔をさらせばわかりますよ」 その言葉によりさらに注目が集まる。 「……」 さすがに、限界だ。 (これ以上、騙すようなことは出来ないもんな) 俺は、顔を覆う装備を外すと同時に頭を下げる。 「公孫賛!実は、今日は仕事を途中で抜けて、この人たちと一緒にいたんだ!すまない!」 「え!?ほ、北郷!!!?」 「ふふ……やはり、北郷殿でしたな」 「あぁ、さっきの人!」 「ほんとなのだ!」 「え?桃香様?それに、公孫賛殿まで……」 素顔をさらした俺を見てそれぞれの反応が返ってくる。 「北郷……何やってんだお前は」 あきれた口調で問いかけてくる公孫賛。 「す、すまない。どうしても放っておけなくてさ、もちろん俺が勝手にしたことで  この三人に責任は一切ないんだ。本当に申し訳ない」 「またか……本当にお前は、他人を放っておけないんだな」 「お、怒ってないのか?」 「はぁ〜……お前のお人好しに対するあきれが大きすぎて怒る気にもなれないって」 「は、はは……いやぁ、本当に面目ない」 「まぁ、それはいいとして。お前も自己紹介をしたらどうだ?」 「あぁ、そうだな。それじゃあ、俺は姓は北郷、名は一刀。真名は無い。  一応、客将(仮)って扱いになってる。 あと、呼び方は好きによんでくれていいから」 「はい、よろしくお願いしますね。北郷さん」 「よろしくお願いいたします。北郷殿」 「北郷のお兄ちゃん、よろしくなのだ!」 俺が自己紹介が終わると、公孫賛が口を開く。 「そういえば、桃香たちとも別件で知り合ってるようだが?どうなんだ?」 「実はね、私たちが困ってた時に助けもらったんだよ。白蓮ちゃん」 「何、そうなのか?」 「うん、実はね……」 劉備が、先程の出来事を鮮明に語りだす。 「そのようなことが、北郷殿、私からもお礼を言わせて頂きます。」 話を聞いた関羽が頭を下げてくる。 「や、やめてくれよ。元々、原因は俺にあるんだから」 「ふふ……北郷殿らしい言葉ですな」 「まったくだ。ところで、今の話を聞いて思ったんだが、聞いてもいいか、桃香?」 「ん、何?」 「桃香たちは手持ちがないって話だが、なら、どうやってあれだけの人数を集めたんだ?」 「ん〜それは、私も知らないんだよね。どうなの愛紗ちゃん?」 「申し訳ありません。集めたのは北郷殿ですので」 「それじゃあ、北郷さん。どうやって集めたんですか?」 「い、言わないとだめか?」 「「「「……ジー」」」」 あまり興味のなさそうな張飛をのぞく四人の視線が俺に注がれる。 「わ、わかったよ。説明するって」 「うむ、正直なのはよろしいことです 「そうだな」 「うむ、その通りだな」 「うんうん、そうだね」 趙雲の言葉に、三人が頷く。 「実は、作戦はいたって単純なんだよ、この街にいる知り合いやその人の知り合いの中で  現在仕事がなくて時間の空いてる人に頼んだんだ。礼金は後払い制にしてな。  ちなみに 礼金については、給金が入ったらすぐに渡す予定だ、ただ、後払いだけじゃ  納得出来ないだろうから、手付けとしてほんの少しだけど、手持ちから渡して  納得してもらった」 「お、お前はどれだけ阿呆なんだ……」 公孫賛が頭を抱えながら言う。 「な、何故なのですか?」 「え?」 「何故、我々のためにそこまでしてくださったのですか?」 「そりゃあ、女の子が困ってるんなら多少の無理をしてでも助けるのが男だからかな」 「そ、そんな理由で……」 驚愕の表情を貼り付け、関羽が俺を見据える。 「いやいや、俺的には、理由としては十分なんだよ」 本当は、関羽と張飛を助けたいという思いもかなりあったけど、と心の中で付け加える。 二人を助けたいと思った理由は、趙雲や公孫賛と同じく『あの世界』で大切な人だったからなわけだが。 「ふふ……関羽殿、いつもこうなのだ。この御方は」 「なんと、それはすごいな」 「まぁ、何といっても『天の御使い』なのだからな、それもしょうがないのであろう」 「な、なんと!?」 「ええぇぇぇぇぇ!」 「そうなのか!?」 趙雲の説明に、三人が驚きをあらわにする。 「天の御使いというと、あの管路の占いに出てくる、あの?」 「そのとおり、この者が天より舞い降りたところに伯珪殿が居合わせてな、連れ帰ってきたのだ」 「へぇ〜、すごいね白蓮ちゃん」 「いやいや、、たまたまだって」 「しかし、天の御使いであられたのですか。ならば、この御方の行動も納得できるな」 「うん、優しいのも、天の国の人って言われると納得できるね」 「も、もう、やめてくれ。恥ずかしすぎる。それと、天の御使いだなんて呼ばれてても、俺自身は大したことないんだから  かしこまった態度はしないでくれよ」 話が恥ずかしい方向に向かったので割り込みつつ、釘をさしておく。 「良かったなぁ、大人気じゃないか……」 何故か、公孫賛が少し機嫌悪そうにしている。 「そ、それより、この人たちはどうするんだ。公孫賛?」 「そうだね、白蓮ちゃん。私たちはどうなるの?」 「ん?あぁ、良い人材も少ないし、色々大変だからな。是非とも迎え入れさせてもらう」 「どうも、ありがとう」 「ありがとうございます。公孫賛殿」 「ありがとうなのだ。公孫賛のお姉ちゃん」 「こちらこそ、よろしく頼むぞ。それと、私のことは『白蓮』でいい。  友人の友だ、それに二人とも力量も申し分なしのようだからな。真名を預けるに値するだろう」 「ありがとうございます。白蓮殿。ならば、我が真名もお預けいたします。真名は『愛紗』です。  今後ともよろしくお願いいたします。」 「ありがとうなのだ!鈴々は、鈴々って言うのだ!」 「あぁ、わかった。二人ともよろしく。……それと、いい機会だし、趙雲。お前にも我が真名を預ける。今後もよろしく頼むぞ」 「えぇ、わかりました。私も白蓮殿に真名を預けるとしましょう。我が真名は『星』です。今後ともよろしく頼みますぞ」 「あぁ……そ、それと、ほ、ほんぎょ……こほんっ、北郷も私の真名を呼びたいのなら……そ、その……よ、よんでいいぞ……」 「あぁ、ありがとう『白蓮』」 「!!??」 妙な雰囲気をまといながらだったが、白蓮が俺に真名を預けてくれた。 それをものすごく、嬉しいと思うのと同時に彼女を支えることができるようになりたいとも一層強く思った。 そんな感情が少しでも伝わるよう真っ直ぐな気持ちでお礼を言ったのだが白蓮は俯いてしまった。 「も、もしかして白蓮ちゃん……」 「わーわーわー、そ、そんなことないって」 「え〜、本当かなぁ?」 「本当だって、そんなことないんだって」 「おや、私も劉備殿と同じ考えなのですが?」 「だから、そんなことないんだよ!」 「え〜」 「いえ、明らかに……」 劉備の何かに気づいたような一言から、よくわからない会話を始める劉備、白蓮、趙雲と その内容がよくわからず聞き手に回る関羽という構図ができあがっていた。 そんな中、張飛が俺の元へと歩み寄ってくる。 「おにいちゃん」 「ん?どうした?」 「さっきは肉まん、どうもありがとうなのだ」 「あぁ、あれは俺の詫びなんだから気にしなくていいのに。わざわざありがとうな」 そういって彼女の頭をなでる。 「にゃ〜」 頭をなでる俺の手をくすぐったがりながらも、どけようとはしないことに安堵し、さらに撫で続ける。 彼女の頭の手触りの良さに、和む俺と、なで続けるにつれ目を細めまったりしはじめる。張飛。 そんな、穏やかな雰囲気に包まれた俺たちを他所に、未だに趙雲たちは同じ内容の話を続けている。 劉備と趙雲の二人が白蓮を追い込んでいるようだ。そして…… 「そんなんじゃないったら、ないんだぁぁぁぁぁ!!!!」 顔を真っ赤にさせた白蓮の必死な叫びが玉座の間に響いたのだった。